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第8話 大志満とジェントルマン

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ネットバブルはパーンと破裂したのですが、実際には、瞬時にリセットが起きたという訳ではありませんでした。事業活動の現場と、株式市場の動きには、やはりタイムラグがあるようです。

どうしてそうなるか、ということを振り返りますと、

タイプA  祭りの終わりを察し、さっと引き揚げる人
タイプB  祭りが終わって、片付けに時間がかかる人
タイプC  祭りが終わったことに、気づかない人

大まかには、この3タイプの事業プレイヤーが世の中に存在して、レイヤーのように重なっていったので、現場の体感値としては、意外となめらかな下り坂。となるのだと思います。


さて、2000年の夏。頭の中はすっかりクリフ ジャンプな俺の、下り坂での資金集めは続きました。

まず引きが早かったのは、外資ファンドです。

ウォーバーグ ピンカス(Warberg Pincus)という、大型VCファンドに、深川さんという方がおられました。まだバブルが弾ける前、よく日比谷の大志満という料亭で、豪勢なお昼ご飯へ誘ってくれました。

当時40代前半でいらしたでしょうか。イギリスのボーディングスクールから、ゴールドマンサックス、HBSを経て、マッキンゼー。というキャリアの持ち主でした。なんとも知性溢れ、優雅で、誇り高いオトナの男だなと。いたく心酔したものです。

ジェントルマン深川さんからの薫陶は、実に多岐にわたります。

日本人はよく、儲けることを悪いことだと思いがちだよね。

でも、世界の投資家、事業家たちが目指して、実現しているのは、利潤と幸福の一致だよ。個人としても、その二つを同時に追求して構わないんだ。
僕は君にはね、世界の一流を目指して欲しいんだ。リベラル アーツを学ぶことだよ。歴史、芸術、文化。それらを語れるようにならないとだめさ。

商売の話しかできない人は、どんなに稼いだとしても尊敬されない。

世界の一流のサークルには、入れないんだよ。


大志満の、お昼なのに5,000円もする御膳一発で、すっかりキマっていた若者は、目の前のすき焼きと天ぷらとの格闘にいっぱいだったのですが、このアドバイスには一考の価値があると思ったのでしょう。走り書きが、メモ帳に残っています。(リベラルアーツという視点は金言でした。この影響で、後に僕はイタリアへと渡ることになります)


ところが、バブルが弾けると同時に、激しい手のひら返しがおきます。深川さんからのメールは短くなり、やがて返信はこなくなりました。GE、オラクルと同じく、やはり彼らも、タイプAだったのです。

まぁ、ウォーバーグ ピンカス。いかにもユダヤな名前じゃないですか。

オリジンがそちら系の方々の、引きの早さは反則級だなんて、今なら当たり前の知識だと思えます。

しかし、ビジネス経験値の低い、若さゆえの繊細さを残したあの頃の僕。すごく良くしていただいたと思っていただけに、反動は大きかったのでしょう。

人を信じることなんて、もう、しない方がいいのかな。そんな風に思っていたと思います。「あの●ンカス野郎」と、心の中で呟きながら。

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