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ある夏の日の話 ②私の恋人について

今日も課長からメールが来なかった。ここ2週間なんの音沙汰もない。最後に会ったのは、今月の頭か。美味しいイタリアンに連れて行ってもらっていつものようにホテルに行って、それであの人は自分の家に帰って行く。二人でいる時は甘いけど、会った後、一人になった時、虚無感が凄くて消えてなくなりたくなる。よくこんな状態で4年もいられるよな、と自分の我慢強さに驚く。   課長はハンサムで、仕事がとにかく出来る。人望も厚くて皆が彼を頼りにしている。入社したばかりの頃も新入社員の私たちのことを気にかけてくれて、挨拶をするといつも完璧な、いい感じで挨拶を返してくれる人。憧れだった。遠くから見ていた。4年前の誰かの送別会の二次会の後に、夜の路地に入ってキスをしたことが始まりだった。私は舞い上がった。会いたいとメールが来るのを毎日待ってたし、連絡をもらえば、断ることはなかった。課長はそのメールを毎回そっと消していた。自分の欲望をぶつけてくるくせに、周囲には絶対にこの関係を知られたくない。そういう人だと分かった。奥さんと別れるとかそういうことも微塵も考えていないのもすぐに分かった。私も別に課長を奪いたいとかそんな気持ちはなかった。奥さんや5歳の娘に悪いな、バレたら家庭を壊すかもしれない、といつも頭では分かってはいるんだけど、課長は二人でいる時は家庭の匂いを出さないから、実体が見えなくて、まぁいいだろう、大丈夫。と感覚が麻痺していく。        いつの間にか私は素晴らしく都合の良い女になっていた。                  一人の家に帰ると、悲しみに襲われてどうしたらいいのか分からなくなる。満たされたいのに心が渇いて荒れていく。一人で抱えきれずに私は桜と鈴木くんの3人で飲みに行った時、課長との事を話した。桜は凄く怒って呆れていた。鈴木くんはさっちん、大丈夫なの?と言った。       この話をこれ以上すると友達をも失うかもしれないと思って、自分からはこの話をするのをやめた。埼玉の実家に帰る回数もめっきり減った。お母さんとお父さんの顔がまともに見られなかった。                    この事を考えるとため息ばかりが出る。    明日のことを考えよう。ちゃんと大人になってから初めて行く花火大会が楽しみだ。鈴木くんと行くのも楽しそうだ。ちゃんとお化粧して綺麗にして驚かせてやりたい。            いつもより多めに化粧水を念入りに塗って、爪も可愛くしてから眠りについた。

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