小説を書くことー14(A)

シエンは首をかしげながら熱心に操作をしていました。彼女の非常に賢明なところなのですが、いったん仕掛けとかそういうものがわかればすぐに理解をします。シエンと私がいつ結婚したのか、と思い年代を見ると1990年5月30日と入っていました。つまり私たちは既婚で不倫をしていたわけではなく、これから結婚をするわけです。私が真っ先に考えたのは、10歳の息子を不憫に感じたことです。結婚式の写真は私とシエンの幸せそうな様子を映していました。

帰り支度をしているとシエンは、慌てて、セン、これなんで消えるの、と驚いたような顔をして、スマホを見せました。充電のしるしのところが赤でほとんど消えかかっています。私はすぐにリモコンの充電器を出し手スマホの横に置きました。スマホを見てもそれほど驚かなかったシエンですが、リモコンで勝手に充電していく充電器にはさすがに驚いたようです。確かにこの30年のテクノロジーはすごいものがありました。

シエンが勝手にスマホを持って帰ろうとしたので、私は無理やり取り戻しました。シエンには指紋認証なので、いったん切れると、開けることができない、と説明、私が本当に恐れていたのは、壊されてしまうのではないか、ということです。

さて、帰宅してからが、大変でした。私の妻も息子もいなくなっていたのでした。

私とシエンが1年後に結婚をすることを知って、怒って出ていったのだろうか、と思ったのですが、家の中の様子が変わっていました。全く部屋の様子が変わっていたのです、

まず息子の部屋が台所に代わっていて、前日使っていた狭いキッチンはなにもなくがらんどうでした。物置に使用できるような部屋に代わっていました。リビングと夫婦の寝室はそのままだったのですが、私の妻と息子が住んでいた形跡が跡形もなく消えていました。つまり、息子の学校の用具、ルックサック、おもちゃ、ぬいぐるみ、それに服等、すべてまるで蒸発したように消えてしまっていたのです。

妻は、良くベッドの上でて寝ながら本を読んでいて、時々私の寝る場所にも本が侵入していたのですが、全く跡形もなく、もちろん、服、彼女が使っていた所帯道具も蒸発してしまったように見当たりません。

この状態は少しフラットは広いけれど、誰が見ても男の一人暮らしにしか見えません。

台所の冷蔵庫の中には、ミルクだけ、冷凍室にピザとチキンの冷凍ものだけした。

私は茫然として一人ソファーに腰をかけていると、おお、腹が減った、という声が聞こえてきました。おいらの食事、おいらの食事、今日もチキンか、明日もチキンか、これじゃあ年がら年中、チキン、チキン、チキン。

というような半分歌っているようなしわがれ声が台所のあたりから聞こえてきました。

誰かがいるのは間違いありません。それで忍び足で台所に入ると、腹をすかせた猫のタマちゃんが冷蔵庫の前を行ったり来たりしていました。

「おいら、腹が減って死にそう、早くチキン」と催促をしてきます。

どうして猫の言っていることがわかるのか、私は夢を見ているのか、それにこの猫はタマチャンにそっくりだけど、1989年にはまだ生まれていないのです。私はスマホの中のアプリに動物のアプリがあったのを思い出して、スマホを取り出して、あんたは誰?とスマホの動物アプリに話しかけると、冷蔵庫の前の猫は不思議そうな顔をして、私の顔を見て、おいら、タマちゃんですが、という返事がありました。

私は夢を見ているのだ、と何回も呪文のように唱えていました。

                             ー続くー

すみませんね。話がどこに行くのか、私自身わかりません。読まれている方も迷惑であろうとは思いますが、何とか収束したいと毎日努力しています。





ドイツ生活36年(半生以上)。ドイツの日常生活をお伝えいたします。