ひかりはだれのもの

灯油ストーブのにおいがすきだから
出勤して一番に まずは赤い灯油のタンクに手をつける

強ばった風景のなかに つめの先だけでも入りこめるような
ささやかなくぼみを求め 指を動かす
この冬は 私のものだけど 私だけのものではない

たとえば失明しそうなほど強い 白い光のなかでは何も見えなくて
何もかもを手に入れたような気になるけど それがまぼろしということを

もう知っている

灯油のにおいと火のあたたかさが 胸のなかでリンクするように
生活のなかで人の顔色をうかがい そこに弱さをさがしてしまわないように
灯油ストーブに火をつける 忘れる 手に入れる


10年前の今日
きみは歴史の教科書を読み
エジソンになりたいかどうかを考えて
いいや 平凡で ってつぶやく
教えてあげたい
望まないのであれば
普通の人にはなれないぜ


知っていたかな?
寒いとお湯がやわらかくなること
ローソンのおでんが100円セールをしていること
やさしくなくても 人は幸せになれるということ


世の中の大半は明るいひとたちがまわしていて
私はこぼれてきた光を 星とか月といった大層な名前で呼んでいる
ような気がして すこし肩身がせまいけど
ここはしずかでここちがいい
私は 世界のものだけど 世界だけのものではないし
胸いっぱいにすいこめる空気があれば 生きていけるような気がしている

(ほんとうのところはどうだか まだわからないけど)


光のなかでは朝の光がいちばん好きだから

次に住むところは東向きの部屋にしよう

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