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小説を書くことー10(A)

近所の公園の写真を公開いたします。

シエンは少し考えてから、「セン(千)さん、自分からこちらに来るのを誘っていて悪いけど、もし本当に未来から来たのなら、今の世界に何がおきるのか知っているでしょう」

私は30年前というのが1989年で、10月頃に東ドイツと西ドイツが合併するのを知っていました。そのことを伝えても、あまりシエンは興味がなさそうでした。私のいる5月には、すでにその兆候(東側の国から、大量に人の移動が、始まっていました)があり、またシエンは政治そのものに興味がなかったからかもわかりません。

「その私の知りたいことは、もっと個人的なこと」

「シエン、今の旦那と近々別れて姓が変わるよ」

「どういうこと?」

「銀行に勤めている男と再婚するの」

シエンには少し心当たりがあるようで、私のことを信用するような感じでした。

それからシエンは少し黙り込み、何かを考えているようです。

「千さん。停留所にいたときに皆携帯を持っていたでしょう。あれ持ってきた」どうやら飛び込んだ時に落としたか何かで、見つからないのです

「いや、見つからないから、飛び込んだ時に落としたと思う」

シエンはかなりがっかりしたようでした。

「あの辺、探しに行きます」少し断固とした口調でシエンは私に言いました。シエンと話しているうちに、私の体内時計(?)が少しずつ巻き戻されていくようで、あまり年の差も感じることがなくなってきました。

それにしてもシエンはきれいです。30年前一緒に働いていたときはそれほど気が付かなったのですが、目の前にいるシエンは少し受け口の唇にルージュの口紅を塗り、額が広く、かなり知的な雰囲気を持っています。性格の良さがあるのか、笑った時の表情は花がパッと咲くようにあたりを明るくします。

「千さん、私お金が好きなの」少し唐突で、何の関連もないことをシエンは私に向かってつぶやくように言いました。

                         ー続くー






ドイツ生活36年(半生以上)。ドイツの日常生活をお伝えいたします。