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社会の役に立っている実感のこと

6月某日

編集者さんと打ち合わせ。12月刊行予定の長編小説について。

なんだか調子が悪い日で、ぼんやりして財布を家に忘れ、半泣きで家に戻り、電車に乗ったら明治神宮前で降り過ごして20分遅刻。死にたい。死にたいけど死ぬほどお腹が空いていたので待ち合わせのお店でフレンチトーストを食べた。美味しかった。AALIYAのフレンチトースト、むっちゃふわふわ。

プロットにひねりがない事を心配して今まで最終章が書けずにいたけれど、「むしろひねりがない方がいいんじゃないですか、逆にプロットがここまでできているなら、最後まで一旦全部何も考えずに書き切ってしまうのが良いのでは」と言われ、その通りだなあ、と。
「最後まで早く読みたいです」って最高の励ましだ。
今まで小説を書くときは「作品」ではなく「商品」を作っている感覚が強かった。今は、その中に少しずつ「作品」の要素が混じってきた。
小野さんの書いたものを読みたいです、と言ってくれる人たちのおかげだなと思う。
「ピュア」も4篇くらい他の短編を集めて刊行する予定だけど、これだけ読まれたので書籍の方もある程度多くの方に手にとっていただけそうな気がするので、売れる・売れないの心配に左右されず、自分が本当に読者に届けたいお話だけを集めた本にしたいなあ。

6月某日

家を内見に行ったけど空振りして落ち込んでいたら、友達から呼び出されたので「かもめブックス」へ。某省勤めの官僚の女の子。なんだか元気がない。

「なんかね私の仕事は美由紀さんの仕事と違ってクリエイティブっていうよりかは、仕事のために新しい仕事を作って、かつそれを維持するために仕事してるっていうか、なんのために働いてるのか分からなくなるようなことが多くて落ち込むんよ。これ意味あんのかなって。維持のための維持って感じがして」

私は普段「クリエイティブな仕事」をしていると感じることなんて全然ないからこういう話を聞くと驚く。むしろ、社会を維持するために必要な事をしていてすごいと思う。そういうと彼女は

「でも周りの子とかどんどん病んでるし、本当はもっと改善できる事いっぱいあるのに上司に提案もできない、コミュニケーションが生まれるような環境にできてへん。職場を」と肩を落としていた。

悩みの80%は蓋を開けてみるとコミュニケーション不全が原因というけれど。私もある。今の悩みはそれ。

「逆にね私は、登戸の事件とかあると、自分のやってる仕事が役に立ってるかどうか分からなくなって、迷いが出るよ、だってああいう人にさ、活字や小説が一体なんの役に立つの?犯罪者になりそうな人がさ、小説を読んで心が救われて犯罪をやめました、みたいなことって果たしてできるのかな。活字を書くって虚業だしさ、届かない相手だったら意味ないじゃない、社会の役に立っている実感がなくてほんと苦しくなるよ」

と言うと、その子は目をパチクリさせて

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