[AUDIO] SOULNOTEのDAC sd2.0B

SOULNOTE sd2.0B

 ↑本体 ↓電源部

 久々にオーディオの話など。SOULNOTE(現社名Fundamental)のスピーカーSM10を購入した話は以前書きましたが、その後同社のDAコンバーター sd.2.0Bを入手する機会があり、現在我が家のメインDACとして活躍しています。それまで我が家では長い間RMEのFireface 400を使っていて、その後DSD対応のためPIONEER  U-05を導入したものの、sd.2.0B入手後はほぼsd.2.0Bのみを使用しています。理由は簡単で、音が圧倒的に良いから。

 DACの世界はデジタル・オーディオの中でも日進月歩で、PCMは32bit/384kHz、DSDは1bit/11.2MHz対応が標準になりつつあり、sd.2.0BのDSD未対応、PCMも24bit/192kHzまでというスペックは明らかに見劣りします。ましてウチのMac環境下ではドライバーが対応しておらず、PCMも24bit/96kHz止まり。オーディオの世界は音という目に見えないものを扱っており、曖昧な個人の感覚に頼ることが多いので、どうしても数値が目に見えるスペックの競争になりがち。なのでsd.2.0Bは現行商品ではあるものの、多くのオーディオファンにとっては購入候補の対象にすらなりにくい、というのが正直なところだと思います。

 ならUSBドライバーをアップデートして、せめて24/192まで対応してくれないかと思うわけですが、Fundamentalのようなインディーズでは、ソフトウエアの制作/アップデートは専門の業者に外注するらしく、その費用がバカにならないと聞きました(実際、びっくりするような金額でした)。そしてソフトウエア・アップデートしてもDSDをネイティブ再生できるようになるわけではない。なのでsd.2.0BのDAC回路がいくら優秀であっても、商品としてはやや売りにくい、ということになる。

 ですが現実に配信されるハイレゾファイルを検証すると、ポップ・ミュージックの世界ではせいぜい24/96止まり、たまに192もありますが(コールドプレイの新作とか)、DSDファイルはほとんどない。なぜかと言えばDSDはその記録原理からして、現在のポップ・ミュージックにとって極めて重要な「編集作業」に向いておらず、せいぜい一発録りのライヴ・レコーディングぐらいしかできない。つまりDSDは演奏を録音したあとのポスト・プロダクションができないということなんですね。ポラリスが今年9年ぶりの新作『MUSIC』をDSD5.6MHzで出したことで話題になりましたが、あれはPCM領域で編集作業を終えた音源を最終段階でDSDに落として完成させたというものでした。

 そして24/48よりも24/96、24/96よりも24/192の方が必ず音が良いかというと、そうでもない。生楽器中心の音楽はともかく、電子楽器を多用するロックやヒップホップ、テクノなどは、24/192にすると、どうも密度が薄いというか音がか細くなる傾向があり(もちろん例外もあります)、24/96か24/48ぐらいが一番良く聞こえる。旧譜のハイレゾ化でも192はどうもそういう傾向があるように、私には思える。そういう音楽のゴリッとした歯ごたえのある中低域の美味しい部分はそれぐらいのサンプリングレートが一番よく聞こえるんですね。実際、今年の内外のベスト・アルバムで軒並み上位を独占したケンドリック・ラマーの大傑作「To Pimp A Butterfly」のハイレゾは24/44.1。ジェイミーXXやコーネリアス、テイ・トウワなど、今年私が愛聴したハイレゾの新譜はだいたい44.1か48。生楽器を多用し、録音の良さが印象的だったカサンドラ・ウィルソンやキース・リチャーズ、ビョーク、クラムボンでも24/96止まりでした。ここらへん、実際にレコーディングの現場でやっているミュージシャンやエンジニアの方のご意見をお聞きしたいところです。

