知らない方がよかったの

暗い部屋の中で米が煮える音がする。甘い、ふんわりとした白い匂いと、鍋底の焦げる固い、強い匂いが同時に漂ってくる。弱火に変えてから炊き上がるまでの間、またベッドに潜り込む。本来は噴きこぼれないように見張るべきだが、食欲と睡眠欲を同時に満たそうとしているからたちが悪い。

最近いろいろめちゃくちゃで、めちゃくちゃと言うか深刻に捉えすぎてめちゃくちゃにしているのは自分自身なのだけど、深刻に捉えていることを責められるとやっぱり苦しい、なぜ深刻に捉えているのかは本人にすら分からないのだからそれは聞かないでほしい、人のルーツや家族構成や経験の遍歴が人の思考プロセスに影響を与えるとはよく言うけど、表皮みたいに身体の外側を覆っているそうした影響みたいなものを全部一回ざぶっと脱いで、元の生まれたての自分に戻ってもの事を感じたいなと切に思う、あまりにも多くのものから影響を受けすぎていて、自分が何を感じているのか、よくわからなくなっている。

もっと素直に、自分の思っていることをただ話せる人間だったらよかったのに、と時々思う。爪を塗ったの、見て見て、とか、今日はこんなことがあったの、とか、最近見た面白かった映画のことだとか、何も考えず話せる人間だったらずっと楽なのに。

ちょっと前に、知り合いが、家族が難病になったという話を打ち明けてくれて、その人と私はそういう話をするような深い間柄ではなかったのだけど、その人とその家族の関係性も含めて話してくれて、もしかしたら気軽にほいほいと他の人にも話しているのかもしれないが、私はとても嬉しかった、その人の背負っているものとか、今居る環境とか、私との関係とかを全部含めて、私にそれを話すことを選択してくれたことが。単なるエゴかもしれないが、ただ身の上に起きたことを話す、その相手として私を選んでくれたことがただ嬉しかった。

この続きをみるには

この続き:535文字
記事を購入する

知らない方がよかったの

小野美由紀

100円

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

note.user.nickname || note.user.urlname

ありがとうございます。

ありがとうございます!
25

小野美由紀

それでもやはり、意識せざるをえない(小野美由紀のマガジン)

作家小野美由紀によるエッセイマガジンです。タイトル通り "それでもやはり、意識せざるをえない” 物事について、月に5-10本程度配信します。日々のエッセイ、恋愛、性愛、家族、また書くことについて、作家という職業について、ジャンル問わず本気でおすすめしたいもの・こと、お店、本...
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。