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未来社会をどうデザインしていくか-「シン・ニホンと万博」ONE JAPAN特別セッション【ONE JAPAN CONFERENCE 2020 CULTURE⑥】

新型コロナウイルス感染拡大に大きく揺れた2020年。今年は、延期された東京オリンピック・パラリンピックの開催を控え、2025年には大阪・関西万博の開催も決定するなど、世界的イベントが目白押しな日本。この2025年をバックキャストに、私たちはどう歩めばいいか。
「AI✕データ時代」における日本再生と人材育成を提言した『シン・ニホン』著者の安宅和人さんと、大阪・関西万博テーマ事業プロデュ―サーの宮田裕章さん、中島さち子さんという今、一番注目される3人の専門家に「未来社会をどうデザインしていくか」たっぷりと話していただいた。

【登壇者】
■慶應義塾大学 環境情報学部 教授 / ヤフー株式会社 CSO /「シン・ニホン」著者 安宅和人さん
■steAm, Inc. CEO、ジャズピアニスト・数学研究者・STEAM教育者 中島さち子さん
■慶應義塾大学 医学部 医療政策・管理学 教授 宮田裕章さん

【モデレーター】
■ONE JAPAN 副代表 / NHK 2020東京オリンピック・パラリンピック実施本部 副部長 神原一光

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■「夢を描く力」をうまく使えば、日本は世界で勝ち抜ける

【神原】安宅さんは著書『シン・ニホン』(NewsPicksパブリッシング)の中で、日本の大きな武器は「SF力」だと書いていました。それを踏まえた上で、これからの日本は勝ち筋をどこに見い出せばいいのでしょうか。

【安宅】『シン・ニホン』に書いた内容の一番の骨格は「日本はやるべきことをやってないだけなので、それさえちゃんとやればよくしかならない」ということです。

日本の問題は大きく2つあります。1つは作るべき人材像がかなりズレているけど、全く刷新されていないこと。2つ目はしかるべきところにしかるべきリソースが充てられていないこと。いい未来を作るためには、我々が思い描く未来や夢や課題意識を技術的に解いて、デザイン的にパッケージする必要があります。日本はそのデザイン力は強いです。例えばソニーのPS5や任天堂Switchなど、いまだに世界を席巻するコンソールゲームのプラットフォームは日本製です。また、複合的なモデルを作るのが得意です。例えばプリウスのようなエンジンと電気を混ぜ合わせるというそれまでの常識ではありえない車を作って世界を変えました。あとは元々得意な妄想力、夢を描く力をうまく使えば日本は再生して世界で勝ち抜くことができるでしょう。

■「八百万の神」の文化をもう一度蘇らせる

【神原】医療政策だけではなくデータ社会のあり方について政府に提言している宮田さんは、日本再生のための勝ち筋をどこに見出しますか?

【宮田】いわゆる「失われた30年」は昭和の高度経済成長期に味わった勝ちパターンから抜け出せず、やるべきことをやらなかったことで生じてしまいました。しかし今、産業の根本が変わろうとしていて、ゲームチェンジのチャンスが到来しています。すなわち第4次産業革命やデジタル・トランスフォーメーション(DX)にいかに対応できるかがキーとなります。

現在、国家独占型の中国や企業総取り型のアメリカが世界の覇権争いをしている状況の中で、日本は独自の新しいモデルを作ることが勝ち筋になるかもしれません。例えば、1つの可能性として、データを共有しながらCo-Creationを起こすことが挙げられます。もう1つは、世界には「金融合理性」という合理性の権化のような社会デザインだけではなく、人々が豊かに生きることや健康や教育、人権などいろんな勝ち軸が本来あるはず。だから多元的な豊かさを実現できるビジネスを1つの可能性として模索しています。

【神原】日本人女性として初めて「国際数学オリンピック」で金メダリストに輝きながら、ジャズピアニストとしても活躍される中島さんは、今の日本経済、社会をどう見ていますか?

【中島】日本は杓子定規、四角四面でまっすぐ真面目に生きることをよしとする文化と、八百万の神のように万物に命がある、多様なものを受け入れるという文化の両面をもつ社会だと思います。後者の方をもう一度蘇らせることができれば日本人が本来もっている良さが出て、日本社会全体が面白くなるのではないでしょうか。

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■大企業は「電魂物才」の考え方にシフトせよ

【神原】このコロナによって企業の存在意義が問われるような状況となり、変革はまさに待ったなしの状態になっています。そんな中、ONE JAPANでは大勢の大企業の若手中堅有志が集まり、大企業病の払拭やイノベーションの推進、新規事業の立ち上げ、既存事業の改革などに挑戦しています。しかし一方で、安宅さんは『シン・ニホン』で均等、均質で、すでにできあがった社会を回すのが大企業だと書いています。そんな大企業の社員はどうすれば未来を変えられる人材になれるのでしょうか。

