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[書評] 志田歩著「THE FOOLS  MR.ロックンロール・フリーダム」


志田歩著「THE FOOLS  MR.ロックンロール・フリーダム」

 読了。先日のデイヴ・グロールの自伝同様、400ページ以上ある長さで長期戦を覚悟したが、2日ほどで読み終わってしまった。圧倒的に面白い。

 フールズという長い歴史を持ち、頻繁なメンバーチェンジがあり、しかもフロントマンの伊藤耕の開けっぴろげな性格もあって、無数のミュージシャンやスタッフ、友人たちが自由に出入りしていた、一個のバンドというよりはPファンク的、あるいはヒッピー・コミューン的なゆるやかな共同体だったフールズの入り組んだややこしい歴史を、メンバー始め周辺関係者など多くの人びとへの取材や、文献資料・映像などの調査でわかりやすく解き明かした労作。その事実関係の丁寧かつ執拗な掘り起こしと背景の説明、的確な分析・論評によって、フールズというバンドの特質・哲学・思想・美学、そして生き様といったものが鮮やかに浮かび上がってくる。これはもう著者の志田歩の力量と費やした労力と年月と熱意によるものとしか言いようがなく、同じ物書きとして素直に脱帽です。

 志田さんといえば、前著の玉置浩二本がそうであったように、取材対象への強い思い入れ、自分自身と対象を重ね合わせて語る、いわば過剰なほどエモーショナルで主観的な筆致が良くも悪くも印象的だったけど、ここではその熱い筆致をできる限り抑え、ファクトベースのクールな記述に徹している印象がある。もちろん随所に強い思い入れ、というよりはバンドへの深い共感はうかがえるけど、あえて意識的に記述対象と距離を置こうとしているように読める。それが、フールズの入り組んだ複雑な歴史をできるだけ正確に客観的に記述するためのものなのか、それとも志田さん自身の変化によるものなのかはわからない。本書には志田さん自身の個人的な思いやフールズとの関わりはほとんど書かれないし(本文終わり近くの一箇所と、あとがきで少し触れているぐらい)、もっと言うとどの時点でフールズのライヴに通うようになったのか、という基本的なことすらもはっきりとしない。志田さんは以前ブルース・ビンボーズ(伊藤耕がやっていた別バンド)のファースト・アルバムへの熱い思い入れ(当時の志田さんの個人的な状況から、ある曲に強い共感を持つことになったらしい)を原稿にしていたことを覚えているけど、それも一切書かれていない。でも今回の場合は、その意識的な距離の置き方が、本書の読みやすさに大きく貢献していると思う。そこには編集者のひとりとしてクレジットされる元ミュージックマガジン加藤彰氏のアドバイスもあったのでは、というのが私の憶測。本書のあとがきには「編集の加藤彰による容赦の無いダメ出しがなければ本書は書けなかった」という意味の記述がありますが、マガジン時代の加藤氏の、やはり容赦のないダメ出しに泣かされた(と同時にライターとして育てられた)私は苦笑すると共に深く頷いてしまいました。

 私は故・伊藤耕に3度ほど取材したことがあり、その関係もあって、この書でも取材を受け、何箇所か私の名前も出てきます。調べてみると志田さんに取材を受けたのはもう5年半も前。そう考えるとこの書がいかに労力と時間を費やして書かれたかわかります。

 ともあれフールズや、兄弟バンドのようだったじゃがたらや山口冨士夫について関心がある人はもちろん、70〜80年代東京のアンダーグラウンドなシーンや、日本のメインストリームなロックはもちろんパンク/インディーズの主流からも外れてしまった「はみだし者」たちの系譜に興味がある人は必読の名著、と断言しておきます。また本書と同時進行で取材・制作された映画『THE FOOLS 愚か者たちの歌』のサブテキストとして、映画を見た人は当然必読。映画も名作ですが、この本も素晴らしいです。どっちかと言えば本を先に読んだ方がわかりやすいかな。

 なおミュージックマガジンの最新号では私による映画の方のレビューが掲載されてますので、そちらもぜひご一読を。


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