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[オーディオ][DAC]Ferrum Audio WANDLA + HYPSOS 導入記

 新しいDACを導入しました。ポーランドのオーディオメイカー、Ferrum Audioの「WANDLA」と同社の強化電源「HYPSOS」のペアです。

 それまで私はSOULNOTEのsd2.0というDAコンバータを使っていました。これに設計者である現FUNDAMENTALの鈴木哲氏のチューンを施したsd2.0FTです。

 sd2.0も大変に優れたUSB-DACですが、発売は10年以上前、USBドライバーの更新も終了しており、USB入力端子は使えなくなっています。そこでMUTECのDDCをかましてそこから同軸デジタルケーブルをsd2.0FTに繋ぎ、バランスアウトしてアンプに信号を送る、という態勢でやってきました。途中からSILENT ANGELのネットワーク・トランスポートを導入したり、ハブやLANケーブルをグレードアップするなどしてかなり満足度の高い音にはなってきましたが、いずれにしろDACのスペック上、DSDは聴けず、MQAもフルデコードはできません。もちろんポップ・ミュージック主体で聴いている私が持っているDSDファイルなどごくわずかですし、ハイレゾも24/192はおろか24/44.1や24/48の方が圧倒的に多いジャンルですから実用上はMUTEC+sd2.0で全然問題ないんですが、やはり10年以上の前の機種です。一番技術革新が急速なデジタルオーディオの世界で、最新のDACがどんな音なのか、体験したいという気持ちが高まってきたのです。

 そこからDAC探しの旅が始まったんですが、これが難航しました。sd2.0の発売時定価は30万円台半ば。50万+αぐらいで良いものがないものか。いろんな機会を捉えて新しいDACを聞いたんですが、その過程でいかにsd2.0が魅力的な音なのか再認識しました。中低域が骨太で力強くエネルギーがあり、音がどんどん前に出てくるが、バランスがよく音楽に躍動感もある。それに比べ新しいDACは解像度は高いしクリアな音はするんですが、キレイすぎて線が細くて物足りない。某オーディオ店で尋ねるとsd2.0のような音を出すDACはほかにない、そのままsd2.0を大事に使ってください、と言われてしまうし、別の某店では100万以上級のDACでないとグレードアップは無理、と断言されてしまいました。そりゃDACだけで100万以上をポンと出せるような財力があれば誰だって苦労はしませんよね。

 そんな中で気になり始めたのがFerrum AudioのDACでした。昨年日本発売されたERCOという機種でしたが、いくつかのオーディオ雑誌のレビューや試聴記等を読むと、今ドキのDACにしては珍しくアナログっぽい音作りだとある。つまり最新のDACらしく細かいところがキレイに聞こえるだけでなく、音楽を骨太に表現する力強さのようなものがあるのではないか。そして私が何よりピンときたのがそのルックスです。

ERCO 日本輸入元の公式サイトより

 とはいえERCOは音質上別電源のHYPSOSは必須だというし、両方あわせると価格は60万を軽く超える。一応予算の範囲内ですが、さてどうしたものか。迷っているうちにERCOの上位機種のWANDLAがリリースされました。

WANDLA 日本輸入元の公式サイトより

 ERCOが日本発売になったのは2022年9月ですから、それから1年もたたないうちに上位機種の発売には驚きましたが(ERCOはWANDLA発売と同時に10万円以上値下げ)、発売の報を聞き、写真を見た私はERCOの時以上にピンとくるものがありました。そこでちょうど開催されていたOTOTENに出向き、展示されていたWANDLA+HYPSOSの音を聞きました。

◎エミライのブースで聞いたフェルムオーディオのDAC。元々非常に興味があり、楽しみにしていた。TIDALでブリアルの「Untrue」を聞いたらめちゃくちゃ良かったけど、周りがうるさいせいもあり、ソナスファベールのスピーカーの力なのか、ベンチマークのアンプの力なのか、それともDACの力なのかよくわからず。もちろんプロのオーディオ評論家なら、こんな状況でも見当はつくんだろうけど、私はやはり自宅環境で聞かないとわからない。

 実際に見たWANDLAのデザインはもろに好み。サイズが小さいのも気に入りました。もちろんスペックも現時点で望みうる最高のものでしたが、私はクルマもオーディオ製品も購入への最終的な決め手はルックスだと思ってます。よってルックスに魅せられた時点で買う気モードはかなり高まっていたんですが、やはりもう一押しがほしい。その後ポツポツと出始めた雑誌やWEBの記事を読むも、どうもピンとこない。やはりどこかでもう一度じっくり聴く機会がほしい、それもできれば自宅試聴したい。いくらルックスが良くても音質面でsd2.0を超えなければ意味がないですからね。

