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ジャンクヤード・サムライ

 瓦礫と古書の町の大通り、巨大な荷物を背負った行商人や賞金稼ぎが行き交う交差点。道路の真ん中に放置されている建物の残骸に、笑顔の男の顔が描かれた大きな看板が貼り付いている。この町が『ビッグ・スマイル』と呼ばれている由縁だ。

 人通りが少なくなったビッグ・スマイルの夜、交差点近くのハンバーガーショップ内では『ナオミ』と書かれた名札の若い女性の店員が、ラジオから流れる歌謡曲を鼻歌で歌いながらモップがけしている。閉店準備に取り掛かっていたナオミだったが、「手動ドア」と書かれた入口がガラリと開かれると即座に鼻歌と閉店準備を中止し、カウンターへ戻り襟を正した。

 客は初老の男性。袖口の広いゆったりした上着、荒々しく結った白髪交じりの髪、そして、腰にぶら下げた剣はおそらく、刀。まるで旧時代の漫画の、サムライ。右眼は機械化されており、小さい駆動音が聞こえる。ナオミはカウンター裏の「賞金首:砲丸投げのスナギモ 3000トークン 見つけたら保安官へ」のチラシを見て人相の違いを確認し、プロとして笑顔で接客した。

「いらっしゃいませ。ご注文は」

 サムライは懐に手を入れ、 何かを探している。ナオミはレジ下のショットガンの感触を確かめた。

「すみません、これは使えますか」

 サムライは銀色のコインを差し出した。見慣れたコインと奥ゆかしい態度にナオミは安堵した。

「1000トークンですね。使えますよ」

「よかった。では、チーズバーガーの単品とコーヒーのMサイズを」

 スムーズな注文にナオミは感心した。

「かしこまりました。席までお持ちしますので、お掛けになってお待ち下さい」

「ありがとうございます」

 サムライは窓際の席に座り外を眺めていた。突如、巨大な鉄球が飛来し壁を破り、サムライを直撃した。瓦礫の山に埋もれるサムライ。ラジオからは呑気な歌謡曲。崩れた壁から無造作に店に入り込んで来る男に、ナオミは見覚えがあった。

【続く】

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