見出し画像

新潟県知事選挙の敗戦の検証(1) - 選挙戦略のメッシュが細かく、人の心を捉える努力をものすごくしていた花角陣営 -

平成30年新潟県知事選挙(2018年5月24日告示、6月10日投開票)にて野党共闘候補の池田ちかこさんが残念ながら敗北しました。

新潟県内に私は親の実家があり、幼少期に美しい信濃川に通いました。東電柏崎刈羽原発の電気の供給先となる首都圏の埼玉県に今住む者としても、とても無縁ではないと考え、池田さんの応援をインターネットからですが全力で行いました。

そして、都内で仕事をする本業の合間ながら、そして最終局面では日中も時間をかなり割いて、いわば相当深入りしてしまったゆえに、「これは野党と市民がまだまだできていない、学ぶべきポイントでは」との発見が多々ありました。

結論から申しますと、花角陣営は、選挙戦略のメッシュが細かく、人の心を捉える努力をものすごくしていたのです。

その努力は池田陣営を上回ったことが結果で示されたと申さざるを得ないと思います。

もちろん、以下の記事はあくまで一つの検証であり、多くの専門家の方々により様々の視点から検証があるものと拝察します。さらに、当然ながら新潟県内の現場にて動いておられた方々よりも私の情報量は限界があります。

しかし、1992年の大学生時代に宮沢喜一元首相のブレインをされていた政治学者の佐々木毅先生(元東大総長)の招聘講演会の開催や、2000年代半ばに東京財団マニフェスト研究会の研究員にて海外の概念だったマニフェストの研究や啓発、そして2000年代以降のいくつかの地方選挙にて選挙戦略の策定と実行を行ってきた私としては、選挙の勝利の十分条件は誰にもわからず申し上げれないとしても、「少なくともこれはやっておくべきだった・これはやらないでおくべきだった」との必要条件は申し上げられるのではと思い、止むに止まれぬ、勝手な使命感で筆をとっております。

野球監督をされた野村克也氏が剣術の引用として「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」と申されています。

実は、この原稿の第一の対象は野党と市民のリーダーの方々です。もちろん新潟県知事選をご一緒に闘った方々のため、そして今後に政治に成果が出せる関わり方をしたいと願う方々、さらには将来を担う中高生のご参考になればと執筆をしているのですが、「野党と市民のリーダーの方々が、やるべきことができていない戦いをして、もう負けを繰り返したくない。今後は野党も市民も一丸となって改善して、綿密に戦いたい」という危機感からの提言です。

これまでの大勝負(例えば2015年夏の安保法制や2018年2月の名護市長選等)で野党や市民が敗北した直後に「これで戦いは終わらない」との美辞麗句が発信され、その後の反省や検証が甘くなり、結果的にまた大事な勝負で同じような敗北を今後も重ねることを私は強く懸念します。

敗戦に淡白にならず、もっと私たちは悔しがるべきと思います。そうしないといつまでも強くなれない。

インターネット選挙が普及し、陣営問わず私たち多くの方々が新潟県知事選に県内そして県外から関わり、しかし今回の選挙にて誰もが相当消耗しました。

「選挙が終わり、これから反対陣営支持者から攻撃が来るんじゃないか」との不安の声や、「政治に距離を置きます」との声も見受けられます。これまでの選挙や抗議デモ活動等でも、相当の重圧や割り切れなさから心身が折れて、人知れず静かに身を引いた人も少なくないのではと私は心配しています。

これは「政治の国民離れ」(枝野幸男さん)ならぬ、「政治の国民使い捨て」であり、一人一人が一層かけがえない人口減少時代でなくとも、誰も望まない悲劇と思います。

それで政権交代を今後の総選挙で実現できるのでしょうか? いえ、その手前とされる統一地方選や、参院選をきっちりと勝ち上がれるのでしょうか?

現時点では選挙に対する野党と市民の議論や知見は、与党に比べてまだ粗雑であり、蓄積も不足していると私は懸念しています。

では、どうしたらいいのか?

参加してくださる方々を大切にし、少なくとも勝つための最低条件と考えられる選挙戦略とは何かという問いにて、以下にてご一緒に考えたく思います。

そもそも、今回の新潟県知事選挙が、原発再稼働の是非、新潟県の人口減少や経済を占い、国政とも直結するのは、衆目の一致するところでした。多くのキーパーソンから最重要選挙と位置付けられていました。

そして、確かに池田ちかこさんご自身は「無名」とご謙遜されましたが、短期決戦で与党候補へ肉薄し、選挙のプロの方々が軒並み「投票箱が閉まるまでわからない」と驚嘆される激戦が繰り広げられました。

「新潟では当たり前」と一部の専門家からは言われつつも、今回誰もが目を疑い、ハラハラする与野党拮抗のデッドヒートの光景が17日間の選挙中ずっと続き、「もはや投票率が鍵」との指摘に誰もがうなずき、前回投票率53%はいわば池田さんの当選ラインで、それを超えねばと私を含め皆でご一緒に尽力したと思います。

