世界で一番静かなお茶屋

私が世界で一番素敵だなと思っているカフェはベトナムのホイアンにある。その理由は一つで、とても、とても、とても静かである事だ。

Reaching Out Teahouse」。

このカフェを運営しているのは聾唖者の自立就職支援NPO法人であり、働いているスタッフは全員、耳が聞こえない人たちである。

注文やスタッフとの会話は全て、このテーブルの上に置かれた木製のブロックとメモ帳で行われる。スタッフ同士は手話で会話している。

店内も、照明を極限まで落とし、音楽なども一切かからない。通りを通り過ぎるブロロロ……というバイクの音や、店奥に作られた半屋外のテラスで囀る鳥の声しか、お店の中には響いてこない。


冷房の効かない暗い店内を、風が吹き抜けてゆく。とても心地よい。

スタッフのハンディキャップを逆に利用し、「静けさ」を最大の価値として、この店はお客さんに提供している。

お客さん同士も、ひそひそと囁き合うようにおしゃべりをし、全員がこの店の静けさを守るように協力している。その感じもすごく好きだ。

ホイアンは観光地で、物売りの声や、土産物屋のBGM、人々の笑い声やバイクの音があちらこちらに響いて、とても活気のある楽しい場所だ。どのお店に行っても同じようなものが食べられるし飲める。それに疲れた時に逃げ込める、ある意味全く観光地らしくないこのカフェが、人々を引きつける。

ホイアン有数の人気店だけど、いつ行っても静けさが保たれていて、スタッフのホスピタリティも豊か。言葉が通じなくても全然、困ったことなんてない。

近くのオーガニックのお茶畑で取れた5種類のベトナムのお茶を提供していて(もちろん、ベトナムコーヒーも)とても美味しい。一緒に出してくれるお茶菓子も素朴で美味。

いつもいつも、ここで執筆できたらいいのに!と思う。

ホイアンのカフェには珍しく、WiFiも通ってないので、純粋に書くことに集中できる。昼間はあまり人もいないので、スタッフも心ゆくまで放っておいてくれる。

この店に通いたすぎて、ホイアンに住みたいぐらいだ。

今も5度目のホイアン滞在中で、ホテルの人に「なんでそんなにホイアン来るの?ここで何するの?明日のプランはなに?」と何度も聞かれて、「Reaching Outに行くの……」というと変な顔をされる。でも本当に、このお店に来るためだけにホイアンに来ているようなものなのである(あとは、とても冷たくて美味しいベトナム・チェーを食べに)。

一年に一回来るのが関の山だけど、なんとなくそれで人生のリズムが刻まれるような、自分にとって大切な場所。





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小野美由紀

文筆家。著書に銭湯を舞台にした青春小説「メゾン刻の湯」(2017.2)「傷口から人生。メンヘラが就活して失敗したら生きるのが面白くなった」(幻冬舎文庫、2015年2月10日発売)絵本「ひかりのりゅう」(絵本塾出版、2014)など。http://onomiyuki.com/

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コメント2件

行ってみたくなりました!
めちゃくちゃ素敵なカフェ!美しさと静けさが、写真と文章から伝わってきました。
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