テレビ無し部屋に泊まった話・1
現在、KAVC(神戸)にてコトリ会議仕込み中
泊まったのは、仕込み初日の11月13日
そう、昨晩の話。
泊まる前に少し様子を知りたくて劇場入りする前にホテルに寄る。本当にテレビ無し(¥1.100-)で泊まれるのかを聞くためだけに二階へ
因みに一階には
指名手配犯の写真が沢山。そして光で見え辛いけど、最高級の部屋が一泊2,100円だそう
で、二階へ
50年前に廃校になった校舎のような一度も(多分)掃除されてない階段を登りきると受付
受付の小窓を覗くと、髭面の大男。マサ斎藤のようなおじさんが
写真:マサ斎藤
マサ斎藤(以下、マサ)は、鍋をしていた。
1人用サイズの。小窓から見える小部屋の中で小鍋を食べていた、1人で。なんか、怖い。なんでだろうか、怖かった。鍋が、ではなく、大男が受付しながら鍋をしてることが怖かった。
野村「…すみません」
マサ「ん?」
野村「…(ん?って言った。俺が客の可能性大やのに、すいませんって問いかけの返答で「ん?」って言った)」
マサ「…」
こちらを見つめ続けるマサ
「ギシッ」と軋む音
何が軋んだのか判らない、軋む音だけが響く
野村「…ここって、本当に¥1,100-ですか?」
マサ「うん、それで泊まれるけど」
野村「…けど?」
マサ「テレビ無いで」
野村「(要らん要らん)…テレビ大丈夫です」
マサ「そうか、ほなその値段や」
野村、あたり見回すといくつもの部屋が
そしてその部屋全てに表から南京錠が
野村「…これ…表から部屋が南京錠で鍵されてますけど、外から閉めるだけなんですか?」
マサ「いや、中からも閉めれるよ」
野村「…そうですか」
マサ「泊まるか?」
野村「ああ、はい、泊まろうと思うのですが、ひとまず夜まで用事あるので夜また来ますね」
マサ「ああ、そうか。2日分先支払ってくれたら2日泊まれるで」
野村「…(そらそうやろ)」
マサ「1日分やと朝10時に追い出すから払ってた方がええで」
野村「(追い出すって…他にワードあるやろ)…それまでに出ればええんすよね?」
マサ「…ま、そやな」
なんか胸騒ぎがした
野村「…お風呂ってあります?」
マサ「ああ、潰したった」
野村「潰したった?」
マサ「喧嘩しよるやろ、あいつら」
野村「…(どいつら?)」
マサ「やから、潰したってん」
野村「…(やから、やない。"やから"(標準語で"だから")やない。なんじゃその理由)」
マサ「どうする?」
野村「…また夜来る、かもです」
マサ「…そうか」
と言うやいなやマサは僕から顔を背けて鍋に箸を伸ばした。僕はその姿をぼんやり見ながら、マサに背を向けホテルを出る
そしてそこから徒歩10秒未満のKAVCへ
…
夜
雨が降り始めた、夜
僕は、ひとり、ホテルの前に立っていた
昼間見た時より暗くなった階段を登り受付へ
マサが居た
多分、このホテルの従業員はマサしか居ない
マサは、まだ鍋を食べていた
あれから12時間ほど経ってるのにまだ食べていた
何故か昼より怖くなかった
それよりずっと食べてる事実が面白かった
なので少し僕はご陽気に
野村「宿泊いいですか?」
マサ「…いいよ」
野村「テレビ無しの部屋で」
マサ「はいよ」
2人「……」
グツグツと地獄風呂を思わせるほど沸騰してる鍋の音だけが聞こえてた
野村「…あ、今払うんですかね」
マサ「当たり前やろなんやほならワシが朝10時に170人の料金貰いに追い回すんかい!」
マサは一息で、一息なのに流暢に、それはそれは流暢に怒鳴り声を上げた。あまりの流暢さに怖さより感心が勝った。何度も口にした事あるセリフなのかな?なんて想像しながら僕は¥1,100-支払
マサはそのお金をポケットに無造作にしまい込んだ、札と硬化を分けることなく、まとめてジャージのポケットにしまい込んだ
そして埃臭く狭い廊下を案内されていく
その廊下にはベビーカーや傘、木材などが乱雑に置かれてたりしており、昔ながらのお化け屋敷に似た雰囲気と言えば伝わるかなそんな感じ
で、「83」と書かれた部屋に到着
マサは、マイナスドライバーみたいなモノをドアの隙間に挟み込み、テコの原理でドアを開けた
怖かった、なんか、その開け方が
マサは「朝10時には出てってな」と言い残して受付に戻ろうと歩き出した
野村「あの!」
マサ「ん?」
野村「銭湯行こうと思うんですけど、ココ出る時なんか要ります?」
マサ「勝手に出入りして」
野村「あ、はい」
マサはのそのそと出番が終わったお化け役のように受付に戻っていった
僕は周りを見渡した、1メートル置きに置かれてるドア
「1メートル置き」に置かれてるドア
いや1メートル幅ないかも
僕が泊まった部屋は横幅1メートルあるかないか
畳1畳分の部屋でした
僕は携帯を取り出し写真を撮った
カシャ!
