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第10話 遥かなるバレー

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そんなこんなで、後ろ髪を軽く引かれつつ、アイシーピーさんからの出資オファーはお断りしました。

こうなると、いよいよタイプCの投資家を巡ることになります。

タイプA 祭りの終わりを察し、さっと引き揚げる人
タイプB 祭りが終わっても、片付けに時間がかかる人
タイプC 祭りが終わったことに、気づかない人


お会いしていたのは、地方関係、銀行関係、公的資金関係の投資機関だったと思います。

徐々に訪問先のオフィスは狭く、汚くなり、やれたスーツ姿の担当者が増え、我々の事業計画へのツッコミはヌルくなっていきました。みなさん、同じことをおっしゃいます。

うちはリードは取りませんよ。マイノリティの少額投資です。
ところで、他はどこが、乗ってきてるのですか?

決して、悪い人たちというわけではないのですが、単純に情報・知識不足だったり、「リスクをとると負け」な人事考課システムの中で、サラリーマンを真面目にやってこられた方々だったのでしょう。

27歳の、差し出す担保も、上場企業勤務経験もない小僧を相手にすること自体、うんざりしていたのかもしれません。

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ある日、埼玉県にある、税理士事務所を束ねているという、とある業界団体を訪ねたことがありました。会社のinfo@のメール宛てに、「出資したい」というダイレクトなメッセージが入ったのです。

たしか大宮から、さらに数駅先の小さな駅を降りて、住宅地をかなり歩いた先にある、小さな工場に併設された、10畳ほどの古臭いオフィスでした。

合革の黒い応接ソファに身を沈み込ませた、林家ペーみたいな顔をしたオヤジが、タバコをふかし、僕にニッコリしながら質問するのです。

インターネットって、えらい儲かるらしいですな
ウチもひとくち、のらせてもらえますか

GE Capitalとミーティングしてから、わずか3ヶ月後に、埼玉でペーと会っている俺。なかなかキツかったと思います。遠い目で、埼玉の空を見上げていました。

それでも、確か4社ほどから、悪くない初期感触が得られていました。ただ、各社の出資想定額は、GEやオラクルと比べ、ゼロが一つ少なくなるほどになり、さらに悪いことに、どこも意思決定プロセスは恐ろしく長くなりそうなことが、問題でした。

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CFOらしいCFOがいなかった 我らがProtrade社を助けていただいたのは、株主のNetAge社のCFO、井上さんでした。銀行からMBA派遣、シリコンバレーでベンチャー投資を経験されたのち、NetAgeに参画された、知的で柔和な方でした。

昔話を聞くと、一瞬説得力がある風なのですが、結構ネジが外れてるとしか思えない判断をしてきています。

ある意味、ベンチャー界に多いタイプかもしれませんが、物事に対してはすごくロジカルでシャープな判断をするのに、自分のことになると、途端に怪しくなるんです。

ややマゾっ気も強いのか、酒を飲んでは盛大に愚痴りつつ、その実、随分と楽しそうなのでした。(今もほぼそのまま)


ある日、そんな井上さんがオフィスにいらして、バツ悪そうに、とても正しい一言を囁いてきました。

多分ね、投資は何らかの形でゲットできると思うよ。がんばろう。

でもね、オノちゃん。このままだとちょっとリスクあるかもね。

資金が入るまで、創業メンバーの給料ね、カットするしかないね。

当時、株主であり創業メンバーだった、僕、佐藤さん、岡田さんに対しては、月20万円の給与設定をしていましたが、それをゼロにする決断がなされた瞬間でした。


華やかなるシリコンバレーは、遥か彼方へ。

この、なめらかな下り坂は、まるで太ももに乳酸が溜まってゆくかのごとく、僕の身体とマインドを締め付けてゆきました。

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