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『パーパス』経営-企業と個人の存在意義を問い直す 【ONE JAPAN CONFERENCE 2021公式レポート: CULTURE②】

会社、個人ともに、存在意義を表す「パーパス」が注目されています。企業はどのような「パーパス」を掲げ、個人には「パーパス」が必要なのか。経営の視点で、どう実践していくのか。パネリストのアイディール・リーダーズ株式会社COO 後藤照典さん、ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役人事総務本部長の島田由香さん、キリンホールディングス株式会社 取締役常務執行役員の三好敏也さん、モデレーターの株式会社サイバーエージェント 常務執行役員 CHO 曽山哲人さんにお話していただいた。

【登壇者】(敬称略)
・ 後藤照典 / アイディール・リーダーズ株式会社 COO
・ 島田由香 / ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役人事総務本部長
・ 三好敏也 / キリンホールディングス株式会社 取締役常務執行役員
・ 曽山哲人(モデレーター) / 株式会社サイバーエージェント 常務執行役員 CHO

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石鹸ひとつで世界が変わるきっかけを作る

【曽山】島田さん、ユニリーバではパーパスを早くから取り入れていました。

【島田】私が2008年にユニリーバに入社したときにはパーパスがすでにあり、大事にされていました。私自身も経営、個人ともにパーパスほど重要なものはないと考えています。パーパスとは大いなる目的で、存在意義。弊社では「サステナビリティを暮らしの当たり前にする」と掲げています。

約130年前、当時のイギリスは衛生環境が悪く、赤ちゃんが生き延びるのも大変でした。そこで手を洗う習慣を広げるため、ユニリーバ創始者のウィリアム・ヘスケス・リーバ卿は石鹸を作ったのです。石鹸のような小さなものが、世界を変えるきっかけとなりました。

【曽山】三好さん、キリンの創業時から受け継がれているパーパスはありますか。

【三好】キリンは、CSV(Creating Shared Value、共有価値の創造)が経営の基軸になっており、パーパス経営と重なります。自分たちが持っている発酵・バイオの技術力を使って社会課題を解決し、同時に企業としての経済価値も創出する。酒類メーカーとしての責任を果たすことを前提に、健康/地域社会・コミュニティ/環境を重点課題として取り組み、「世界のCSV先進企業」をめざしています。

創業時から大切にしてきたのは、ビール事業を通じて、人とのつながりの機会を作ること。悲しいときも嬉しいときもビールが横にあり、互いについだり、つがれたりしながら一緒に飲む。こうした「つながり」を現在の文脈で読み解き、CSV、パーパス経営につなげている感じがあります。

【曽山】後藤さん、パーパスを支援するコンサルティングを手がけるアイディール・リーダーズは、どのようなパーパスを掲げていますか。

【後藤】「人と社会を大切にする会社を増やす」が弊社のパーパスです。コンサルティングやエグゼクティブ・コーチングを通じて、企業や個人のパーパスを作っていくプロセスをご支援しています。

【曽山】企業の観点から、パーパスは会社や社会にどう影響するものですか?

【島田】パーパスがある会社はGrow(成長する)、Last(長く続く)、Thrive(繁栄する、成功する)と考えています。ユニリーバの前CEO(最高経営責任者)で、SDGsの策定にも貢献したポール・ポールマンさんの考え方が、今に至るまで紡がれています。

ユニリーバのパーパスは芯の部分は創業時から変わらず、ブラッシュアップを重ねてきました。時代の流れやテクノロジーの進化もあり、使う言葉は変わっていきますが、考え方の筋道は同じです。ユニリーバは「持続可能な社会を一緒に作っていくきっかけになるための会社」という存在意義があったからこそ、長きにわたり、成長や成功を続けているのだと思います。

