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友人

あなたが 「もう疲れたよ」と言うかわりに
一つきり 砂のような溜め息をついたので
わたしは今夜 やむにやまれず
西と東の窓を開け
部屋が水色に変わるのを
見ているのかもしれません

捨てるものと捨てられないものとで構成された
この部屋の
むこうでゆれる金木犀と
その背後でこぼれた壁を
夜通し走っていたトラックがふるわせる
尖った音さえ ひとごとのように 聞いていた虫が
さっきまでただよっていたコンビニの
はるか
奥までつづくコンクリートの道が途切れた
丘の先
わたしにとっての地平線を
超えてしまった街に住むあなたよ
あなたのかなしみを知っています
そのまぶたに落ちる光のつめたさ
湯気たつ白米のきらめき
袖をとおす衣服がかたく
一度 咳をせずにはいられないこと
それが今このとき ホコリのようにして
わたしの睫毛のうえにも降りかかるのです
振るえるようなわずかな重み
そこをめがけてくるように
いつも朝日が射すのです

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