【随時更新】元公務員、「児童虐待八策」の欺瞞を斬る

はじめに

「ダメだ、この人たち、本当のことを何もわかってない…。」
私は絶望とともにページを閉じた。
こんないい加減なプロジェクトのために私の個人情報を渡すわけにはいかない。

2018年、東京。
虐待という残酷な犯罪で幼い命がまた失われた。
船戸結愛ちゃんが、消えゆく意識の片隅で書き遺した言葉は、多くの人たちに衝撃を与えた。
「おねがい ゆるして」

そんな中、駒崎弘樹氏(認定NPO法人フローレンス代表)らが発起人となって、東京都知事と内閣官房長官宛に、児童虐待対策を求めるネット署名活動を立ち上げた。
いわゆる、「児童虐待八策」だ。
ここで挙げられている8つの策は、一見効果的かと思われるかもしれない。
しかし、10年あまり地方公務員で行政職として勤め上げた経験があり、かつ自身が親からの虐待被害者である私から見ると、残念だがこの策はあまりにもスカスカなのだ。

児童虐待対策の不足は長いこと叫ばれてきたにも関わらず、ここ20年一向に先に進んでこなかった。
実際、私の場合、散々主治医に親の問題を訴えてきたが、あくまでも私側の問題に無理やり回帰させられ、20年間うつ状態と診断されて薬漬けにされてきた。
虐待の問題は社会の問題だが、医療、そして被害者の心の問題として封じ込められてきたのだ。

確かに、よのなかを動かすのに、きっかけは必要だ。
だが、具体的な解決という明確なゴールが見えないままの「暴走」は、ともすれば虐待で命を落とした子どもたちへの冒涜にならないだろうか。
今だからこそ、一旦気持ちを落ち着けて、児童虐待対策の来し方行く末を考え直すべきだと思うのだ。

ここでは、あえて「児童虐待八策」を逆説的に論破していきたい。
繰り返すが、私自身が児童虐待の被害者だ。
児童虐待をなくしたい思いは私も変わらない。
だが、「児童虐待八策」への署名が何の解決ももたらさないのも、既に見えている真実なのだ。
正直、この原稿を書くことは、私にとっても非常に辛い。
だが、次世代に続く命をつなぐために、自分の傷に向き合いながら書き進めたいと思う。

1 行政の巨大化では児童虐待は解決しない

「児童虐待八策」の1番目では、このような項目が挙げられている。

(1)児童相談所の数と人員を大幅に増加させ、さらに常勤弁護士を設置してください。合わせて市町村の虐待防止体制の強化を
・イギリスでは児相は30万人に1つ設置されていますが、日本は約60万人に1つの210ヶ所。倍増させる必要があります。
・そして児相のマンパワー不足を解消すべく、職員数を増やしつつ、一時保護や親権停止を機動的に行っていくために常勤弁護士を配置してください
・また、児相だけではなく、「オール地域」で子どもを守っていくために、児相に来る前でケースを発見・ソーシャルワークしていけるよう、自治体の虐待防止体制の強化を望みます
・保育園や幼稚園・学校は虐待を発見しやすいので、保育・教育現場と児相の連携を強化してください

私の記憶が間違いでなければ、発起人の駒崎氏は確か内閣府子ども子育て会議委員だったはずだ。
よのなか的には、いわゆる「有識者」である。
しかし、彼には、行政の現場に関する知識は著しく不足しているようだ。
「有識者」の皆様の提言とやらに振り回され続けた元地方公務員にとっては、絶望しかない。

今、地方公務員の現場は激しいアウトソーシングの波にさらされている。
一般窓口は、既に民間の人材派遣会社の手の内にある。
図書館司書、栄養士といった専門職ですら、今や人材派遣の巣窟になっている。
児童福祉の現場も例外ではない。

実は、私は一時期学童保育のバイトをしていたことがある。
子ども好きで、公務員時代に散々子ども相手の仕事をしていた私にとって、あれほど魅力的な職場はなかった。
だが、私はその現場を2日で離れた。
一体どういうことか。

今、学童保育の現場もアウトソーシングされているところがほとんどだ。
私がいたところは社会福祉法人が運営していたので待遇はマシな方だった。
しかし、保育職員10人弱で100人以上の子どもの面倒を見なければいけないという無茶苦茶な現場に、心が折れてしまったのだ。

職員同士の引き継ぎの時間は全くない。
そんな中、障害を抱えていたり、家庭問題を抱えていたりする子どもたちを、フルパワーで見守らなければいけないのだ。
とても、一人一人に対して責任を負える状況ではない。

私が公務員を辞めた最大の理由は、市民に対してちゃんとしたサービスができないまま無駄に疲弊する毎日に嫌気が差したからだった。
このままじゃ、同じことになる。
私は早々に、学童保育の現場から撤退した。
いつか、この窮状を世の中に知らせようと心に決めて。

長期的に見れば、児童相談所の職員を増やして権限を強化することは、一見効果的に思えるかもしれない。
だが、実際のところはスキルの低い無資格者や、自力で食っていけないレベルの弁護士が大量に現場にあふれるだけで、全くもって意味がない。
しかも、投入した予算は人材派遣会社にピンハネされて終わりだ。
そんな現状で、行政を巨大化する意味はあるのだろうか。

他方、この項では自治体の権限強化を求めているが、権限を強化するということは、役所では決裁文書に押さなきゃいけないハンコの数が増えるということを意味する。
当然、決裁には時間がかかるようになるので、被虐待児の保護にあたってもむしろタイムラグが発生しやすくなる。
権限が強化されるのは、上の人間であって現場の人間ではないのだ。

現場に投げれば済むほど、児童虐待は簡単な問題じゃない。
正直、虐待のニュースを脊髄反射で受けて役所を非難するノイジーマジョリティの話を一々聞いていられるほど、現場は暇じゃないのだ。

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