 そして先日書いた通り、そもそもポップ・ミュージック、特に洋楽の新譜のハイレゾがほとんど出ないという現状もある。そうなると、32/384とかDSD22.4とか、ほとんど存在しないようなデータのネイティヴ再生ができるかどうかで機器を決めるのはどうかと思うわけです。そういう意味ではsd.2.0Bの96止まりというスペックも、私にとっては十分ということになる。

 では肝心のsd.2.0Bの音はどうか。これはもう「ナチュラル」としか言いようがない。U-05と比べると音がクリアで質感が高く、特に周波数レンジが広がったと感じるわけですが、余計な強調感がなく、音が高域低域両方に実に自然に伸びていく。色づけがなく、ほかの機器が作っている音の傾向を損なうことなく、クオリティだけがアップしていく。音の性格づけはスピーカーですればいいと思うので、これは理想的です。少なくとも24/96までの音源なら、同価格帯の最新スペックDACに劣るとは思えない。

 そしてこの機器の最大の特徴は、この部分(公式サイトより)。

独自の非同期型Digital Audioレシーバーを搭載した44kHz/16bit専用入力装備(INPUT 1)最善のコンパクトディスク再生を達成
 つながれるトランスポート、プレーヤーの性能にかかわりなく、常に音源に忠実な高精度のD/A変換を行うため、独自の非同期型ジッターレスDigital Audioレシーバー(FPGA)を搭載。メモリー回路にデータを一時的に蓄えることで、送り側とのクロック差分を吸収し、PLLを完全に排除。自身のクリスタルで生成された高品質なマスタークロックにより、 ジッターのないピュアなデータをDAC ICに送り込みます。 今なお主流ソースであるコンパクトディスク再生に最善を尽くします。

 つまりCDの16bit/44.1kHz音源のD/A変換回路がきわめて優秀なので、デジタル出力があるCDプレイヤーとこのDACを繋ぐと、ものすごくクオリティがアップするんですね。これとウチのプレイヤー(エソテリックのユニバーサル・プレイヤーDV-50s)を接続して、つまりエソテリックのプレイヤーのトランスポート部分だけを使ってCDのデジタル信号を同軸ケーブルでsd.2.0BのINPUT 1端子に送り込み、アンプに繋いで再生した音が素晴らしいのです。プレイヤー単体で聴くよりも良いのはもちろん、正直、同じCDをXLDでロスレスリッピングした音源をAudirvana2 Plus→sd.2.0Bで再生する(IPUT 1経由でなくほかの端子経由ですが)よりも音がいい。たいていの環境ではリッピング音源の方が音がいいのでこれはちょっとした驚きでした。仕事柄、きわめて大量の音源を聴くので、CDよりもコンピューター上にデータ化した音源を聴く方がはるかに効率的で利便性が高く、一度リッピングしたCDはしまいこんで2度と手に取らないのが普通だったんですが、sd.2.0Bを入手してからは、じっくり聴きたいときはCDを引っ張り出してきてプレイヤーで聴くようになりました。

 Fundamentalは最近、かねてから待たれていた超弩級のパワーアンプMA-10をリリースしたばかり。次あたりはDACの後継機種を期待したいところですが、前述のようにこの分野のデジタル技術は日進月歩のスペック競争になっています。AVアンプと同様、スピーカーやアンプのような成熟商品と違い製品のサイクル、旬の時期が極めて短い。Fundamentalが頑張ってPCM32bit/384kHz、DSD1bit/11.2MHz対応のDACを出しても、すぐにそれを更新するようなスペックが登場してしまうかもしれない。しかし前述のようにスペックが向上しても音が良くなるとは限らない。なのでスペックを気にしなければ現行のsd2.0Bでも十分戦えると思います。もちろんFundamentalの新DACが出たら真っ先に音を確認したいところですが、おそらく私には到底手の出ないような高額なものになる可能性もあり(苦笑)、現状ではsd2.0Bで大満足であります。

 ちなみにsd2.0Bでも192kHzの音源は聴くことができますが、96にダウンコンバートした状態になるようです。コールドプレイの新譜はRMEで聞いてますが、sd2.0Bで聞く96kHzでも十分良い音です。

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