教育問題に関する雑感

・ブログに2010年4月22日公開した文章の転載
・橋下徹が大阪府知事だった時に書いた文章です 

マスメディアにおける教育に関する言論をみていると、日本人の多くが御上(行政)の威光、権威を必要以上にありがたがり、これに依存していることがよくわかる。
ゆとり教育に反対だ賛成だと、教育政策の基本方針に関していろんな人が自分の考えを述べている。だが、教育行政のトップの人間が管理教育・詰め込み教育の方針を決めれば、全国一律で詰め込み教育、一転ゆとり教育の方針をうちだせば、北から南までその方針に従順に従ってゆとり教育、政府・教育行政のトップの人間による一元的な管理教育体制をそのまま維持しようとする発想はかわらない。ただ、教育方針の内容をめぐってあれこれ論争らしきものがおこっているにすぎない。

教育行政の仕事は、教育全体が大きく逸脱しないようシステムや制度の調整にとどめて、個々の教育内容は多元化・自由化した方がいいだろう。
近代的な国民国家における公教育の目的は、学校教育を通じて近代的な国民国家に相応しい人間をつくりだすことにあった。だが国民国家の完成、近代化の進展、経済発展などによる価値観やライフスタイルの多様化により、公教育を通じて政府の望む通りの人間をつくろうとする方針自体に限界がきたといえる。
教育行政の仕事は、教育を受ける機会や場所をきちんと提供することとして、教育の内容は、生徒の能力や価値観、将来の目標などに応じて選択できるよう、ある程度多元化していくべきだろう。  

○全国学力テストに関して

全国学力テストに関しては、競争志向のつよい人たちが、競争(学力テスト)を通じて生徒たちの学力を向上させようとこれを支持し、平等志向のつよい人たちが、競争が教育にマイナスの効果をもたらすとしてこれに反対する、というあいかわらずのステレオタイプの論争らしきものがマスメディアで繰り広げられている(日教組嫌いの人の中には、この問題を日教組叩きの道具として利用しようとしている人もかなりいるみたいである)。

全国学力テストを実施する目的は、これを通じて各地域の生徒たちの学力レベルを、統一基準の下で計ること、全国統一の学力テスト実施(競争)によって、生徒たちのやる気を引き出そうということ、の2つであるらしい。
生徒たちの学力レベルを計ることが目的であるならば、学校別・市町村別・都道府県別の平均点の結果を公表する必要はない。結果を知りたい人に個別に教えればいいだけだろう。マスコミが教えてくれといった時に教えるべきかといった問題は残るが。(それ以前に、そもそも何のために文部科学省が全国の生徒たちの学力レベルを把握する必要があるのかという疑問が残るけれども。)

競争によってやる気をひきだそう、学力を向上させようというのであれば、参加したい生徒だけがテストを受ける形にすればいいだろう。そもそも、学力競争とは個人単位で行うものであって、学校単位・市町村単位・都道府県単位で競争させようという発想がおかしいのである。個人単位ではなく組織単位で競争させようとすれば、平均点をあげようとして成績の悪い生徒にテストを受けさせないという事態も当然生じるだろう。

また、学校別・市町村別・都道府県別の平均点の結果を教師の人事考課・能力評価の基準にすることは、公平さ・公正さといった点で問題がある。もし、テストの平均点を評価基準にするのであれば、平均点そのものではなく、間をおいて再びテストを実施し、前回の平均点との増減を比較して評価すべきだろう。
あるいは、IQテストも同時に実施し、そちらの平均点の順位と比較しなければ公正な評価はできないだろう。

大阪の橋下知事は、大阪府の順位が40何位だとかいって、教師たちをテレビで叱りつけていた。
だが、大阪の生徒たちのIQテストの平均点が最下位だったとしたら、生徒たちが頑張ったから、あるいは教師たちの教え方がよかったから、能力以上の結果をだせたともいえる。逆に、IQテストの平均点が30番台より上だったとしたら、生徒たちが怠けていたから、あるいは教師たちの教え方が下手だから、能力以下の結果しか出せなかったとして批判されるだろう。
(橋下氏はそんなに教育熱心ならば、テレビに出てタレント活動をして、教師たちが手にできないようなギャラを貰ったりせず、自分が教師になって大阪の子供たちの学力向上に努めればよかったのに。)

なお、誤解されるといけないのであらためて説明しておくと、私は「IQテストを実施してその結果を公表しろ」と主張しているわけではない。「学力テストの学校別・市町村別・都道府県別の平均点の結果を教師の人事考課・能力評価の基準にするのであれば、IQテストの平均点も考慮にいれなければ、公正な評価はできない。」といっているだけであるし、そもそも学校別・市町村別・都道府県別の平均点の結果を教師の人事考課・能力評価の基準にすること自体に反対している立場である。

私自身の全国学力テストに対する考えは、全員強制参加のテストではなく、希望者のみ参加できるテストを実施すればいいという考えである。
中学生に対しては、現在の一発勝負の高校入学試験を原則廃止し、全国共通テストを年何回か実施し、その結果を参考にして各高校が合格者を決める方式にあらためるべきだと考えている。現在の入学試験制度は、試験対策用のテクニックばかり身につけることになって弊害の方が大きいように思う。もっとも、ここで提案した制度にかえても、今度は全国共通テスト対策のテクニックばかり身につけることになって、何もかわらないかもしれないけれども。

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