カシャ
静かなホテルにシャッター音が響き渡った気がしてなんだかドキドキした。そして独房のような室内にもドキドキした
布団が轢かれているだけの部屋
多分、掃除はされていない
それは室内に置かれている扇風機が語ってくれた
一先ず落ち着こうとタバコを一服
灰皿の下敷用に置かれた漫画が気になり手に。壁のシミも気になるけれども漫画を手に取る。絶対壁を殴った痕だけど漫画を手に取った。
「命のメス」Dr.毒島
少し読んでみると冒頭も冒頭のページに
「こうしていると脳幹に刺激が与えられて恐怖心が薄れるんだ」
そうしろ、って僕に誰かが言ってる気がした 「命のメス」が当ホテルのガイドブックなのかも知れない
と、思うぐらいになんだかドキドキする部屋だった。壁を見渡した、そしたらこんな文字が
水 木
3 4
10 11
17 18
24 25
30(31) 31
多分これは何月のことを指してるのかは判らないけど、水曜と木曜がその月の何日なのかを書いた形跡。30って書いて足し算ミスってるけど。ミスってるけど、なんで書いたんだろう。何故か怖い
その他には
HeやNaなど元素記号?
上は読み取れないけど、下はHACK OUT?
たたき切るっつってんの?って思って解読をやめた。意味わかっても良いことない気がして。そして写真も撮るのやめた。マサの「喧嘩しよるやろ、あいつら」って言葉を思い出して。撮るたびカシャカシャ鳴るし
大人しく寝ることに
で、服は脱がないままに横になる。脱がない方が良い気がして。次の日、全身に赤いブツブツ出して劇場入りしたくなかったし。ブツブツ出ないだろうけど。そして一応
部屋の鍵をしっかり締めて
「何回、鍵の位置変えとんねん。穴だらけやないか」と思いながらも何故か再びマサの言葉を思い出した「喧嘩しよるやろ、あいつら」もだけど、
「当たり前やろなんやほならワシが朝10時に170人の料金貰いに追い回すんかい!」
って言葉を。朝10時超えても出てこない人がいた場合強制的に、そしてシンプルに腕力でマサが乗り込んで来た形跡ではないか。この穴の数々は。
寝坊しない様にしなきゃ!
って思ったんだけど今度は「170人」に引っかかった。170人?!このホテルに?
170人も泊まってんの?
え
…
確かに一部屋一畳なら幾らでも部屋を作れる。全員¥1,100の部屋でも170人だと1日の売り上げが¥187,000-。しかも僕が泊まったのは平日。なので週末はより宿泊人数は増えるはず、だけど平均を(平日の)今日にして計算すると月30日計算でも561万円。年間6700万以上。
マ、マサ!!!アンタ「喧嘩しよる」から風呂潰したんじゃなくて、部屋数増やしたいから風呂潰したんやろ!部屋の掃除もせんで良くなるし!風呂無くともこの値段なら、そして立地的に宿泊希望者は絶えない。しかし儲てる感じ出したら妬まれる可能性が大いにあるし、下手したら強盗に合う可能性もある。
その可能性を下げる為に、儲けてないのをマサは装ってたんじゃないだろうか。このホテルはギリギリ経営してるように。まずはホテル内は出来るだけ汚くする。そしてマサ自身も一日中鍋を食べ続け身体を大きくする。
強くなる為に。
強盗の前段階「マサに勝てるのか?」を思わせることが最大の抑止力。
そして部屋は汚くとも1100円なら文句言う奴は居ない。居ないし、泊まる敷居が下がるだけ。来るもの誰も拒まないって意味での敷居に。そして掃除しなくとも文句でないから、マサも楽出来る。
マサ、俺はアンタを誤解してたよ。アンタはクレバーな経営者だったよ!と無理矢理こじつけて考え「このホテルは一見怖いけど、内実しっかりしてる経営者のホテルだから寝ても襲われたりしない。襲われても声を上げればマサが助けてくれる。だから寝よう。大丈夫」と心で唱えて眠りにつきました。だって絶対170人も泊まってないもん、マサは客数盛って喋ってたもん。
鍋もただ僕が偶然食事時に来ただけだろうし。
二度と泊まらない
と寝る前は思ったけど、公演中また泊まるかも。別の部屋の壁も見てみたいし。
何処でも熟睡できる僕でも5、6回目覚めたホテルだったけど劇場前ってのが捨てがたい。超近所に銭湯もあるし。
ほんでなにより、朝ホテルを出る際に「あした(ありがとうございましたの意)」と受付を見ず挨拶すると
「ありがとうございます!!!!!」
と甲高い声がした。受付を見ると
マサと全然違うタイプの人がいた。細い人。
マサだけじゃなかった!!このホテル!!!
あ、当たり前か!でも驚いたんです。だって、
この人も鍋してたのだ!
こ、怖い。怖いけど、なんで鍋してんのか
やはり強くなろうとしてるのか?
気になる。鍋するのは受付のマスト事項なのか。
では、需要無いかもしれんけど
「テレビ無し部屋に泊まった話・2」も書けたら書きます。もう一泊したら。
いや朝からこんな記事書いてないで稽古しよ。明日初日です、劇場でお待ちしております。
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