恐れるべからず

長年、医療現場にいると
いろんな出会いがある

忘れられない患者さんもいる
市営団地住まいの地区会長
ある疾病での長患い
たけど
凛としたものだつた

最期を恐れてない
お孫さんとふたり暮らし
虐待から守るために
実の次女が母親
背中の蚯蚓脹れ

長女に誰もいない
待合室で
お父さんは

何も恐れることなどない
ただ、孫だけは
お前が、我が子として
大切に育てなさい

最期の言葉
それから
何ヶ月して、永眠
眠るような穏やかな笑顔

何も恐れることなどない
精一杯いきて
精一杯、孫のために
最後の奉公

守ってあげない
妹から、姉のお前さんの
仕事なんだ

その言葉は
別れのときに
長女から聞かされた
聞いてないふりをして
ただ、ただ、頷いた


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