言葉についての雑考・その1「シナ(支那)」

・ブログに2011年8月7日公開した文章の転載

シナ(支那)という言葉は呉智英などが言っていたように、元々は国や地域を表す言葉であり、侮蔑語・差別語ではないだろう。
だが、おそらくは戦時中(もしかしたらそれより前の時代から)少なからぬ日本人が差別的・侮蔑的な意味を込めて使っていて、そのために戦後は差別語・侮蔑語とみなされるようになったのだろう。

実際、シナ(支那)という言葉を侮蔑語・差別語としてではなく、単に国や地域を表す言葉として使っている(いた)のは呉智英や浅羽道明など少数の人で、この言葉を使っている人たちは差別的・侮蔑的なニュアンスを込めている人が多い。(シナという言葉を使用したいが、中国に対して差別的・侮蔑的な感情をもっていると誤解されるのをおそれて、この言葉を使わない人もけっこういそうではある。)

自分は呉智英に対しては特に否定的な感情はもっていなかったのだが、90年代中頃「朝まで生テレビ」での発言を聞いてあきれたことがある。
そこで、自分(呉氏のこと)がなぜ中国という言葉を使わず、シナという言葉を使っているのかいくつか理由をあげていた。(うろ覚えの記憶のため、多少ニュアンスにちがいがあるかもしれない。)
「中国という言葉は中国人の中華意識のあらわれだから、日本人が使用するのは適切ではない」「シナを中国と表記すると日本の中国地方と紛らわしい」。
他にもいくつか理由をあげていた。「日本の中国地方と紛らわしい」という説明は合理的な理由であり、呉氏があげた理由のなかでは一番説得力があった。

だが、次の発言を聞いたときには耳を疑った。「日本人がシナという言葉を使用することは批判するのに、欧米人がchinaという言葉(あるいはそれに該当する言葉)を使用することには何も言わないのは逆差別だ。」
中国人が、日本人がシナという言葉を使うことに抗議したり不快な感情をあらわすのは、中華意識を充たしたいからではなく、多くの日本人がこの言葉を侮蔑的・差別的意図を込めて使っていたからでしょ。
一方、欧米人がchinaという言葉を使っても抗議しないのは、欧米人はchinaという言葉を国や地域を表す言葉として使っているだけで、そこに侮蔑的・差別的意図がないからでしょ。
日本人がシナという言葉を侮蔑的・差別的な意図を込めて使ったりしなければ、おそらくはシナという言葉を使うことに抗議などしなかったろう(それでも抗議していたのなら、呉氏の批判はもっともだといえるが)。
また、欧米人がchinaという言葉を侮蔑的・差別的な意図を込めて使ったのなら、当然そのことに抗議するだろう。
呉智英は、そんなこともわからない鈍い人だったのかと自分のなかでの評価はガタ落ちした。(もっとも、日本人がシナという言葉を使うことに対して多くの中国人が不快感を感じている。そのことを知っていながらシナという言葉を使っていたのだから、鈍いっちゃあ鈍いんだけどね。ただし、呉氏はシナという言葉を国や地域を表す言葉として使用しているだけで、そこに侮蔑的・差別的意図はないから、氏がシナという言葉を使うことを非難するつもりは少しもない。)

ちなみに自分は、「中国」という言葉は戦後のある時期から単に国や地域を表す言葉となり、そこに中華帝国の思想や中国人の中華意識が表されているとは思わないので中国という言葉を普通につかっている。特別なこだわりがあるのならともかく、そうでない場合、多くの人が使用している言葉を使った方が合理的なので。

何カ月か前に見たyoutubeに、アニメ「さよなら絶望先生」の中の一場面がupされていて、ネトウヨらしき人たちが大量にコメントを寄せていた。
その中に「(中国人は)日本人がシナという言葉を使うことは非難するのに、欧米人が使っても何も言わないのは逆差別。それに気付かないのは中学生(だったか小学生)レベル」といったコメントが寄せられていた。「お前は幼稚園レベルだろ。」と思ったが、呉氏本人はネトウヨたちのこうした発言をみたらどう思うのだろう。
(この文章って、呉智英を幼稚園レベルと非難しているようにも読めるよね。まっ、いいや。)

[おまけ]
何年か前に読んだ浅羽道明の本には「シナ」という言葉が使われていたが、半年近く前(うろ覚え)に読んだ雑誌では「シナ」ではなく「チャイナ」という言葉を使っていた。心境の変化でもあったのだろうか。

[おまけのおまけ]
今回引用した呉智英の発言とほぼ同じ発言をしていた有名人もいたが、あえて名前を出さなかった。その有名人は自分のことを記述しているブログをこまめに巡回しコメントを残しまくっているが、はっきりいって鬱陶しいので名前を書くのをやめた。名前を書いていたら、このブログも見にくる可能性が高いが、名前を出していないので見にくることはないだろう。

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