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シャリシャリと撫ぜる坊主頭のブルース

芝居を始めてすぐの頃。
先輩たちと一緒に居酒屋に行った。
なんか途中からその店の店長も交じって先輩たちの話を聞いてたら。
突然、その店長に髪の毛を鷲掴みにされてさ。
お前、生意気だな。コノヤロウって言われて。
すっげぇ痛くて、なにこれ?こんな感じ?ってなった。
本人はどう思ってるか知らないけどエラくむかついた。

次の日、坊主頭にした。
そんで、その店に行った。
もう髪の毛を掴むことは出来ねぇだろがと思って睨みつけた。
なんと店長、まったく覚えていないようだった。
相当酔っ払っていたみたい。
いらっしゃいませーじゃないよ。
なんだか肩透かしだよ。

シャリシャリと坊主頭を撫ぜながらツッカケで歩く。
なんだったんだよ、あれ。
なんで坊主になったんだよ、これ。
まぁ、別にいいんだけど。楽だし。
どうやらこの世の中は理不尽みたいだぜと自分に嘯いた。
正直でありたくても力づくで抑えつけてくるぞと気付いた。

あれは春だった。
公園にはキャッチボール禁止の看板が立っていた。
何言ってやがんだ。
言葉のキャッチボールも禁止してんじゃねぇのか?
ホームレスのおじさんが謎のスープを煮込んでた。

ねじくれた厭なガキ。
坊主頭でツッカケを引きづって。
ムカつけば大人を睨み返して。
世の中を斜めに見て。

何もわかっていなかった。
何かをわかっているような気がしていた。
あの頃も政治家たちはお金のことばっかだった。
あの頃も空は青かった。
あの頃も遠い空の下で機関銃が鳴り響いてた。

坊主頭のクソガキはそこでやさしい大人に出会った。
いつも不機嫌そうで、なんだか怖い人だったけれど。
ああ、やさしいんだなこの人はと気付いた。

お前に貸したいCDがあるんだけどと声をかけられた。
余り話したこともなかったけれどなんだか嬉しかった。
まだインディーズの頃のエレカシだった。
いつの間にか話をするやつらがいた。

何が変わって。
何が変わっていないのだろう。
理不尽は今もあちこちに落ちている。
髪の毛を掴む大人になっているのか。
やさしい大人になっているのか。
あの坊主頭に今の僕を聞いてみたい。

知らねえよって答えるだろう。

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