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「Adhara 1st Live ~SEIRIOS~」朗読劇台本 公開!

ぽか旦那・ぽか女将の皆さん、チョイナー!

FC公式ナビゲーターの「宇田川 美湯」です。

先日行われた「Adhara 1st Live ~SEIRIOS~」で披露された朗読劇の台本を公開しちゃいます♪

ライブにて、曲と曲の間で紡がれた物語をご覧ください♪

「星に集いし乙女の物語~プロローグ~」

【主な登場人物】
・アダーラ
・修道女
・道化師
・鍛冶屋の見習い職人
・魔女
・シリウス


ナ  レ「ようこそ、私たち家族の屋敷へ」

ナ  レ「しー……っ。静かに」

ナ  レ「ここは、現実と虚構の狭間にある場所」

ナ  レ「そして、現実と虚構の物語を紡ぐ場所」

ナ  レ「今宵の演目は、あたしたち自身の物語」

ナ  レ「あるいは……ここではない、別の世界の物語でさぁ」

ナ  レ「さあ、そこに立って。そして、厳かに耳を傾けなさい。舞台が、始まるわ」

【湯の川聖羅 修道女編】
ナ  レ「ある教会に、他人思いの修道女がいました」

ナ  レ「修道女には不思議な力がありました。彼女が手で触れると、どんな病気もいつの間にか治ってしまうのです。
それは夢のような力でしたが、ひとつの代償がありました。
その力を得る代わりに、修道女の姿が誰からも見えなくなってしまったのです」

ナ  レ「教会で祈っていても、誰も彼女がそこにいることに気付きませんでした。
人々の病気を治しても、誰も彼女に感謝しませんでした。
そんな報われない状況でも、彼女はいつもにこにこと笑っていました。
彼女の姿は、まるで自分はそうすることでしか生きていてはいけないのだと思い込んでいるようでした」

ナ  レ「なぜなら……彼女は、自分のことが嫌いだったのです」


ナ  レ「ある夜のこと。教会に、ひとりの旅人がやってきました」

ナ  レ「一晩の宿を借りに来たのでしょう。
旅人の少女は教会に誰もいないことを確認してほっと一息つきました。
どうやら、彼女にも修道女の姿は見えていないようです」

ナ  レ「星のように美しい少女でした。修道女が彼女の横顔に見惚れていると、旅人の少女はふとこちらを見ました」


旅  人「……誰かそこにいるの?」


ナ  レ「まるで場所が分かっているかのように見つめられて、修道女はドキリとしました。
まさか……自分のことが見える人がいるはずがない。
修道女の戸惑いをよそに、旅人の少女は優しく続けます」


旅  人「そこにいるのね。……動かないで。いま、あなたに光をあげるわ」


ナ  レ「そう言うと……旅人の少女の全身から、まばゆいばかりの星の光が溢れました」

ナ  レ「その光は優しく修道女を包み込み、彼女の足元に影を作りました。
光によって影が生まれ、影によって、彼女の実体ができました」

ナ  レ「やがて、今度こそ本当に、旅人の少女は修道女の目を見て言いました」


旅  人「はじめまして、シスターさん」

修 道 女「……!私……姿が見えるようになったのですか!?あなたはいったい……」

アダーラ「私はアダーラ。星の力を持つ者よ」

修 道 女「星の力……!?」


ナ  レ「アダーラと名乗った少女がわずかに顔を歪めたのを、修道女は見逃しませんでした。
よく見ると、アダーラの肌に火傷の痕が残っているのです。
修道女はすぐに火傷の原因を察しました。
大いなる力には代償が伴うことを、彼女はよく知っているからです」


修 道 女「ああ、ひどい火傷……!星の力なんて、ひとりの人間の体が耐えられるわけがありません。
いま治しますから、どうか無茶をなさらないでください」

アダーラ「それは聞けないわ。この輝きを多くの人に届けることが私に課せられた使命なの」

修 道 女「しかし!そのままでは、いずれ自分で自分を滅ぼしてしまいます……!」

アダーラ「それを言うならあなただって同じじゃない」


ナ  レ「アダーラはそう言ってくすりと笑いました。
その笑顔を見てしまうと、修道女は何も言えませんでした。
その笑顔は、自分と同じ、決して報われないことが分かっている者の笑顔だったからです」


アダーラ「あなたと私は同じ使命を背負った存在。
ひとりぼっちではないことが分かっただけで、私は救われたのよ」

修 道 女「……分かりました。ならばせめて、私にあなたのお供をさせてください」


ナ  レ「そうして、旅人と修道女は同じ道を歩き始めました。
アダーラの傷を修道女が癒し、修道女の影をアダーラが照らす。
二人の道のりは険しいものでしたが、決して孤独な旅路ではなかったと言います」

