【ニケジャコ】

(大学時代の美術旅行の続きです。)

絵を見るつもりで歩いていても、かなりの数の彫刻作品に出会います。やはり量が見せてくれるものがあります。そのおかげで彫刻の楽しさも感じるようになっていきます。その中で初めは変だな~と思っていたのが「ジャコメッティ」でした。犬や人が細く絞り出したように形作られています。当時は名前すら知らなかったかもしれません。でも、あちこちで見る。造形が独特ですから別の美術館で出会っても「あ、ジャコ・・・だ」という感じです。次第に名前も覚え、その作品の傾向が好きになりました。でも、好きな理由が全く判りません。そうこうしているうちに旅も終わりに近づき「ルーブル美術館」に辿り着きました。これまたとんでもない量の絵画の前を通り過ぎて、疲れ切ったあたりで「サモトラケのニケ」という彫像が現れました。見た瞬間に胸が一杯になって涙がこぼれそうです。もちろん大きな作品ですが、大きさに感動した訳ではありません。そこにある首のない、ある意味ボロボロな彫像が周りの空間を押しているのです。そこにある体積が空気を押しのけているだけではなく、その外側の空間すら押しているように感じたのです。そして、次の瞬間にジャコメッティの細く絞り切った存在が同じ様に周囲の空間を押し除けていることに気がつきました。片方には量があって、片方は可能な限りと言っていい程、量が絞ってある。でもその2つが見せている物が同じだと気がついたのでした。それはどんな作品からも感じることができる訳ではありませんから物理的なものではなく作品の力なのだと思います。もちろん今もそれがいったい何なのかは判っていませんが、それ以来、作品を見る際、空間とどう関わり合っているのかということが自分にとって大切な視点となっています。

(もう一回ぐらい続きます。)

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