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歴史香る世界のスパイス料理 第1回ギルガメシュのスパイス - スパイス航路に導かれ

本記事は、雑誌『小原流挿花』2018年10月号に寄稿した記事を追記再構築してnoteに投稿したものです。当時は4ページで5品の料理を紹介しましたが、noteではボリュームがあるので、全5回としました。その第1回です。
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文明の発祥の地。古代メソポタミアで使われたスパイス香るスープ

 現代の料理には欠かすことの出来ないスパイス。いつから使われていたでしょうか。実は文明の発祥とも言うべき、今から5000年前に勃興した古代メソポタミア文明では楔(くさび)形文字が描かれた粘土板に料理のレシピとも取れる記述が残っています。

“炒ったフェンネル粒が必要である。炒ったクレソン粒が必要である。炒った根無し葛(かずら)粒が必要である。炒ったクミン粒が必要である。以上を、お前は根無し葛を入れた水6ℓで長時間煮て、そこに適量のきゅうりを加える。1リットルになるまで煮詰めてろ過する。そこで(肉を料理するための動物を)屠(ほふ)り、(煮込むためこのスープに)投げ入れなさい。”

ウルク神殿跡から発掘された紀元前4世紀の粘土板は「メソポタミア風だし」の説明です。レシピに「投げ入れる」という記述があるのは斬新ですが、フェンネル粒、クレソン粒、クミン粒という現代でもなじみのあるハーブやスパイスがでてくるのが特徴です。また、古代メソポタミアではコショウはなく、塩も使っている料理とそうでない料理と分かれていますが、それらがなくてもフェンネルやクミンなどのスパイスと野菜だしで素材の味を引き出していました。古代小麦とラム肉を煮込んだ鍋にこのだしを加えると、コリアンダー、クミンのスパイスで上品な味わいが楽しめます。私たちのスパイスの使い方とは少々異なりますが、クミンの香りがオリエントの世界へいざなうスープです。

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写真/久保田狐庵

古代小麦とラム肉のスープ
材料(4人分)
ラム肉 200g、エンマー小麦(デュラム小麦挽割り「ブルグル」で代用可) 50g、セモリナ粉 50g、にんじん 80g(1/2本)、クミン粉 大さじ4、コリアンダー粉 大さじ4、ミント 1枝、にんにく 1片、水 600ml
・メソポタミア風だし
 水 1200ml、クレソン 50g(1/2束)、きゅうり 100g(1本)、フェンネル粉 大さじ4、クミン粉 大さじ4

作り方
1 メソポタミア風だしを作る。鍋に水を入れて、ざく切りにしたクレソン、きゅうり、フェンネル粉、クミン粉を入れて水が半量になるまで弱火で煮込む。
2 ラム肉、にんじんを一口サイズに切る。にんにくをすりつぶす。
3 鍋に水と1を入れて、ラム肉、クミン粉、コリアンダー粉、セモリナ粉、エンマー小麦、にんにく、にんじん、ミントを入れ火にかける。
4 沸騰したらアクを取り、弱火で30分煮込む。
5 適度にとろみが出てきたら完成。

 レシピは見ての通り塩の記載がありません。他のレシピでは塩の記載はあるので、このレシピではたまたま入っていなかったようです。もしくは羊肉が塩漬けされた状態だったから書かなかったのではという推測もありますが、文献には書かれていないため、鍋に塩は加えず、まずはそのままこのスープの味を楽しんでいただき、二口目以降は「追い塩」として、塩を加えて味の変化を楽しんでもらうようにイベントではなりました。

 塩がなくても滋養がありそのスープの特性が感じられること、そして塩を入れることで味が引き締まったものに変化することなど、普段の料理にあってしかるものがない中での楽しみ方を考えながらイベントでは提供しています。

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