【白骨朋依 道化師編】
ナ  レ「ある広場に、個性のない道化師がいた」

ナ  レ「彼女は平凡で、これといった芸もないのに、生まれのせいで人前に立たなければならなかった。
彼女は人々に笑顔をもたらしてきた偉大な道化師の血筋で、周囲の人々は当然のように彼女にも突き抜けた個性を求めたのだ」

ナ  レ「そんな彼女が選んだ見世物は、仮面を被ることだった。
滑稽な仮面や間抜けな仮面を被って極端な芸をすれば、人々の期待に応えることができた。
文字通りの『道化師』。
彼女は他人(ひと)を笑わせるのではなく、他人(ひと)に笑われる道を選んだのだった」

ナ  レ「しかし、付け焼き刃の芸は長続きしない。彼女の見世物はすぐに飽きられ、彼女は、そのたびに次の仮面を新調しては食いつないでいた」

ナ  レ「そして、彼女はそんな自分のことが嫌いだった」

ナ  レ「そんなある日のこと、星のように美しい少女が彼女の前で立ち止まった」

ナ  レ「『アダーラ』と名乗った少女。その日、道化師の見世物を見るために足を止めたのは彼女だけだった。
道化師はまたしても飽きられたのだ」

ナ  レ「それでも道化師がアダーラのために芸を披露すると、彼女は言った」


アダーラ「(くすりと笑って)素敵な仮面ね」

道 化 師「はあ?」

アダーラ「また来るわ。それじゃあ」


ナ  レ「芸ではなく仮面を褒められても嬉しくない。道化師は少女に芸を披露したことを後悔しながら店じまいし、新しい仮面を買い求めに行った」

ナ  レ「その仮面も人々に飽きられたころ、再びアダーラがやってきた。
明くる日も、また明くる日も、道化師の仮面が人々に飽きられるたびにアダーラはやってきた。
彼女があまりにしつこいものだから、そのうち道化師は嫌になって怒鳴った」


道 化 師「もううんざりだ!あんたの前で芸はしないからな!」

アダーラ「えっ、どうして?」

道 化 師「どうしてって……あんたはあたしが飽きられるのを笑いに来てるんだろ!」

アダーラ「……。それは違うわ」


ナ  レ「道化師の足元をちらりと見て、星の少女は微笑んだ」


アダーラ「私は、偽物が本物になる瞬間を見に来ているのよ」


ナ  レ「……道化師が自分の足元を見ると、そこには今まで捨ててきた仮面の山があった」

ナ  レ「最初の仮面は、笑われるために買った。
二つ目の仮面は、飽きられるのが怖くて買った。
道化師が考えるとおり、ひとつひとつの仮面は偽物だった。けれど。
被り続けた仮面の山は、いつしか本物の何かに変わりつつあった」


アダーラ「道化師さん、私と旅に出ましょう。あなたと一緒なら、たくさんの人を笑わせることができるわ」


ナ  レ「私(あたし)は、それを教えてくれた人についていくと決めたんだ」

【こんぴら桃萌 鍛冶屋の見習い職人(以下、見習職人と略す)編】
ナ  レ「ある鍛冶屋に、不器用な職人見習いがいました」

ナ  レ「見習いは非力で、しかも不器用。およそ鍛冶屋には向いていない少女でした。
当然、彼女が打つ武器の出来はひどいものでしたが、不思議なことに、鍛冶屋の先輩職人たちが少女を叱ることはありませんでした」

ナ  レ「なぜなら、彼女には生まれ持った愛嬌があったからです」

ナ  レ「彼女が工程を間違えたとき、笑えばその場をしのげました。
彼女が刃先を潰したとき、泣けばその場を誤魔化せました。
それもこれも、彼女の愛嬌がなせる業でした」

ナ  レ「そして……彼女は、そんな自分のことが嫌いだったのです」


ナ  レ「そんなある日のこと、彼女のいる鍛冶屋に美しい女騎士がやってきました。
その美しさたるや、鍛冶屋中の職人がふと手を止めるほど。
見習いの少女は、『お星さまが地上に降りてきたみたいだ』と思いました」


