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グラビアという文化

アイドルから分化してその後進化を重ねてきたグラビア文化というのも僕にはなかなかに難しい。

アタマで考えて導き出した自分なりの価値観と、いつでもどこでも表に出せるものでは到底ないプライベートな本音がまさにぶつかり交錯しているところだから。

勾留中にあまりにも女性性絶無の環境にいたので、週刊プレイボーイや写真週刊誌を取り寄せるようになり、実は今までどこかいいのかさっぱりわからなかったこの世界にハマった。

身も蓋もなく言えば、露出の高い水着やランジェリーを身につけた若い女性を性的な視線で眺めるということなのだけど、グラビアを主戦場にした女性タレントが登場してから既に30年は超えた。

既にご結婚されお年頃のお子さんがいる方がいるという、それだけの時間が経過したということになる。

性的な視線に晒されるというのは女性アイドル歌手の全盛期から変わらないが、グラビアはポルノまがいのものまで含んでいて、その意味では扇情的な方向に進化したものだ。

しかしグラビアをやる女の子たちにとっては、後に女優として評価され活躍しておられる小池栄子さんや綾瀬はるかさんという先達がいるのだから、芸能の世界で生きると決めた以上は、登竜門の一つとしてもはや当たり前のように認識されており、しかもポルノとは明確な一線が引かれているため、若い時分のキラキラした自分を記録に残したいとの意識がそこにあることも見える。

AVと呼ばれるポルノでデビューしたり、グラビアからポルノに転身したならば、今でも即座にアンダーグラウンドな存在との烙印を押されてしまう。
そこには先に書いた見えざる一線がはっきり引かれていて、普通の感覚を持つ健康的な若い女性がいきなり目指せる世界ではない。

たとえ露出は多くともプライベートゾーンはきちんと守られるという「約束事」に縛られるグラビアは、その意味でも「脱ぐ」ことに対する躊躇いのハードルが低く、故に見た目で質が高い女性もチャレンジしやすい。

このあたりが、グラビアだけが持つ魅力と言ってもいいのだろう。

街に出て、自分の性欲の対象となる人を平然と性的な視線で眺めるようなデリカシーに欠ける下品な行為とは異なる。

グラビアはあくまで内心で楽しむものだからだ。

グラビアアイドルへのインタビューを読むと、ほとんどの人は決して軽い気持ちでやっているのではないことがわかる。
人気が出ると、プロのグラビアアイドルという意識がどんどん強くなるのもよくわかる。

残念に思えることの一つに、次のステップとして役者を考えている子も多いのだが、そのための準備で読書をしてみたら漢字が読めないという悩みが頻発している。

学校の勉強ができるなら、進学してよい就職先を見つけることが既定路線。
しかし、勉強が得意でないならば、でも平凡で退屈な人生から抜け出せるのなら、グラビアタレントという選択肢に賭ける女性が出てくるのは当然と言っていい筈。

吉岡里帆さんや足立梨花さんはグラビアから人気女優や人気タレントになった人たちだが、ブレイクするまで10年近くグラビアをやってきたことをむしろ誇りに思うと語る。

プレイボーイ誌に、かつて人気のあった人で50代でグラビアに再挑戦した方が掲載されていた。
とうにご結婚されて、中高の二人の娘さんのいるその人がインタビューで語る。

娘さんたちの思いは、やはり複雑だったり案外さばさばしていたりという反応だったという。
しかし自分がグラビアをやってきたことについては誇りを持っていると語って聞かせたと話している。

勉学で優秀な成績を収めるよりも、グラビアアイドルとして一定の人気を得ることの方が遥かに難しいことだ。
漢字が読めなくても、彼女たちは選ばれた特別な人たちで間違いない。

例えば良縁に恵まれたが故に過去を隠すケースもあるだろうが、そうした人生を歩んできたことをむしろ隠さない、更にはまたお声がかかったなら年齢の壁を超えて挑戦してみるという生き方は、日本の芸能にグラビア文化が定着してもう数十年が経過したのだから、そこは肯定的に見てあげたい…と僕はインタビューを何度も読み返しながら思った。

今のグラビアアイドルの方々は皆さん素晴らしいスタイルを誇るのだが、これはグラビア向けのボディメイクメソッドが確立したからだろうと思われる。

彼女たちは二十歳前後でデビューするから、今活躍するグラビアアイドルには2000年代生まれの女の子も多い。
多くの男性が好む、バストとヒップにボリュームがあり腰やお腹を細く絞った子は人気を得やすい。

彼女たちのインタビューを読むと、アニメやマンガが好きなインドア系の人が案外多い。

そして幼い頃から親しんできた「絵」の中の女性像を、生身の身体で見事に表現してみせる。

僕はアニメ絵を嫌悪してきたが、しかしここまできてしまった以上、個人的な好き嫌いはひとまず別にして、大多数の日本人に定着した「そういうもの」として認めざるを得ないとなった。

そして、そうした視点で郊外の書店をくまなく見て回ってみる。

すると、グラビアやアニメ・マンガ・ラノベの棚が実は六割以上あることに気づき、まったく知らなかった真実を突きつけられるように知らされて一人で驚愕した。

単に興味がなかったから見ておらず故に知らなかっただけで、エロが地域の書店存続の生命線になっている。

これまでの残りの僅かな棚にある本だけ見てそれが本屋というものであるという認識は、音を立てて崩れ落ちた。

エロは男性だけが楽しむものではなく、当たり前だが女性向けのコンテンツも充実している。

グラビアならジャニーズ系や羽生結弦さんが強いし、マンガやラノベならば未だBL系が根強い人気を得ている。
過激な恋愛を扱うコミック誌も多く並ぶ。

このことは、かつて垢抜けない姿格好で重そうな紙袋を幾つもぶら下げてコミケに通っていたオタクたちが、今の日本の「サブカル」のみならず文化の全体を制圧したとなるのだが、自分はそこを徹底的に避けてきただけに、あの人たちが収めた大勝利を思い知らされる経験にもなった。

コミケは銭勘定やエロという人間の本質を学ぶよい機会になっていたのだろう。

ちなみにプレイボーイ誌は腐っても集英社が手がけているだけのことはあり、内容のある記事も多く掲載される。

ゴシップがメインとなった講談社のフライデー誌にはかつての勢いはないが、時折よい記事も載せてくる。

光文社のフラッシュ誌はおじさん向けのエロに強く、しかし週刊大衆やアサヒ芸能、週刊実話では載らないスクープも出す。

完全にグラビアが売りになり、ライターが自由に書けるという意味では、安倍政権以降すっかり腰が抜けた全国紙と呼ばれる新聞よりもジャーナリズムの矜持は守られている。

これらを購入するほとんどの男性は、グラビアが目的なので記事を隅々まで読むことはないからこそ自由にやれるという面は否定できず、故に生じた現象とは言えるだろう。

つまりはエロが表現の自由の守護者となっているとの結論になる。

家の整理をしていたら、興味はなかったはずのグラビア写真集が何冊か出てきた。

そういえば、確かにこの子には惹かれていたと当時のことを思い出しここでも一人で笑ってしまった。

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