【安宅】マッキンゼーでコンサルタントを11年務めた経験から思うに、大きい組織は既存のシステムを回すところで、その良さ、強みは昔も今も変わらず「安定」です。そこで変わったことをやるのは強さを破壊することなので本質的に無理があります。だから大企業が持つ「金・ネットワーク・人材」を新しい領域に突っ込めばいいわけです。

その新しい領域が「サイバー空間」です。今後基本的にはあらゆる産業の大企業が生き残るために、「サイバー空間」へ移住することになります。その時、「和魂洋才」ならぬ「電魂物才」、つまりサイバーな心を持ったリアルという考え方が重要となります。だから「電魂物才」的な部隊や会社に投資してどんどん移住することを支援していけばいいのです。

■「100億円企業を作ったら個人に10億円入る」システムを作れるか

【宮田】「電魂物才」、いいですね。むしろこれからは育児や教育などデジタル空間に理想のものを作って、そちらに部分的にインストールして現実を過ごすという生き方が主流になるかもしれませんね。そうなると生まれ育った国に縛られることなく幸せに生きることができそうです。

一方、これから日本企業は何をしなければならないか。大企業は社会が安定して成長し続けている時は良かったけれど、今は残念ながらディスラプション(デジタルテクノロジーによる破壊的イノベーション)の時代。時価総額で世界トップを走るGAFAですら自分たちが安泰だとは毛ほども思っていません。明日にもゲームチェンジが起こって転げ落ちる危機感に怯えつつ、日々大量に新しいアイデアを生み出しながら、必死に未来をつかもうとしています。このくらいの熱量の高いチャレンジングスピリットが日本企業にも必要なんです。

ただ、日本では挑戦しようという風土が生まれない理由もあります。日本企業では新規事業で社内ベンチャーを立ち上げてどんなに成功したとしても、社員個人に大きなリターンがありません。せいぜい家を買える程度でしょう。一方、例えばある企業では、社内ベンチャーが成功したら時価総額の10%をキャッシュでもらえます。つまり100億円の企業を作ったら10億円も個人に入るわけです。それだけ割がいいと次は会社の外に出て起業しようと思うし、外に出て成功してもまた会社に戻ってきます。そうやって多くの人が会社を出たり入ったりしながらできあがったのが深センという世界屈指のIT企業がひしめく都市です。このように、チャレンジは個人だけに帰属するものじゃなくて、システムとしてチャレンジがしやすい環境を整備することも必要。その意味では中国の企業はとても参考になります。

【中島】確かに日本企業はマイナス評価なので、失敗を恐れて挑戦しづらい文化ですが、1万回失敗すれば慣れます。私もいろんなことをやっているのでこれまでたくさん失敗してきました。そのたびに面白さが見えてくるので、失敗してまた挑戦するという試行錯誤を繰り返してほしい。

また、今はどんなに大きな企業ですら明日が見えないという状況なので、大企業の社員も、上から言われたことだけをやるというより、その背後にあるストーリーやルールなど本質に立ち返ることを徹底的に繰り返さないと間に合わないと思います。しかも今は1人だけじゃなくていろんな人とつながってやれる時代。だから必ずしも個人がアイデアを形にして作れるというだけじゃなくて、いろんな人の見方や個性と掛け算して、初めてようやく次の一手が打てるのだと思います。

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■あるべき姿の実現のために「妄想」する

【安宅】課題解決には大きく分けて2種類あります。まず1つはあるべき姿がクリアで現状とのギャップを埋めるタイプ。これが8割以上です。残りの1〜2割はあるべき姿を設定するところから始めるタイプ。最初にあるべき姿を描くことで初めて現状とのギャップが見えてやるべきことが決まります。全社の課題解決の多くがデータ×AIによって激しくアシストされていくので、これからの課題解決は後者の方が中心になるでしょう。これはまず意思があってそれを実現するために妄想するのであって、妄想するから意思が生まれるわけではありません。この考え方を整理するだけで随分シャープに問いが立つでしょう。

ONE JAPAN世代なら自分が関わっている事業の本来あるべき姿と、50年後にも存在するためにはどうすればいいかを考える。普通の企業は30年ほどで消え去るのでこういう問いを立てるのは極めて重要です。