そして、投票率は前回53%を上回ったのです。なお下記57%は速報値であり、最終確定値は58.25%です。

投票率が高ければ、組織票は追いつかなくなる。

よって、高投票率なら池田ちかこさん勝利は有力との見立ては多くの人々に共有されていたと思います。

ですが、現実は私たちの見立てを超えていました。

池田ちかこさんというこの上ない資質の候補者で、森友加計疑惑で中央からの大逆風が新潟にも吹き荒れ、野党共闘は確実にでき、野党が強いとされる新潟で、原発再稼働反対の県民感情が強く、投票率が上がっても、敗北したという重い現実。

「野党共闘を確実にできれば与党に勝てる」というこれまで市民と野党で有力視されてきた前提は盤石ではないと解さざるを得ないと思います。

ご案内の通り、小沢一郎さん等は「総投票数はいつも野党が多い。だが小選挙区で野党分裂すると負ける。オリーブ構想で野党共闘できれば勝てる」と命を削りながら説き続けておられます。

野党共闘に賛成か否かは、民主下野後の野党再編にも大きな影響を与え続け、旧民進で共産党アレルギーを持つ人々が今の希望の党に行ったり無所属になったりしているほどです。

それほどまでして野党共闘にこだわって、今回負けられない戦いに臨んだのに、負けてしまった私たち市民と野党。

野党共闘は勝つために最低限やっておかねばという必要条件ではあっても、決して野党共闘で勝てる約束がされるという十分条件とはなり得ないことが、今回の新潟県知事選で明らかになったのではないでしょうか。

何か足りなかったのか?

冒頭にて申しましたように、選挙戦略のメッシュの細かさ、そして人々の心を捉える努力だったと思います。

選挙戦略では、まず今回の池田陣営のコントロールタワー(司令塔)が誰なのかが、陣営の外から客観的に見て不明だったということから申し上げます。

確かに、選対本部長を菊田真紀子衆院議員(無所属)、選対幹事長を森ゆうこ参院議員(自由党)が担われました。ですが、私が申しているのはもっと現場レベルで選挙を遂行していく選挙参謀であり、かつ、中央におけるコントローラーです。

現場レベルで選挙を仕切っていた人として、一部の論評では「(新潟県の)民進の人だった」等も確かに拝見します。ですが、インターネットで告示日前から関わり続けた私からはコントロールタワー不在に見えたのです。インターネットから情報収集をし続けた新潟県内有権者の方々もおそらく同様にお感じだったのではと思います。

実質的には、中央そして現場でコントロールタワーがいずれも不在だったのではないかという懸念があり、それで勝てる選挙は一つもないのです。

与党陣営のコントロールタワーは、中央は自民党の二階幹事長でした。そして、現場には選挙参謀として辣腕の選挙プランナー三浦博史さんが入っておられました。

そう考えると、野党陣営は枝野代表か福山幹事長がコントロールタワーにならねばならなかったと思います。確かに国会そして全国の選挙も見ておられるので、新潟のコントロールタワーはできないというご事情も拝察します。

しかし、二階幹事長も同様に国会そして全国を見ておられて多忙極まる中、今回コントロールタワーとなって老獪に事を進め続けたのです。

そして、現地の選挙参謀は三浦博史さんと拝見し、「これは手強い」と私は覚悟しました。

最終日の締めの新潟駅前の池田ちかこさんの遊説映像で森ゆうこ参院議員が「今日は70回遊説やるぞと池田ちかこさんに朝伝えて、とはいえできるかなあと思ったが、本当にできました!」と語られているのを拝見して「やはり現場の選挙参謀が不在していたのか」と私は懸念的中と思ったのです。

本来ならば、参院議員として多忙極まる森ゆうこさんにそのような細かい事までタッチいただかなくとも、日々の作戦立案や実行は選挙参謀を担う選挙プランナーが担当すべき仕事だからです。

今回の新潟県知事選挙において、花角陣営は、中央でも現場でもコントロールタワーがいて、メッシュの細かい選挙戦略を立案し、確実に実行しきる陣営の組織力がありました。

もちろん公明が自主投票から支持に回ったのも大変大きく、創価学会の原田会長が名護市長選と同様に新潟県内に貼り付き続けたと拝見します。

一方、池田陣営は確かにスタートダッシュはうまくいったものの、コントロールタワーが実質的に不在で、おそらく県内有権者の印象としては、訴えが届かない、荒っぽい選挙戦略をしていて、確実に実行しきる陣営の組織力も自公に対し負けていたのが現実だったと拝察します。

野党と市民の選挙戦略の甘さを私が心配したのは、まず米山知事辞職後に「野党が強く再稼働反対の県民性から勝てる」と野党と市民に根拠なき楽観論が走ったことです。これが意外に支配的に選挙戦後半まで一部では信奉され続けた(緩みも続いた)雰囲気も感じます。

そして、池田ちかこさんがゼロからの勇気で立ち上がったものの、野党側での実効性ある支援体制作りに手間取り、選挙戦前半が実質池田さんの孤軍奮闘状態に陥りました。

確かに立憲民主党枝野代表の新潟大作戦がいち早く決行され、野党党首揃い踏みもありましたが、何か出たとこ勝負かとの誤解をされたかもしれず、選挙期間中を通底するシナリオや戦略性を県民が感じるものには至らなかったと拝察します。

花角陣営では辣腕選挙プランナーの三浦さんが、メッシュの細かい選挙戦略を告示日初日から着々と実行していきます。

では、メッシュの細かい選挙戦略とは何か?