女 騎 士「この村で最も美しい刀を作って欲しい。魔物を退治したいの」


ナ  レ「『アダーラ』と名乗った女騎士はそう言いました」

ナ  レ「星のように美しい女騎士に相応しい刀。
鍛冶屋の職人たちは全員で知恵を絞ったものの、全く名案が浮びません。
そこで職人たちは、見習いに試作品の刀を作らせ、アダーラのもとへ送ることにしました。
もちろん、職人たちは見習いの刀がアダーラの眼鏡にかなうと期待していたわけではありません。彼らが期待していたのは、見習いが持ち前の愛嬌で女騎士の望みを聞き出してくれることでした」

ナ  レ「見習いは適当に刀を打ち、いつもの笑顔で騎士のもとへ持って行きました」


アダーラ「ふむ……。これ、あなたが打ったの?」

見習職人「はい!ご不満な点があれば遠慮なく申しつけてくだせぇ!」

アダーラ「……。あなた、失敗を恐れて全力を出せないのね。でも、これでいいわ」

見習職人「えっ……?」


ナ  レ「アダーラは驚くほど呆気なく刀を受け取り、魔物退治に出かけていきました。
意外な形で女騎士の発注に応えることができた鍛冶屋の職人たちは胸をなで下ろしましたが、見習いだけは、嫌な予感を覚えていました」

ナ  レ「アダーラは魔物退治に失敗し、深手を負って村に戻ってきたのです。
失敗の原因は、戦いの最中に刀が折れたこと」

ナ  レ「……笑ってしのぐことも、泣いて誤魔化すこともできない、明確な失敗でした」

ナ  レ「それでも、アダーラは見習いに微笑みかけます」


アダーラ「気にしなくていいわ。失敗したら、もう一度挑戦すればいいの」

見習職人「そんな……。
そんな風には思えやせん……!下手したら命がなくなってたかもしれないのに……」

アダーラ「そうね。私は命を賭けた。それで、あなたは?」

見習職人「……!分かりやした!」


ナ  レ「見習いの少女は脇目も振らずに鍛冶屋に戻り、二本目の刀を打ち始めました」

ナ  レ「仕上げるべきは命を賭けた本気の一本。
しかし、真剣に仕事に向き合ってこなかった彼女がすぐにいい刀を打てるはずがありません。
それでも、見習いの少女は今の全力を注いで一本の刀を仕上げました」

ナ  レ「できあがった刀は、それは不器用な形をしていましたが……それこそが、騎士の望む美しさだったのです」


アダーラ「私の本気に、本気で応えてくれる人。私はあなたを探していたの」


ナ  レ「そうして見習いは何事にも本気で挑む気持ちを思い出し、アダーラと旅に出るのでした」

【乳頭和 魔女編】
ナ  レ「星の光も届かない、暗い暗い森の奥。
そんな場所に、恥ずかしがりやの魔女が住んでいた」

ナ  レ「その森は『魔女の森』として恐れられていた。
森には不思議な霧が広がり、迷い歩くうちに森の外に戻されてしまうのだ。
魔女を退治しようと幾人もの冒険者が森に足を踏み入れたが、誰ひとり、魔女の姿を目にすることすら叶わなかった。
中には対話を試みようとする無害な者もいたが、魔女は得意の変身魔法で自らを鳥や獣の姿に変えて彼らを遠巻きに見守るばかりで、決して自分から姿を見せようとはしなかった」

ナ  レ「なぜなら、彼女は自分のことが嫌いだったからだ」


ナ  レ「そんなある日のこと、森に新たな冒険者が訪れた」

ナ  レ「美しい少女だった。
彼女はまるで星そのもののように光を操り、森の中を確かな足取りで進んでいく。
魔女はいつものように霧の魔法で侵入者を追い返そうとしたが、冒険者は歩みを止めなかった」

ナ  レ「それどころか、魔法を目の当たりにした彼女は森に向かって自らの名を名乗った」


アダーラ「はじめまして。私の名はアダーラ。星の使者です」

魔  女「……何しに来たの」


ナ  レ「魔女は思わず、姿を隠したままに尋ねた」


アダーラ「かわいい声……。あなたに私の光を届けに来たわ」


ナ  レ「――それは、久しく触れてこなかった、他人からの真っ直ぐな好意だった」

ナ  レ「魔女は怖くなった。
こんな私に好意を寄せるなど、なにか裏があるに違いない。そう思った。
魔女は自分に自信がなく、自分が好意に値する存在だとは思えなかったのだ」


