小説を書くことー6(B)

イギリスからの手紙は時々英語から日本語直訳のように読み取れるところがありました。手紙は澤様という私の姓の呼びかけから始まっていました。

ー澤様

突然の手紙で驚かれたかもわかりません。

私はXXX会計事務所でマネージャーを務めているOOOと申します。

私たちの事務所はロンドン郊外の閑静な場所にあります。あなた様の名前を知ったのは日本の大使館とか領事館に問い合わせたりしました。ー

以前にも同じような手紙を受け取ったことがあるので、なんとなく続きがわかるような気がします。

以下に続いています。

ー10年前に澤さんという方が、タイの友達を訪問されているときに心臓発作を起こされて、タイのホテルで亡くなられました。私ども会計事務所は澤様の会計の手伝いをしていました。澤様は自営業者で、主に物品売買にたづさわっておられました。私どものほうで、遺産を管理して、法定相続人に遺産を譲渡する予定でしたが澤様の中国人の奥さんは前年に亡くなられ、子供さんがおられなかったために、係累の方を見つけるのに非常な困難が伴いました。このまま遺族の方が現れなければ、私たちは会計事務所はそれまでの管理費等を徴収したのち、残りは国庫に入ります。係累の方が現れれば、私たち会計事務所には30%、残りの70%係累の方に譲渡されます。

それで私たちは亡くなられた澤様の係累を探していました。いろいろと調べた結果、同姓の澤様に突き当たりました。現在遺産として残っている澤様の金額は10,6ミリオンポンド日本円で1,5億円になります。

お年からして澤様は、亡くなられた澤様のご兄弟のように見受けられます。或いは従弟、なんにしても私たちは デュッセルドルフに住んでおられる澤様は係累であると確信しております。

財産管理終結の期限が迫っていますので、どうかご返事を至急いただけませんでしょうか。銀行関係及び遺産相続の書類等は、すぐに作成できます。あとは澤様のご同意(サイン)だけですので。

私の役職は会計事務所のダイレクティングマネージャーで、Jenny Smithで、ご不審な点がありましたら、Webで会社案内等を調べていただきましたら。幸いです。

10人ほどの会計事務所で、私たちは澤様と同様、つましい生活を送っています。またお客様には真摯に対応していますので、人をだましたりなどは一切していません。

ご連絡お待ちしています。ー

僕はこの手紙を読みながら思わず吹き出しそうになった。2年前に似たような手紙をもらったことがあった。その手紙は、ベトナムで小嶋という男がなくなった、という連絡で、やはり遺産相続の手続きの件だった。

シチュエーションは、少しづつ変えているけれど(前の遺産の金額は6千万円ほど)、もしかしたら、オリジナルの手紙をサンプルにして、書いたのでは、思われるほどだった。

2年ほど前、同じような手紙をもらった時、係累がいないイギリスで暮らしていたという福井県出身の小嶋さんはもしかしたら、親戚かもしれない、と思い・・・というような手紙で僕は弁護士の息子に相談したことがあった。僕が小さいころ、父から親戚がヨーロッパに住んでいると聞いたことがあったからだ。半分以上僕は信憑性があると思い込んでいた。

息子は、まず手紙にサインをしている人間が実存するかどうか、インターネットで確認。確認が取れたら、直接その人に電話。

インターネットで、確認したところ、サインをしていた本人の顔写真が出ていました。アメリカに本社のあるクレディットバンクで、ネットで調べたイギリスの支店に僕は直接電話。担当者の名前を言うと、いま彼女はアメリカに出張中で、なんだったら、私が用件を聞くけど、という男の返事でした。

それから僕は手紙の件を話し始めました。途中で、男が遮り、同じようなことを聞いてきたのはあんたで今日は6件目だよ。そういう財産管理のようなことはしていないし、彼女はそんな手紙なんか知らないと思う。

というわけで、僕はその日受け取ったその手紙封筒ごと細かくちぎり紙専用のゴミ箱に入れました。

                        ー続かないー

次に5(A)に戻ります。







ドイツ生活36年(半生以上)。ドイツの日常生活をお伝えいたします。