【宮田】安宅さんのおっしゃる通り、企業としての問い、部署としての問い、あとは個人としての問いを立てることが重要です。これからは1つの企業に全部任せて人生を終えるのではなく、副業や兼業の中からこそ新しいイノベーションが生まれるとすると、個人として社会に何を響き合わせるか、どのような志をもって働くという行為を社会に位置づけるのかという問いがすごく重要になるでしょう。

【中島】ひと昔前は会社員とアーティストや研究者は全然違う立ち位置で生きていましたが、今は混ざり合っています。つまり、アーティストや研究者は好きでやってる人が多いのですが、今は会社員もアーティストのように企業にいながら個人として心が踊るものを感じ、それがまた企業にも還元されています。そこが面白い時代だと感じます。

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■「月の石」と「太陽の塔」に続く新しいアイデアを作ろう

【神原】さて、大阪・関西万博は「命輝く未来社会のデザイン」をテーマに2025年4月13日から10月13日まで大阪の夢洲で開催されます。万博において中島さんは「命を高める」、宮田さんは「命を響き合わせる」というテーマのプロデューサーを担当されています。万博に向けての抱負をお願いします。

【宮田】万博の大テーマは「命輝く未来社会のデザイン」でSDGsとSociety5.0が掲げられています。そのテーマを振り返った時に多くの人たちが引き合いに出すのが50年前の大阪万博です。みんなの記憶に残っているものは2つあります。1つが「月の石」。その理由は、「月の石」を見た人は宇宙から地球を見るという視点を得ることで、アメリカ人とか日本人じゃなくて「地球人」になれたからです。

もう1つは「太陽の塔」です。50年も前なのにいまだにみんなの心に刺さっているのは、デザインした岡本太郎の「芸術は爆発だ!」というひと言があるからです。いわゆる経済成長やモノではなく命の輝きこそがすべてという、まさに物質文明に対するアンチテーゼを岡本太郎1人で表明した。当時は一部の人しかピンとこなかったけれど、高度経済成長が終わり、失われた30年という停滞期に入る中で徐々に理解され、今やみんなが好きなフレーズになっています。

だから今回の万博では、「月の石」と「太陽の塔」に続く新しいアイデアをみんなでどのように作っていくかがキーとなります。今回は一企業とか一個人でやる話じゃないので、私と中島さん含めプロデューサーが10人いるし、これから5年後に向けていろいろな人々をつないでみなさんと一緒に考えていきたいと思っています。

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■「ひとつひとつの命が輝く社会」を実現させたい

【中島】今はコロナもあって、混迷の時代に変わりつつあり、でもだからこそ面白い時代だと思っています。そんな時代にいろいろなテクノロジーを使って、みんなで力を合わせて、「ひとつひとつの命が輝く」ということを実現したい。そんな妄想を何とかして万博で表現したいと思っています。

また、今回の万博はみんなで元気になろうというわかりやすいイベントでもあり、万博を成功させるという意味では、開催場所、期間に限ったものではなく、その前後を含んでいると思います。この万博でONE JAPANのメンバーはじめ子供たちやお年寄りも含めていろいろな人たちに「未来を作っていくのは自分なんだ」と感じさせられるかどうかがすごく重要で、プロデューサーとして、それを舞台としてどう作れるかを考えています。

【神原】安宅さんは万博をどのように見ていますか?

【安宅】今はついに個人が組織から切り離されて生きることができようになり、(オンラインの発達で)現実空間からも切り離されて生きることが可能になった時代です。さらに、実は我々人間は生命体として身体から切り離されるかどうかの瀬戸際にもあります。その境界線の向こう側にある未来を提示できれば成功すると思います。


■組織にとらわれない「ゲリラ」になろう

【神原】最後に、ONE JAPAN世代に期待することをお願いします。

【中島】大変だけど面白い時代だから、とにかくみなさんと一緒に面白いことをやっていきたい。ぜひ未来社会を一緒に作りましょう。

【宮田】みなさんがどう生きるかを描くことが全体の未来につながるので、一緒に問いを立てて未来を考えたい。それが大阪・関西万博につながるので、爆発する可能性を一緒に作りたいと思っています。

【安宅】世界最強のアメリカ軍が唯一敗北したのは「ベトコン」という「ゲリラ」です。サバイバルという意味では「ゲリラ」こそ最強なので、みなさんも組織にとらわれず「ゲリラ」になってほしい。大企業に属しつつも10個くらい別の仮面を被って頑張ってください。ザ・ゲリラに!

【神原】「あるべき姿」とは何かを問い直すことが急激に迫られる昨今、次なる未来をしっかりと描き直していきたいですね。本日は、ありがとうございました。

構成:山下 久猛
デザイン: McCANN MILLENNIALS
撮影:伊藤 淳、ILY, inc
グラレコ:石川 愛

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