”言葉にならない”時間の価値

クリエイティブライティング講座で名古屋へ。

講座の中で、私はいつも

「できなくてもいい。創作をするとき、最初の着想を得てから、それが作品として形になるまでの"タイムラグ"は人それぞれだから、すぐに書けなくても気落ちせず、自分のタイムラグを探るつもりでやってほしい」

と生徒さんたちにお伝えしている。

文章を書くとき、テーマを与えられてから、ものの数分で取りかかれる人もいれば、半日、1日、または1週間、半年かかる人もいる。早い方が良い作品という訳でもなく、時間をかけたから良い作品になる訳でもない。本当に人それぞれだ。

しかし、たった8時間と言う短い時間の中で、繰り返し小作品を書いてもらうワークをやっていると、どうしても、着想から作品の完成までに時間のかかるタイプの方にとっては、他の参加者のように、スラスラと思い通りに書けず、苦しい思いをさせてしまうことが多々ある。

教える側として、それがいつも心苦しい。

すぐに取りかかれるタイプでない生徒さんが、

「ああ、どうして時間内に素早く作品を完成させられないんだろう」

「どうして短時間で思う通りにアウトプットが出せないのだろう」

と、心の中で思っているのが分かる。

私もそのタイムラグが長い方で、記事を書いたり、コラムを書いたりするのに、途方もない時間がかかる。

子供の頃から、思っていることや感情を表現するのが苦手で、何か言おうとしても「それは本心だろうか?」「本当に言いたいことだろうか?」と思い悩み、言葉を飲み込む。反応の早い子たちが、欲しいものを脊髄反射で手に入れてゆく一方で、自分は出遅れ、悔しい思いをすることも多かった。

文字を書いて人に伝えるという手段に関心を寄せたのは、文字は話し言葉と違い、いくらでも自分の気持ちを待ってくれるからだ。

現代ビジネスで掲載しているエッセイなどは、体験してからだいたい半年くらい経たないと、自分の中で一連の物語として結晶しないので、その間「あーあ、早く結晶しないかな」とか思いながら、ひたすらそのテーマを心にぶら下げて、のんびりしている。

抱えておくテーマが常に多いので、結構、重いし苦しい。


「速く書くこと」「たくさん書くこと」が重要視される時代になったなあ、と最近、とみに思う。

本業のライターやプロの書き手になると、どうしても、速く、大量に、簡潔に書くことが求められるし、そうでなくても、TwitterやSNSで誰もが自分の意見を述べる今の時代、旬のトピックについて、それがTLに流れる瞬間風速が最大の時に、パッと自分の考えを述べるスキルが一番重要なような気がしてしまう。

自分の考えを伝わりやすく整形して、誰もが分かる形で伝えられる人はかっこいい。

そんな風潮の中で、立ち止まり、言い澱み、飲み込まれた言葉の価値を、理解するのはなかなか難しい。


けど、今回の名古屋の講座に参加してくれた方々は、そうした価値を、十分に分かり、かつ、必要としている人々だったように思う。

彼らの姿勢から感じたのは、

「すんなりと、誰かがすでに作った型に委ねて、出てきてしまった言葉よりも、言葉にならない思いを自分のテーマとして抱きとめておく方が、ひょっとしたら、その人にとってはより豊かな意味を持つのではないか」

ということだ。


少し話は変わるけど、大学時代に所属していたフランス文学ゼミで、ある時、「沈黙は言語か」というお題でディベートをしたことがある。


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