火星人襲来ーその9

天井の扉を開ける音がして10段のはしごを降りてくる音がした。

降り立て来た人間は天井の扉を完全に密閉して、酸素のシャワーを浴びているようだった。酸素のシャワーの音は文字通り水のシャワーと変わりはなかった。

それから、ジョンとメアリーのいる人間が住める住居空間にリフトが下りてきた。後ろに酸素ボンベを抱えているのはかなり小さな人間で、山本タカシが年の所為で縮んだように見えた。

いないはずのアンドロイド2体を見て男が驚いているのが宇宙服に身を包んでいるのにもかかわらずジョンとメアリーには感じられた。

「ここでは宇宙服は必要がないので」とジョンは簡単に言って、宇宙服の男の酸素ボンベを外した。

宇宙服の中から脱皮するように出てきたのは、山本タカシではなく相野ロボット工学研究所の所長相野順だった。今度はジョンとメアリーがびっくりする番だった。

男は気を落ち着けるようにポケットからウィスキー10ccの小瓶を取り出して、一気に飲んだ。

「どうして、あんたら、此処にいるの」出てくる声は山本タカシの声だった。山本タカシはどうやら、相野順の体を盗んで、相野の体の中に自身の意識を入れ替えているようだった。

相野の体から意識がなくなっているということは、相野はどうやら山本タカシに殺されているように思えた。

「いや大丈夫。あいつは俺の体で意識を保たせているから。単なる交換だよ」アンドロイド2体が考えていることを察したかのように山本タカシは言ったが、ジョンもメアリーも山本タカシの言は信じることができなかった

こういうことを想定して、ジョンもメアリーも復讐できないようにしているのだ。

「自爆装置失敗か」と山本タカシのつぶやくような声が聞こえてきた。

「失敗って、どういうこと」ジョンの声は怒りに震えていた。

作者注ですが、怒りに震えるというのはアンドロイドにはありえないのです。というのはアンドロイドには感情がないからです。正確には怒りに震える声を出した。というのが本当です。

相野の身体を通って聞えてくる山本タカシの声はウィスキーの所為か幾分落ち着いて聞こえてきた。ジョンとメアリーの驚いたのは、自爆装置をどうして取り外したのか、と山本タカシが聞いてきたことだった。

それを聞いている間に、スマホのようなものを握って山本タカシは画面を見入って、時々何か入力していた。

怒りの声が抜け切ったように、ジョンはロボットの情報をWebで探し出して、それに基づいて、自爆装置を外した、と説明。

「ということは、情報を消去ではなく初めから入れない方がいいのだ」と山本タカシはつぶやいた。

トイレは何処?と山本タカシは聞いた。

ジョンは部屋の片隅のドアを指さした。

循環機の検査は、アンドロイドではどうしようもなかったので、あとで、山本タカシ(相野順)の排泄されて液体状になったものを飲まそうとジョンは考えていた。部屋に入ってきてから10㏄のウィスキーの小瓶をかれこれ10本ほど開けていたのでそれなりに試験はできそうだった。

メアリーは、山本タカシが置いていたスマホを見ていた。

ほとんどが自分達が操作しているアプリと変わりはなかったが、中にロボットの形をしたアプリが入っていて、それを押すとAOを有効にするかどうかという質問が出てきた。何気なく有効を無効にきりかえると、いきなりジョンの「あんたはどうして俺たちを破壊しようとしたのだ」という声がスマホから聞こえてきた。

「博士、教えてください」ジョンの声が続いて聞こえてきた。

メアリーもジョンもスマホから聞こえてくる声に驚いていた。スマホにジョンの声が吸い取られていた。

少し酔っているのか山本タカシがトイレから出てきたときはふらついていた。

「あんたはどうして俺たちを破壊しようとしたのだ」とジョンは声を出した。山本タカシの赤ら顔が少し青に変わったように見えた。ポケットをまさぐり始めスマホを取り出そうとしているところだった。「これだろう、あんたの探しているのは」と言って、メアリーの手の中のスマホを見せた。

                            ー続くー













ドイツ生活36年(半生以上)。ドイツの日常生活をお伝えいたします。