東日本大震災の復興支援で持続性を議論する

【曽山】パーパスと社会、そして生活者とのつながりについて、三好さんの視点で教えてください。

【三好】先ほどキリンのCSV経営について話しましたが、常にCSVパーパスに立ち戻りながら、事業を進めています。キリンのCSV経営の原点は、2011年3月の東日本大震災です。キリンビールの仙台工場も海に近く、津波で被害を受けて壊滅的な状況になりました。工場は復旧させましたが、地域はまだ復興していなかったため、「絆プロジェクト」を立ち上げて、農業や水産業に携わる方たちを支援する活動を10年ほど続けてきました。ただ寄付をするだけでは、この先どう持続していくかが課題となります。そこで企業としての存在意義を考え、「どうすれば経済的な利益を生み出し、その利益が循環して再投資されていくか」を議論したことがはじまりです。

【曽山】後藤さんは、企業のパーパスについて気になっていることはありますか。

【後藤】組織のパーパスとは、「この組織は何のために存在しているのか」という問いに答えるもので、存在意義を表します。ビジョン、ミッション、バリューとどう違うのかという議論がありますが、厳密な整理は本質的な議論ではありません。大事なのはパーパス的なものを信じ、そこに向かって社員が一生懸命仕事をしていく風土を作ること。ただミッションは社会的定義が含まれていないこともあるので、別々に設定する会社が多いかと思います。

パーパスの表現の仕方を研究していると、「自分らしい手段」×「対象」×「対象の状態」という因数分解が多い。たとえばソニーなら、「クリエイティビティとテクノロジーの力で」×「世界を」×「感動で満たす」というパーパスです。サイバーエージェントは「新しい力とインターネットで」×「日本の」×「閉塞感を打破する」と最近発表しました。このようなパーパスで会社をまとめていきたいという相談は増えています。

若い世代は「何のために」を基準に会社を選ぶ

【曽山】なぜパーパスが今、これだけ盛り上がってきているのでしょうか?

【後藤】要因はいろいろありますが、環境問題の背景から、ESG経営の大切さが注目され、「そもそも自分たちは何のためにあるのか」を規定しなければいけなくなった。もうひとつ、ミレニアル世代(2000年前後、あるいはそれ以降に社会に進出する世代)は「何のために」と問うことが当たり前になっている。企業が存在意義を発信しないと、採用がうまくいかず、若者が入社してもすぐやめてしまう。若い世代はお金を稼ぐために会社に入るのではなく、パーパスがしっかりしている会社を選ぶ傾向があります。

【曽山】質問が来ています。「海外と日本の企業で設定するパーパスに違いはありますか?」

【後藤】結論から言うと、ありません。日本企業のほうが伝統的にパーパスのようなものを大切にしてきました。長寿企業も日本は多い。パーパスという言葉ではないけれど、社訓を重んじてきた。グローバル企業はビジョンを掲げ、達成したらまた次のビジョンを策定するという例も多いですが、日本の長寿企業を研究しています。

【島田】私も、海外と日本の企業で違いはないと思います。100年以上続く企業の数は日本が多い。日本の環境のほうが、会社は何のために作られたのか、考えやすいかもしれません。

【三好】パーパスについて、社会課題を解決することで、企業の成長につながると明確に打ち出してから、グループ全体がまとまってくる実感があります。事業を越えて、会話が成り立っている。

【曽山】個人のパーパスについてはどうですか。

【島田】個人のパーパスは、それぞれが持って生まれてきているので、「見つける」より「思い出す」という表現がふさわしいと思います。漠然と自分に問い直したときから、旅が始まります。仕事中に考えられないという人もいるかもしれませんが、自分と会社のパーパスが重なる部分が多ければ、仕事がやりやすくなります。

思い出すために、自分の好きなこと、得意なことから掘り下げていく。ユニリーバは対話をしながら引き出していくワークショップがあります。メモをする、書き出すのもいいですね。

