悲しさは暮らしを溶かすから
登戸のニュースが目に飛び込んで来た途端に心の弁がきゅっと持ち上がったような気がして息ができなくなった。ほとんど同じ瞬間に、急いで体を硬くして、心をガードしていることに気づく。自分自身がやられないよう。しゅん、と現実感が薄くなり、霧に包まれたようにボワッと視界が霞んで、あの呪文が口からこぼれ落ちる。
「ああ、またか」
赤い血も、サイレンも、それ一つで遠くのどこかのテレビの中の出来事になる。
慣れっこになろうとしている。
こういう悲惨な事件が起きるたび、進んで慣れっこになろうとしている自分がいる。いちいち心を揺さぶられていたら、影響を受けていたら、日常生活が立ち行かなくなるから。本当は、なりたくないのに。
悲しさは暮らしを溶かすから、金銭の獲得を妨げるから、改札もくぐれなくなるから、正しい駅で降りれなくなるから。
そうなる前に、ツイッターで呟かないと。みんなと繋がらないと、したり顔でコメントして、分かったような気にならないと。
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