魔  女「光なんていらない。森の動物たちがあなたに牙を剥く。早く戻ったほうがいい」

アダーラ「それなら、まずは動物たちと友達になるわ」

魔  女「……。警告はした」


ナ  レ「いよいよ魔女は手段を選ばずに侵入者を追い返そうと試みた。
魔女は自らの姿を巨大な狼に変身させて、うなり声をあげながらアダーラに襲いかかったのだ」

ナ  レ「……しかし、アダーラは不敵に微笑んで言った」


アダーラ「見つけたわ、かわいい魔女さん」


ナ  レ「暗い森の中に、一筋の星の光がきらめいた。
アダーラの放つまばゆい星の光が、頑なだった魔女の心を溶かしていくようだった」


アダーラ「本気で追い返すつもりなら、私を噛み殺せばよかったのに」

魔  女「そんなこと……できない」

アダーラ「そうね。どんな姿に変わっても、あなたは優しい女の子。
私は見失わないわ。さあ、私についてきて。外の世界を見せてあげる」

魔  女「……」


ナ  レ「魔女はひとりが好きだった。ひとりでいれば、誰にも忘れられなくてすむからだ。
魔女は変身が好きだった。変身していれば、ありのままの自分を出さなくてすむからだ。
暗い森の中は、そんな彼女が暮らすのに一番心地いい場所だった」

ナ  レ「けれど――今の彼女には、もっと心地いい場所ができてしまった」

ナ  レ「自分の存在を初めて認めてくれた人」

ナ  レ「その背中を追うために、魔女は森を出る決心をしたのだ」

【黒川姫楽 アダーラ編】
ナ  レ「こうして、彼女たちはひとりの少女に救われました」

ナ  レ「彼女たちの行く道を照らしてくれた、優しくて凛々しい女の子。その名前は……」


修道女・道化師・見習職人・魔女「アダーラ」


ナ  レ「今宵の舞台では、それは、星の力を持つ少女の名前だ」

ナ  レ「はたして彼女はどうしてそんな強い子になれたのか。
今宵最後の物語は、二つの星のお話。
あるいは、プロローグのプロローグです」

ナ  レ「それでは皆さん、どうぞご清聴を……」

ナ  レ「これは、今は亡き小さな国の物語です」

ナ  レ「とある世界の片隅に、『セイリオス』という小さな国がありました」

ナ  レ「セイリオスは穏やかな国でした。
国内にはいくつかの鉱脈があり、そこからは天然の宝石がとれました。
国王一家と国民は家族のような関係で結ばれ、小国ながら、人々は豊かな暮らしを送っていたのです」

ナ  レ「それゆえに、セイリオスは他国から狙われていた」

ナ  レ「セイリオスには一人のお姫さまがいました」

ナ  レ「姫の名前はシリウス」

ナ  レ「穏やかな国で多くの人に愛されて育ってきた心優しいお姫さまでした。かといって、こういうお姫さまにありがちな世間知らずではなく、シリウスは次の女王としての自覚も十分でした」

ナ  レ「蝶よ花よと育てられてきた彼女が現実的な自覚を育めた理由、それは……」

ナ  レ「――シリウスは、自分の影武者がいることを知っていたからだ」


シリウス「アダーラ、アダーラ。起きて」

アダーラ「ん……んん……(と目を覚まして)……姫さま?」

シリウス「こんばんは。今夜も来ちゃった」

アダーラ「またですか?(呆れながらも嬉しそうに)まったく、仕方のない姫さまですね」

シリウス「さあ、今宵もお話ししましょう。あなたのこと、私のこと――」


ナ  レ「セイリオス王宮の奥深く、隠された部屋に幽閉されている少女がいた」

ナ  レ「彼女の名はアダーラ。シリウスと同じ年頃の少女でした」

ナ  レ「豊かな国にも影はある。
城下町の貧しい家に生まれたアダーラは、シリウス姫に容姿が似ているというそれだけの理由で、姫の影武者として親に売られたのだ」

ナ  レ「影武者の存在は誰にも気取られてはならない。
息を潜めて生きていたアダーラの唯一の楽しみは、シリウスがお忍びでやってきて他愛もない話をする夜の時間だった」

