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隠花植物

河出書房新社『アルビノを生きる』、2023年のこの版は新装版であり、10年前の2013年に初版がでているらしい。
仕事に消耗していたころだったからか、初版は不覚にも気づかなかった。
2013年の初版時点でアルビノが、決定的に解明された存在でないことに驚く。ここでは劣勢遺伝として、発症するか否かは二択的に扱われているものの「視力が弱くまた強い光が苦手。日中の室内でもブラインドを下した環境を好む」「太陽光に当たるとすぐ火傷をおこす」は自分にもそのとおり当てはまる。

外光に晒された環境下では、それが冬場であっても頭痛吐き気の原因になること高校生の頃気づいた。コートを着るような気候の関西修学旅行の夜中、ひとりで鎮痛剤を服み耐えていたそのときにはなんのことだかわからなかったが。どうも光が原因らしいということに気づき、こどもの頃から掛けていた眼鏡に一番濃い赤褐色のスモークを入れ、完全に日中屋外での行動になる際には人目をはばかりつつ度入りのサングラスをかけることを習得した。

平熱が高く、体内に熱がこもりがちなので「太陽光を避ける」は悩ましい。長袖や日焼け止めは熱の発散を留めるからである。
6月に旅してきた北海道ではしかし、2日間4時間くらいづつ直射日光の下にいたら真っ赤にひぶくれし泣きをみた。滞在していた小離島にはクスリを売る店すらもあってちょっとはそのことアタマをよぎったのだが、「カラダに熱たまるほうがツラい」と見送った経緯がある。
低緯度である小笠原へいったときには事前に警戒して日焼け止めを持参したのだ。高緯度でも夏至だったのだから熱の溜まる辛さよりもあとのことを考えるべきだった。腕と頸は10日間ばかり腫れあがった。旅行記には記さなかったものの。

どうも二択じゃなくて、連続的にそういう性質の人間おる。分断されるがゆえに起こる差別、いや違うそこ連続的、と言挙げすることによってなんとかならぬか、と唱えたい。

役所からの母子手帳の「日光浴」が「外気浴」に訂正されたのが、ちょうど上の息子(97年生)から下の息子(99年生)へ移行したときだったか。保健師さん以外はそれほど気にも留めなかったのかもしれないが、内心「そうなんだよ、ライトプルーフなのとそうじゃないトライブとがいるのよ」とひそやかに旗を振った人間がここにいる。

日差しが避けがたく、体熱の放出のかなわぬこの数週間、自宅へじっと籠り機巧猫《からくりねこ》の店番と、8月23日の訓練校入校選考の過去問回しにあけくれた日々は、体調にとっては望ましい期間であった。
昼間の勤めをはじめるとそうもいかぬ。またお客様も前では常に万全の笑みを浮かべる自分でもある。雌伏のいま、なにをさらに蓄積しようかと思案の最中である。

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