ライターはいったいどこで何を書けば生きていけるのか問題

 こんにちは。神戸でライターをしております大越と申します。noteにはライターやコンテンツビジネスに関わる人がたくさんいるので、多くの人が関心を持つだろうテーマについて書いてみます。
 それは、「これからライターは、いったいどこで何を書けば生きていけるのか」問題です。出版業界の市場は長期低迷で出口が見えず、クラウドソーシングの案件は文字単価1円以下、雨後の筍のごとくできたオウンドメディアのブームも去ったいま、「書いて稼げる場」を見つける、あるいは自ら作り出すことが、多くの書き手の課題となっています。

 で、この文章は、そういう人にとって何らかのヒントになればと思って書いております。
 昨年11月、Web編集者でTAMLOというデジタルマーケティングエージェンシーの代表を務める石野さんという人と知り合いました。そのときお互い共通して「需要はめちゃくちゃあるのに、書き手がまったく足りていない」と感じていたのが、「BtoBライティング」の市場です。すなわち、企業の広報やマーケティングのための原稿の書き手が恒常的に不足しているのです。以下、石野さんとの対話のなかで出た、「BtoBライティング市場」の現状について解説します。

 まず市場規模について。出版社は日本に約4000社しかありませんが、業種を限らなければ、日本には大小含めて約300万社の企業が存在します。そして、その多くはコンシューマー(消費者)向けの製品ではなく、対企業、つまり「toB」の商売を行っています。その市場全体で動いている金額は、出版ビジネス、メディアビジネスとは比較にならないほど大きく、製品の販売促進、採用支援、PR・IRなど、さまざまな「文字によるコミュニケーション」の需要が存在します。

 なぜ市場があるのに書き手が少ないのか。おそらくは「難しそう」と敬遠する書き手が多いからでしょう。BtoBの記事を書くには、一般的なビジネススキルはもちろん、「企業がどのようなロジックで動いているのか」「書く対象の業界はどういう状況にあるのか」といった知識が必要になります。原稿を書く上でも一般のブログのようなくだけた表現ではなく、新聞記事のようなきっちりとした取材に基づく、「大人の文章」が求められます。

 インタビューする相手も、経営者であることもあれば、エンジニアや研究開発者、採用担当者や会計の責任者など、多岐にわたります。そういう相手に「きちんと取材」するためには相応の準備が必要となり、原稿を書くときも「ネットで検索して得た情報を適当に組み合わせて、少しだけ文章を変えていっちょ上がり」というわけにはいきません。つまりライターに求められる原稿の難易度が、「こたつ記事」でOKのクラウドソーシングよりぐっと上がるわけです。

 しかしそれだけに、記事の報酬はクラウドソーシングの案件よりもずっと良いのが普通です。大手の企業の広報案件であれば、クライアントとの間に広告代理店や制作会社が入ったとしても、1記事で5万円から15万円ほど(長さ、難易度による)の金額であることが普通で、これは近年の一般的な雑誌・ウェブメディアの原稿料よりも高い金額です。1年52週のうち、正月とお盆を除いた50週働くとして、1件5万円のギャラが得られる仕事を週に2本やれば、年間500万円の売上になります。週3本なら、750万円です。それだけ稼げれば、家庭を持つ人でも生活は成り立ちます。

 ライターの仕事は基本的に「仕入れ」が必要なく、交通費や資料等の経費もクライアントに請求できますので、売上の多くはそのまま収入となります(もちろん税金等はそこから払いますが)。そして、企業から「直」で仕事を受注できるようになれば、仕事の単価はさらに上がります。ライター自身が「書く」だけでなく編集者・ディレクター的な役割も担い、企業のニーズに合わせて広報等の企画を立てられるようになれば、企業の「パートナー」として大きな仕事に一から関わることも可能です。BtoBライティングは、「書いて生きていく」上で極めて現実的な戦略なのです。

 そうした仕事を獲得する上で欠かせないのが「マーケティングに対する理解」です。企業案件の記事は「読んでもらいたい人」に適切な情報を届けることが目的であり、「マーケティング戦略を理解した文章」が求められます。例えば、私が以前に担当したある大手工作機械のメーカーの仕事では、1台1億円以上する大型の金属加工機を売るために、その導入事例を自社サイトで紹介するという記事を執筆しました。一般生活者を対象としたWebメディアの仕事では、「バズる記事」の書き手が求められるケースがよくありますが、この工作機械の導入事例の記事は、まったく「バズる」必要がありません。極端なことをいえば、1億円の工作機械の発注権限を持つ工場の責任者、そのたった一人が読んで、実際の受注につながればいいわけです。「BtoBライティング」では、ネット上の顔の見えない無数の人々ではなく、「これぞ」という人にピンポイントで刺さる文章が必要とされるのです。

 BtoBライティングのメリットは他にも、「ある程度の人口と経済規模がある都市であれば、仕事が見つけられる」ことがあります。少し前に、東京在住の著名なWeb編集者兼ライターの方が、「ライターをやるなら東京のほうが絶対にいい」と大阪のライター志望者にアドバイスしていました。たしかに、大手企業の広報部や、メディアを持っているIT企業、出版社等は東京に集中していますので、ネットで話題になるような仕事がしたいのであれば、東京のほうがチャンスがあるでしょう。
 しかし、例えば私が住む神戸は、大阪まで電車で30分、京都まで1時間という距離にあります。京阪神全体の市場規模は首都圏に次ぐ大きさで、世界的なシェアを持つ優良企業もたくさん存在します。私が8年間、どうにかこうにか「書くこと」で生きていくことができたのも、8年前に独立した際に「チーム・パスカル」という理系記事に特化したライターチームを結成し、そこで数多くの企業案件を受注できたからに他なりません。さらに言えば、「関西に住んでいる」という「土地の利」を活かして、東京の企業から仕事を受注することもよくあります。BtoBライティングは、地方在住者にとっても大きな可能性があるのです。

 ここまで書いて、手前味噌になるのですが、冒頭の石野さんとともに主催する、10月11日(金)から始まるプロライター大阪道場では、講師一人ひとりが自分の実体験にもとづく「関西で書いて生きていく手法」をお伝えします。本記事に書いた「マーケティングに基づくライティング」や「BtoBライティングにおける取材の実際」などについても詳しく解説します。
 若いライターの方の中には、「BtoBライティングをやってみよう」と思っても、「いったいどうすれば仕事を受注できるのだろう」と思う人もいるかもしれません。本道場では、企業案件を受注するための「企画の立て方」や「営業方法」も実例をもとにお伝えします。最近つくづく思うのは、ライターの仕事は「人のつながり」によってしかもたらされない、ということです。この道場で得られる最大のメリットは、受講後もずっと続く「ライター同士のネットワーク」であることは間違いありません。「BtoBライティング」にご興味を抱いた書き手の方、ぜひライター道場の門を叩いてみてください。



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