ナ  レ「穏やかなシリウスの言葉は、アダーラの心を大いに癒しました」

ナ  レ「国の影を知るアダーラの言葉は、シリウスの成長を大いに促しました」

ナ  レ「月並みな言葉になるけれど、私たちは確かに親友だった」

ナ  レ「しかし、幸せな日々は長くは続かなかった!」


ナ  レ「運命の針は突然動き始めた。
豊かな資源を狙った大国が、前触れもなくセイリオスに攻め込んだのだ」

ナ  レ「国力の差は明らかでした。
苛烈な猛攻に晒されたセイリオス王宮は、一夜にして陥落してしまったのです」

ナ  レ「悲鳴、怒号、血と火薬の匂い。
死の予感は、アダーラが隠れる部屋にまで届いた」

ナ  レ「アダーラは、自分の運命を悟った」

ナ  レ「この時のために自分がいるのだと思い出したのです」

ナ  レ「けれど、それでよかった」

ナ  レ「シリウスのために死ねるのなら、それ以上の幸福はない」

ナ  レ「ついにこの部屋から出るときが来たのだ。アダーラは意を決して立ち上がった」


シリウス「アダーラ!」
ナ  レ「そこへ、シリウスが一人で駆け込んできました」

ナ  レ「護衛の姿はなかった。だが、アダーラは姫の無事に安堵した」

ナ  レ「シリウスは震える手で部屋の錠前を落として、こう言った」


シリウス「あなたは今日、此処から出る。生まれ変わるの」

アダーラ「はい、覚悟はできています」

シリウス「さあ、ついてきて」


ナ  レ「物音の一つも聞こえない、静かな夜でした」

ナ  レ「アダーラはシリウスに手を引かれて王宮の隠し通路を進んでいった。
アダーラは王宮の構造を知らなかったから、姫についていくしかなかった」

ナ  レ「やがて、二人は王宮の外に出る隠し扉にたどりつきました」

ナ  レ「シリウスは言った。『アダーラ、ここから森へ出られるわ』」

ナ  レ「その言葉を聞いて、アダーラは首を傾げた。どういう意味だろう。
私は、姫さまの身代わりに処刑されるはず……」

ナ  レ「しかし、考える時間はありませんでした」


敵 兵 士「こっちだ!足跡があるぞ!」

敵 兵 士「姫がいるはずだ!絶対に捕らえろ!」


ナ  レ「敵意に満ちた声が隠し通路に響いた。近づいてくる足音。
死の予感にアダーラが身をすくめた瞬間 ――彼女の背中が強く押され、隠し扉の外へと押し出された」

ナ  レ「そして……シリウスは、扉の向こうで鍵を閉めてしまったのです」


アダーラ「姫、さま……?……姫さま!何をお考えなのですか!ここを開けてください!」

アダーラ「姫さま、姫さまっ!!」

シリウス「アダーラ」

アダーラ「っ!」

シリウス「この国は一度滅びる。もう、その運命は変えられないわ」

シリウス「だけど、この国の民は必ずもう一度立ち上がる」

シリウス「だから、アダーラ。
あなたには、私の身代わりではない、新たな使命を与えます」

シリウス「どうか私の代わりに、この地に輝きを取り戻して」

アダーラ「なにを言っているのですか!いけません!姫さまーっ!!」

シリウス「大好きよ。私の大切なお友達。さようなら」


ナ  レ「そう言うと、彼女は自ら兵士たちの前に名乗り出て」

ナ  レ「シリウス姫は、処刑されたのだった」

ナ  レ「そうして、平和だったセイリオス国は滅びた」

ナ  レ「なのに、私は姫を守るという使命を果たせず、無様に生きている。
隠し扉の外、暗い森の中を歩きながら私は泣いた。
自分を呪った。やがて涙も声も枯れ果てたころ、私は森を抜けた。
そこは小高い崖のような場所になっていて、眼下には、懐かしい城下町の光景があった」


ナ  レ「外の街並みを見るのは久しぶりだった。
城下町は戦いの傷跡でめちゃくちゃになってしまっていて、私の絶望に追い打ちをかけるようだった」

ナ  レ「ふと、うちひしがれた私の耳に、声が聞こえてきた」


国  民「おい、そっち持ってくれ!」

国  民「行くぞ!せーのっ!」


ナ  レ「人々の声だった。私は顔を上げて、目を見開いた」

ナ  レ「城下町の人々は、早くも復興へ向けて立ち上がっていたのだ」

ナ  レ「そして……宵闇の空には、どの星よりも明るい星がその光景を見守っていた」


シリウス「だから、アダーラ。あなたには、私の身代わりではない、新たな使命を与えます」

シリウス「どうか私の代わりに、この地に輝きを取り戻して」

アダーラ「シリウスは信じていたのだ。人々が立ち上がることを」

アダーラ「シリウスは信じているのだ。私が生まれ変わることを」

アダーラ「――承りました。姫さま」


ナ  レ「彼女の望みは、私の使命として心に宿った。
かの地にもう一度輝きを取り戻すため、私は生まれ変わる。
それが、私のなすべき使命なのだから――」


ぽか旦那・ぽか女将の皆さん、いかがだったでしょうか?

ライブで実際に観た時の感動が、再び間欠泉のように吹き上がってきました!

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