一例として、田中角栄以来、有名なものの一つに川上戦略があります。川上すなわち山間部などの過疎地を重視すると、川下となる都市部へ良い評判が降りてくるという考え方です。

「過疎地は人がいないんだから行っても票にならない。しかも山間部に入っていくのはすごく時間もかかるし燃料代も膨れ上がる」と選挙に弱い陣営では捨てられがちです。

ですが、選挙に強い陣営は川上戦略を採るのです。

今回、花角陣営が告示日の最初に選んだ場所はどこでしょうか?

新潟県の北限近くの離島である粟島浦村の八所神社です。

ここを選んだ絶妙なセンスに、ゾッとしませんか?

告示日朝、選挙初め(ご案内の通り、第一声の場所は新発田市内ですが、有権者に第一印象を与えられる起点)を花角陣営が粟島浦村八所神社でやったとの報道を見て「選挙参謀は誰だろう。すごく手強い」と私は直感したのです。

そして、後日に百戦錬磨の三浦博史さんが選挙参謀をしていると知り、相当に練れた選挙戦略を花角陣営は展開してくると覚悟したのです。

一方、池田陣営の第一声は新潟駅前でした。川下からのスタートだったのです。確かに報道陣に集まってもらいやすい利点はありました。予算難で山間部にいく燃料代等を捻出できなかったかも知れず、後日にカンパ募集が始まっていました。

もし今回第一声を私ならばどうするかと考え続けたのですが、例えば魚沼地方の山間部の一農村にしたと思います。原発30km圏内で山に囲まれ避難経路は細く逃げ場はない。そこで池田陣営の第一声をすることで、原発再稼働の争点はごまかせないとの訴求を地元報道を通じて有権者にできたと思います。

今回の花角陣営が粟島浦村を選択したことで発見がありました。

新潟県は広大で、島もあり、山間部も多くある県です。山間部回りはいわば陣営泣かせと思います。

ですが、もし最初に粟島浦村という川上戦略をとったら?

以下3つのメリットを陣営は得られると今回気づきました。

1. 「こんな人里離れたところまで大事の選挙の最初に来てくれた。人口少ない地域を大事にしてくれる優しい候補だ」という第一印象が口コミや地元報道などで他の川上(過疎地)に伝播できる。

2. 他の全ての山間部を回れなくても「都市部だけ重視の候補じゃないから」と信頼を得やすくなる。

3. 陣営が団結できる。

ことに、上記の2.3.は今まであまり野党と市民では語られていなかったと思います。

2.では、短期決戦で一分一秒が惜しいので、山間部回りが追いつかなくなって都市部重視をしたくなりますが、最初に過疎地で第一声をしておく効用の計り知れなさ。川上戦略をしていないと「◯◯さんはいつまでたっても都市部ばっかりまわってて、こっちに来ないよ」という不平不満が、山間部のあちこちでもぐらたたきのように高まっていくのです。陣営への「まだ来ないのか」とのクレーム電話が毎日じゃんじゃん鳴り続けることになります。電話対応のスタッフさんも申し訳なささから疲弊します。

3.では、カオスにならない選挙はありません。やっている間、ぜったい陣営内外で揉める場面は何回とあります。ですが、勝つためには陣営の鉄の団結は不可欠なのです。

まして、今回陣営が二つに割れていたとも選挙戦開始時に古賀茂明さんは寄稿されていて、私は真っ青になりました。これで「2つの陣営がまちまちに一貫性なく動いている」と県民が受け止めたら、県民に残念感や戸惑いが広がるのです。

(6/17 23:30追記: 「新潟で2つの陣営が立ち上がるのはいつものこと」とのお声を拝見しました。貴重なご指摘を、ありがとうございます。)

川上戦略で思い出したのですが、私が選挙参謀で入った過去の選挙でも、駅前等の人が集まるところでやらずに、駅から離れた古い団地の一角など「こんなところでやるのか」と見られる場所でやりました。

ですが、たとえ閑散としても候補者のメッセージ性を発していくためにベストの場所を選ぶのが正解なのです。

次回は中村喜四郎さんの動きから野党が学ぶべきポイント等について申します。

最後までご覧くださり、ありがとうございます。もし「応援したい」とお感じの方は、恐縮ですが、サポートをお願いします。m(_ _)m