 そこで輸入元の公式サイトを見ると、都内でWANDLAを常設展示しているお店は2店しかありません。つまり試聴可能なのは2店だけ。しかしラッキーなことに、そのうちの1店は私の使っているFUNDAMENTALのアンプPA10も常設展示しているという。

 早速メールを出して事情をお話して、お店に出向いて試聴してきました。来店は予約制ということでほかにお客さんがおらず、全くの貸し切り状態でお店の方とじっくり話しながら2時間。WANDLA単体よりもHYPSOSを加えた状態のほうがはるかに音が良いこと(これは一聴してすぐにわかるレベルでした)、あわせて60万円台のミドルクラスDACであっても他のちょっと古めのハイエンドDAC以上の実力があることを確認しましたが、スピーカーも送り出しの機器も、なにより鳴らす部屋も異なる状態では、最終的な決断はできません。私にとっては決して安い買い物ではないので。その後自宅試聴を申し出たところ快くOKしていただき、自宅試聴を経て購入を決断。期待通り、sd2.0を上回る音質で鳴ってくれて心底ホッとしました。そして拙宅にWANDLA+HYPSOSの新品が納品されたのが8月4日の夕方でした。

 しかしこの後大きな問題が起こります。

 この機種はUSBがType-C端子なのです。ポータブルオーディオやヘッドホンオーディオの世界ではC端子はよく使われているようですが、ホームオーディオの世界ではUSB-DACといえばまず大半がType-B端子で、C端子というのは非常に珍しい。WANDLAは小さなボディに豊富な入出力端子を備えていますが、C端子になったのは、これからCが主流になるというメーカーの予測と共に、スペースの関係もあるかもしれません。WANDLAはヘッドホンオーディオの世界でも注目されているようです。

 私もオーディオ用USBケーブルを何本か持っていますが、いずれもA→Bタイプで、A→Cは持っていません。もちろんWANDLA付属のA→Cケーブルはありますが、か細くていかにも頼りない感じ。見た瞬間これは交換必須だと思いましたが、ひとまず手持ちのA→Bケーブルを活かすために、B→Cの変換アダプターでもつけて急場を凌げばいいや、ぐらいに軽く考えていたのです。

 ところがいくら調べてもB→Cの変換アダプターも変換ケーブルも出ていない。オーディオ用はおろかパソコン用も売ってないのです。単に需要ないから出てないのか、技術的に不可能なのかわかりませんが、これは全くの想定外でした。しかしないものは仕方ない。以前特注ケーブルをお願いしたお店に変換アダプターもしくはケーブルが制作可能か訊いてみましたが、技術的に難しい上にコスト的にもかなり高いものについてしまうので無理ということ。マジかよ……。

 DAC(WANDLA)に繋ぐネットワークトランスポートはLUMIN U2 MINIですが、出力端子はUSB-Aと同軸、光など。そしてWANDLAの性能をフルスペックで発揮させるためにはUSB-C端子かi2S端子に繋ぐしかない。LUMINにはi2S端子がないから、やはりUSBケーブルで直結するしかないのです。

 ならば手持ちのA→Bケーブルを活かすことは諦め、市販のUSB A→Cタイプのオーディオケーブルを探してみますが、サエク、オーディオクエストぐらいしか出してない。当たり前ですね。そもそもC端子のUSB-DACの数自体が少ないんですから。海外のケーブル専門店を見ても事情は同じ。選択肢が少なすぎる。そこで特注も受け付けてくれるという某有名ケーブルメーカー(私も同社製のA→Bタイプのケーブルを持っている)にA→Cのケーブル制作が可能か訊いてみましたが、C端子でケーブルを作ると音質面で難がある、なのでA→Aのケーブルを特別制作して、そこにA→Cの変換アダプターを付けるのが音質面を考えると現状ではベストであろう、という全く想定外の答えが返ってきました。なるほどそんな解決法もあるかと感心しましたが、どうせお金出して特注するならダイレクト接続の方がいいですよね。実はWANDLAを買ったお店がA→Cのケーブルを制作中らしいのですが、完成はまだ先、しかもコスト的にもけっこう高くつきそうということで、これも先行き不透明。

