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夏の終わりに宛名のない手紙を君に

ゆっくりとゆっくりと
たっぷりとたっぷりと
十代だった頃の自分に潜っていく
あの日僕は何に苦しんでいたのだろう?

僕の周りにあるのは「差」ばかりだった。

あそこの学校は学力が高いよ
あの女の子は綺麗だね
あいつ面白いよなぁ
あいつは喧嘩が強いらしいぜ
あの人は自分よりもあの子が好き

いちいち劣等感を感じてしまうような
そんなことが一体いくつあったんだろう?

差別はいけないと大人には教えられる
それなのにそこに厳然と「差」は存在し続ける
差を笑えば差別で、差を埋めれば努力
じゃあ心の中はどうなんだよ
劣等感を感じてしまう自分はなんなんだよ
全ての「差」の中でどうやって生きていくんだよ

大好きで自由な夏休みが終わることが哀しかった
自由な自分の世界から、他者と生きる社会に出ることが嫌だった
またあの劣等感を感じることがわかっていたから

嘘ばっかりじゃないかと思ったよ
誰もが心の中で差別しながら生きてる
綺麗ごとを言う人が良い人だなんて
なんだかこんな場所にいたくないよ
そんなこと、何度も考えたんだと思う

だから大人になって驚いたよ
あれほど敏感に感じていた「差」なんてあっという間に消えた
いや、正確には消えてなんかないんだけれど
少なくても学校なんていう小さな場所の中の価値観なんて瞬間で消える
かつて人気者だったやつもあっという間にその辺の奴になる
かつて地味だった女の子があっという間に綺麗に着飾る
自分が感じていた「差」はまるで幻覚だったかのように

大人には大人の「差」があったけどね
その代わり大人の世界は広くって、同じようなやつがみつかった

正直今も劣等感の塊さあ
困ったことに自分は人よりも劣っていると無意識に考えている時がある
生まれ持ったもので誇りを持てるものなんてないよ
あるとすれば自分の手で生み出してきたものだけが今は誇りだい

僕の時代と今の時代が同じとは思わない
ネットやスマフォなんていう世界がなかったからさ
きっと違うよねぇ
毎年夏休みが終わると死を選ぶ10代が多いと聞いている
僕の頃もそうだったのかなあ

でもとりあえず「差」になんか苦しまないでおくれ
そんなもんあってないようなもんだから
優劣なんて場所が変わればひっくり返るんだぜ
小学校では運動のできる子がモテただろう?
中学校では面白い子かな?
高校生になるとオシャレな子とかさ
な!その場その場のノリでしかないんだよ、差なんて

まあ別になんか先輩ぶるのもどうかと思うし
偉そうに何かを言えるほど立派な人間じゃないし
むしろ十代には馬鹿にされてもおかしくない生き方だけど
自分が十代だった頃を思うと原点は「差」だったと思う
それとさ、軽度の若さの持つ特有のやつね。
鬱まで行かない、憂鬱ってやつ
死んじゃおっかな、なんて誰もがふと考えるものさ

まあ心臓が飛び出るほどびっくりするから
こんなに自分が泣くんだって日が来るから
少なくても僕は感動を知った日から世界が変わったから

今はむしろ憂鬱を楽しむぐらいがいいのさ
それはいつか大人になった時に
嫉妬するぐらいに美しいから

暗黒の憂鬱な時代なんて言いながら
誰だってその奥の純粋を思い返すことになるからさ

頼むから
生きていつか会いに来ておくれよ
なんかこの辺りにいるからさあ
それで僕を馬鹿にしたらいいさ

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