「働きがい改革」はHowではなくWhyが大事

【三好】働き方改革ではなく、「働きがい改革」と言い方を変え、考えるきっかけを作っています。働き方改革は生産性を高めようという目的で始まりましたが、How(どうやって)ばかりに焦点が当てられるようになってしまいました。しかし、コロナ禍でリモートワークになり、生産性が上がっているときは、「働きがい」や「やりがい」を感じて、自ら動いているときだと実感した人が多かった。それなら会社と個人のパーパスとして、Why(なぜ)を考えたほうがいい。働く意義を考え、その仕事にふさわしい働き方を選ぶという順番です。結果として、生産性だけではなく、創造性に効果が出ることもある。自分自身のパーパスと仕事の内容が重なり合っていれば、仕事を通じて成長することもできる。パーパスの大切さを少しずつ実感する人が増えていると思います。

【後藤】個人のパーパスについて、相談やワークショップの依頼も増えています。たとえばスティーブン・R・コヴィー博士の『7つの習慣』にあるように、「自分の葬式の場面を想像して、参列者にどんな人だったかと言われたいか」といった質問をたくさん投げかけて、探求していくといったワークショップもよく実施しています。

【曽山】パネリストのみなさんのパーパスを教えてください。

【後藤】ひと晩語れますが、一言で表せば「人と組織の力、可能性を解放する」。以前勤めた会社で、入社してから元気がなくなっていく若手を見ました。人が組織でいきいきと力を解放できるようにしたい。

【三好】後藤さんの話に近いですが、キリンが大事にしている人事の考え方は「人には無限の可能性がある」。会社の役割はその可能性を最大限発揮できるようにすること。もっと力があるのに意識なのか、仕組みなのか、企業文化なのか、何かが蓋をしていることがあります。人それぞれだとは思いますが、それを解放できれば、組織の力も上がる。それが私自身の仕事だと思って取り組んできました。

【島田】私は「すべての人が笑顔で自分らしく生き、豊かな人生を送る世界を創る」ために、自分の時間、エネルギー、命をかけています。

日々の仕事とパーパスでキャリアを考える

【曽山】パーパスについて、どう共感を得て、浸透させていくのでしょうか。

【後藤】理解と共感の間に壁があります。認知、理解、共感、実践というプロセスがあると思いますが、説明すれば理解は得らえても、共感できないこともある。そもそも、組織のパーパスが明確でも、個人が曖昧な場合、重なり合う部分がわからない。「これまでの経験でパーパスを再現した部分は何か」と考えるなど、組織のパーパスを「自分ごと」として捉え、共感のステップを作っていくことがカギになると考えます。

【島田】パーパスはトップダウンと思われがちですが、決める過程で社員の声をさまざまな場面から得ています。社員の満足度調査や、組織のなかでよく使われている言葉を通して考えられたものが、未来を見据えて、私たちの存在意義となる。社員が「自分の仕事ならどういうことなのか」、「自分に当てはめたら何を言っているのか」というふうに、落とし込みの時間を持つ。自分ごとにならない限り、共感はありません。

【三好】キャリアについてみなさん、考えると思います。キャリアのビジョンも単独で存在するわけではなくて、まず個人のパーパスがあり、手段としてキャリア・ビジョンがある。キャリアは仕事の積み重ねなので、今やっている仕事とパーパスがつながっていきます。日々の仕事が本当に自分のパーパスに合っているのか、自分の視点で見直すのが大切かなと思います。

【曽山】私からのおすすめは5分でいいので、今掲げている会社のミッション、パーパスを自分でどう定義するかを考えることです。最後にメッセージをお願いします。

【後藤】パーパスというテーマで600名近い方が集まってくださり、うれしいです。パーパスをムーブメントにしていきましょう。

【三好】日々の仕事のなかで、組織と個人のパーパスについて、重なり合いを増やしていくことを一緒にやりましょう。

【島田】まずは存在意義を自分自身が受け止めるところからスタートします。自分はまだダメだ、と自己卑下、自己否定はせずに、存在意義をまず認めるところから取り組んでほしいです。毎日5分でもそのための時間を作ってみてください。

【曽山】みなさんは全員才能があります。それをいかしていくために、書いて、動いて、開花していきましょう。

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構成: 猫村 りさ
編集: 佐藤 伸剛、香西 直樹
デザイン: McCANN MILLENNIALS
グラレコ: 中野友香(モカ)

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