 ここで選択肢は4つ

1)諦めて付属のA→Cケーブルを使う。付属ケーブルで音に不満があるわけではないので、これでもいい。が、精神衛生上すっきりしない。
2)お店特製のA→Cケーブルを待つ。
3) サエク等の既製品のA→Cケーブルを買う
4)   某ケーブルメーカーにA→Aケーブルを特注しA→C変換プラグをつける

 さてどうしたものか……考えるうち、DDCという手があることに気付きました。幸いなことにWANDLAはフルスペック再生対応のi2S端子を備えている。DDCのUSB-B端子にLUMINからデジタル信号を入れ、i2Sで出力してWANDLAのi2S端子にHDMIケーブルで繋げばいいんじゃないか。これなら手持ちのA→Bケーブルが生かせるし、ヴィジュアル用に買ったそこそこ良い(数千円程度ですが)HDMIケーブルも手元にある。

 ここで手持ちのMUTECが生かせれば最高だったんですが、残念ながらMC-3+USBはi2Sに対応していない。いろいろ調べると、どうやらいわゆる中華製のDDCが目的にぴったり合うようです。評判も悪くないし価格も5万円台と手頃。これならちょっと高いケーブルを買うぐらいの予算で済むし、DDCならあとあと潰しが効く。最近の中華オーディオ製品の性能向上が著しいことは聞いていますが、試聴できない、保証やアフターサービスに不安がある、ネット上の評判のみを頼りに買うことに若干の不安はある。しかし背に腹は代えられない。キヨミズの舞台から飛び降りるつもりでアマゾンでポチッと注文しました。

 翌日に届いた中華DDC。説明書もない中、早速接続して聴いてみますが、いきなり音が「ブツブツブツ」と凄まじい音切れを起こしてまともに聴けたものじゃない。設定をどういじっても、ケーブルを変えても、出力を同軸等に変えてみても同じ。どうやらUSB入力回路の段階でなんらかの不具合が起きているようです。ぐわー、初めて買った中華製品でいきなり初期不良かよ!メーカーサポートに連絡する気にもならず、届いてわずか2時間後に問答無用で返品手続き。アマゾンはこういう時に簡単でいいですね。

 一瞬、付属ケーブルでもいいか、という気になりましたが、気を取り直し、そういえば違うメーカーから同様のDDCが出ていたと思い出す。機能的にはほとんど同じだし、価格は少し安いぐらい。また初期不良だったらどうしようと不安がよぎりましたが、ままよとクリックして注文。届いたのがこれです。

 今度はあっさりと、実にあっさりと音が出ました。DSDもMQAも問題なくフルスペックで再生。唯一、32bit音源だけはなぜかWANDLAの表示画面に24bitと表示されます。DDCの底面のディップスイッチを動かしていろいろ設定するんですが、その関係でしょうか? しかし手元にある32bit音源なんてひとつしかないし、これから入手する機会もほとんどないでしょう。それ以外は全く問題なし。付属のUSB A→Cケーブルで直結するよりも音がクリアでノイズフロアが低く、見晴らしが良い感じ。まだ聴き始めて数時間なのでこれから音は変わると思われますが、今のところは申し分ありません。普通なら余計な回路をひとつ入れているのですから音が良くなるのは考えにくいですが、i2S接続が音質面で大きなアドバンテージがあるということでしょうか? 

 ただ、i2S端子を備えたトランスポートはまだ少ないですし、と言っていくら音が良くなると言っても中華DDCをかますことに抵抗があるオーディオファンも少なからずいると思われるので、輸入元のエミライさんには、別売りでいいので、多少高くてもいいので、より音質に配慮したUSB A→Cケーブルをオプションで用意してくれると嬉しいかな、と思います。なんならFerrum Audio自身が接続用のDDCを作ってくれてもよくってよ。

左からWANDLA+HYPNOS、SU-2(DDC)、右に見切れてるのがLUMIN U2 MINI、ROONでMQA音源を再生しているところ。

 これからDACもDDCもエージングが進み本領を発揮するでしょうから、その時点でUSBケーブルやHDMIケーブル、電源ケーブルなどの交換を考えようかと思ってます。DDCにクロックジェネレイターを繋ぐとさらに音質向上が見込めるらしいですが、そこまでやる気力及び財力が残っているかどうか(笑)。この後の音質の変化、そしてWANDLAの目玉であるフィルター機能、HYPSOSの電圧調整機能については後報します。ひとまず、Ferrum Audio WANDLA+HYPSOS、非常に良い買い物でした。sd2.0の後継機種を待って待って待ちくたびれた(私のような)人もぜひ。

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