シャンパングラスで日本酒を⑦最終章

現代を生きるこんな女がいる。フィクションかノンフィクションかは秘密。


他人の為に生きる毎日なんてつまらない、つまらないと思われそうな人生なんて歩みたくない。私は私の思うまま、誰にもとらわれずに理想を貫いて人生を全うしたい。例えるならば、私はシャンパングラスで日本酒を飲みたいのだ。きっとこれは、普通の人生が幸せだと思っているあなたには、到底理解できない例えかもしれないけれど。

思い出話ばかりをして、一体いつだったかは思い出せないが、ふと、生きて行く中で辛くて悲しい出来事はたくさんあるけれど、全部が通過点で死ぬわけじゃない。全てかすり傷だから時間が経過すれば忘れる。悲しい気持ちを引きずるくらいなら、楽しくお酒を飲んで次に楽しいと思える事を見つけたほうがいいと思ったことがあった。私の傷ついた心やプライドは私以外の誰にも救うことは出来ないし、だったら私が思う私らしい正義で、私が幸せだと思う選択をしていこうと思った。それが人の幸せよりも大きくてキラキラしたものであったら、より嬉しい。だから私は普通の幸せなんかよりも刺激的で魅力的で、シャンパングラスで日本酒を飲むような特別な恋を生きようと思っていた。
でも入籍をした今、なんとなくだけれども、シャンパングラスはシャンパンを飲むためのものだし、日本酒はおちょこで飲むのが正解なような気もしている。
今日の事を、家に帰ったらなんと話そう。入籍をした直後、不思議な虚無感を抱いてしまった私は、前に恵比寿横丁で声をかけてきた日本橋に住むIT企業のサラリーマンと飲み行き、身体の関係を持ってしまった。幸せな結婚をしたはずなのに、どこか虚しい気持ちを忘れるかのように、「友人と朝まで飲む」と夫に嘘をついた。
あれだけ結婚を急かしてい彼女が、まさか入籍二日後に違う男と朝を迎えていたなんて夫は思わないだろう。私は最低だなとも思ったが、でももう過ぎてしまった事を変えることは出来ないので、必死に日常へ戻ることだけを考えようと思う。私が望む幸せはどこにあるのだろうか。幸せってなんだろう。それは私にも、私と結婚をした夫にも今はまだ分からないし、多分きっとこれから、夫婦としてやっていくしかないのだろう。その先にきっと望む幸せがあるのだろう。
寝不足の身体にタクシーの窓から降り注ぐ朝日は、三十代の身体にはかなりきつい。もうあの頃のように、オレンジに色づく空にワクワクすることはないのかもしれないと思うと少し切ない。
家に帰ったらもう一度眠りたい。そしたら今夜は入籍祝いに外食でもしよう。
シャンパングラスでシャンパンを飲もう。


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