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ドットコム起業物語~蹉跌と回生のリアルストーリー

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90年代終わり。いまや伝説となったビットバレーに飛び込み起業した20代の青年がバブルの波に翻弄されながらも楽天へと企業売却するまでの、蹉跌と回生のリアルストーリー。 起業におい… もっと読む
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#ベンチャー企業

第26話 均衡のスコアカード

← 第25話 クレイフィッシュ、楽天、ICGから、僕らプロトレード 社への、具体的な買収提案の条件が出揃いました。簡単にスコアカード風にまとめると、こういう感じ。 会社の発展性  : 1.楽天、2.ICG、3.クレイ 株式買取評価額 : 1.クレイ、2.楽天、3.ICG 給与      : 1.ICG、2.クレイ、3.楽天 こう並べてみると、どこが明確に良いとは言えなくて、立場によって意向が変わるであろうことは、ご理解いただけると思います。 時計を今に戻し、現在の楽天

第27話 悪魔のささやき

← 第26話 午前中に、プロトレード役員へのヒアリングを終えた僕の、次のターゲットは、一般社員とアルバイトです。 ネクストバッターは、一号社員の、相川くん。 彼は、僕の大学時代のスキークラブの後輩です。創部以来25年以上、男子だけという、超硬派な体育会系クラブで、パワーハラスメントの総合デパートのようなところでした。 ちなみに、僕も相川くんも、入部した理由はシンプルに、 「うちは学内10サークルの大会で5連覇。強いから、モテる。」という話と、 「お前な、サークル内

第28話   陽のあたる道

← 第27話 数えきれない自問自答をくりかえすことが、人間の成長には欠かせないことだと、信じています。 会社を立ち上げて以降、サラリーマン時代とは比べものにならない量の、自問自答を重ねてきたことは確かでした。 気がつくと会社のことを考えている。寝ていても会社のことを考えている。起業を意識し始めてから、そんな状態に至るまでは、意外と短いものです。 (ちなみに、サラリーマン経験がないままに、経営者になる人は、どうして社員は、自分のように思考を重ねられないのか、不思議でしょ

第29話   完全感覚のドリーマー

← 第28話 あかねさんとの、ほろ苦い再会を果たしてから、まもなくだったと思います。翌日とか、そんな感じ。 僕は神泉の駅から3分ほどにある、ガラスとコンクリートでできた、一風変わった低層ビルの一角にある、NetAgeのオフィスに出向いていました。 NetAge社は日本ではじめて、インターネット事業に取り組む起業家を、大量に育てていくことを、事業の目的とした会社でした。 インキュベーターという耳慣れない言葉とコンセプトをアメリカから輸入し、時代の風を受けながら、ノリとカ

第30話 決戦の朝

← 第29話 交渉ごとに強くなろうとするなら、結局のところ、経験をたくさん積むしかない。ということが、本当のところだと思います。ただ、ベースとなる考え方については、先輩から学べることは多いのではないでしょうか。 我がプロトレード 社の、売却交渉の大詰めの局面。ここから収束させていこうという場面で、株主のNetAge西川さんが、大戸屋でご飯をおかわりするくらいの無邪気さで放った一言は。 「もっと楽天さんに、出してもらおうよ。ダメなら孫さんのところ行けばいいじゃん」でした

第31話 Infinite Loop

← 第30話 中目黒駅から、楽天ビルまでは、だいたい15分くらい歩きます。山手通り沿いを目黒方面に進むのですが、通りから一本東側にある、目黒川の近くを通る小道の方が、ずっと落ち着いて歩けるので、そちらにしました。 僕の中では、ずいぶんと暑い日だったように記憶されています。 9月末だったので、まだ夏の湿気と太陽が残っていたのかもしれませんし、ただ単に、自分がホットに上気していただけかもしれません。 まだ時間は十分にありました。 わざとゆっくりと歩きながら、この後のミーテ

第32話   突入

← 第31話 腕時計を見ますと、アポの時間になりました。 もう、逃げられません。進むしかない。 開き直ったのでしょう。考えても仕方がないと。 このタイミングで、頭の中の無限ループは止まり、何かのスイッチが入りました。 目の前にそびえ立つ(実際は低層ビルですが)銀色のビルは楽天。Shopping is Entertainementというタグラインを掲げている割には、全くエンターテイメント性を感じない、質素で無愛想なエントランスが、威圧してきます。 その圧は三木谷さんと

第33話 それぞれの信義則

← 第32話  九月末の季節外れの暑い一日。日本のEC市場を牽引する楽天の、本拠地オフィス最上階。目黒川を望む会議室で、緊迫したやりとりが続いていました。 対面左側の澁谷さんが、まずは挨拶がわりに、一発かましてきます。 プロトレード さんの今年の売上予想は、800万円の着地、バーンが年間で3,500万円程度ということですよね。 将来の事業計画も見ましたが、保守的にみて、ディスカウント・キャッシュフローベースで計算すると、企業価値は良くて1億といったところじゃないですか

第34話 むき出しのキレ

← 第33話 もしそれが、気に入らないなら、しょうがないです。 難しいかもしれませんね。 落ち着きながらも、少しふてくされた調子で、僕が言い放ったこの言葉。 これをトリガーに、目の前のお二人が、対照的な反応をします。 スナックで、俺は、中目黒の織田裕二だとでも言い張ってそうな、澁谷さんは、いやいや、ちょっと待って。いかないで。という反応。(これは僕の想定通りです。秘書情報によると、次に三木谷さんの登場。となるはずなので、ここでブレイクされると困るはずなので) 興銀の