コミュニケーション完全不全日記

6月5日

トークイベントに登壇することになったが、何一つ話すことが見つからずに途方に暮れる。

どうしよう。

そもそも、私は一人で話すのにめっぽう弱い。誰かにサポートしてもらわなくては、「あいうえお」の「あ」すらも自ら発話することができない。だいたい、人間一人きりで発話するようにはできてはいないのだ。相手があってこそトークというのは成り立つのであり、街中で一人で話し続けている人がいれば誰もが避けて通るであろう。スティーブ・ジョブスのようにかっこよくプレゼンできることこそ優秀なビジネスマンの証、と思われている向きが強いが、しかしスティーブ・ジョブスは狂人であり、あんな風に話ができることが求められる方がおかしい。凡人で普段から「俺の話を聞け」とばかりに一人で気持ちよく話し続けられる人間など、泥酔しているか、もしくは八紘一宇我にありと思い込んでいるような俺様人間だけである……などと、つらつら御託を述べていてもイベント自体が先延ばしになるわけではないので、仕方がない、ここは他の登壇者にわがままを言わせてもらって、プレゼンではなく対話形式にさせてもらおう、だいたい、パワポなど作れないし。

……と始まるまで散々ごねまくったが、蓋を開けて見れば私以上に「東京銭湯」の後藤さんがめちゃくちゃ緊張していたおかげで却って全く緊張せずに済み、和気藹々のムードのうちにトークは終了した。楽しいイベントだった。

自分より緊張している人を見ると却って冷静になって喋れたりするのってなんでだろう、緊張に限らず、喧嘩の際に相手が自分よりも激昂し始めた途端に急速に怒りが治ったり、映画館で映画を見ていて悲しい場面でふと、隣に自分よりも激しいレベルで号泣している人がいたりするのを見ると、なぜだか急に笑い出したくなったりする、あの作用に名前をつけた人はいるのか、いないのか。

一説によると人間の脳というのはニューロンのネットワークで繋がっているので、自分と同じ感情を同じくらいの強さで有する人間が近くにいると「自分一人じゃないんだ」という一体感を感じられて脳が急速にリラックスするから、という説もあるらしいが、本当かなあ。

6月8日

元彼の東大4年生(自称アスペ)に久しぶりに会い、私の後に白百合の女の子と付き合ったら「googleカレンダー共有して!空いてる時間は全部私に使って!」と言われたので言われた通り共有して予定の空いてるとこ全部に「勉強」って書いたらブチギレられてフラれた話を聞いてゲラゲラ笑うなど。彼は自分がアスペルガー気味であることを非常に気にしていて、最近まで官僚志望だったが、面接で「君は人格がやばい」と言われたらしく、「俺、コミュニケーションが必要な仕事は向いてなさそうだから研究者を目指すことにした」としょんぼりしていた(一応国家試験は通ったらしい)。かわいそうだなあ、付き合っている間に喧嘩になるといつも「あんたって本当にアスペだよね!」と怒っていたが、それの影響もあるのかもしれないと反省する。「アスペじゃないよ、天真爛漫なだけだよ!」とフォローを入れるも、しかし研究職だって学内政治はあるのだし、コミュニケーションの全く必要じゃない仕事って、いったいこの世に何かあるのかしら。

6月9日

近藤哲朗(チャーリー)くんの開催している「大昼食会」へ。大昼食会というのは近藤くんがライフワークとしてやっている「昼食会」に出演したメンバーだけで集まる立食パーティーで、近藤くんの経営している「株式会社そろそろ」が運営しているコワーキングスペース「ハーフハーフ」で行われる。その日は50人ほどの参加者がいた。

以前は人が大勢がいる場所に行くと、毎回すごく疲れて帰っていたけれど、最近は平気だ。思うに私は、

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それでもやはり、意識せざるをえない(小野美由紀のマガジン)

作家小野美由紀によるエッセイマガジンです。タイトル通り "それでもやはり、意識せざるをえない” 物事について、月に5-10本程度配信します。日々のエッセイ、恋愛、性愛、家族、また書くことについて、作家という職業について、ジャンル問わず本気でおすすめしたいもの・こと、お店、本...
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