アルバム『Up & Down』感想

元々はX(当時はtwitter)に載せていたものを1つにまとめて再掲します。アルバムについての個人的な解釈と感想です。


『Up & Down』を聴いて

●各楽曲と、アルバムとしての繋がり

以前のツイートでアルバム全体についての感想を述べたので、個人的にアルバム楽曲群をいくつかのパートに切り分けつつ、好きなlyricや、楽曲を単体で聴いた時とアルバムとしての繋がりの中で聴いた時の印象などについて書こうと思います。

【個人的区切り】

  1. 『Prologue』〜『HELLO!HALO!』

  2. 『Beautiful Sunset』〜『Epilogue』

  3. 『Love is ?』

 1.『Prologue』〜『HELLO!HALO!』

『Make Me Better』はMVも煌めきに満ちていて、ディスコポップやサイケの雰囲気だけでなく、どこかハリウッド映画を思わせるような、ロマンチックな場面作りがなされていることが印象的です。音源配信の段階では、ドライブの時に聞くような、サマーチューンのイメージが強かったのですが、MVにおけるペアダンスを含めた振り付けによってまさに「毎日をFeel Betterにする」曲であることが感じられました。アルバム自体は7月という夏のリリースですが、この楽曲含め、思い浮かべることのできる情景がある季節に限定されないものが多いと思います。
『Make Me Better』を聴くと、自分がとても大切に扱われているような素敵な気分になるのですが、『Red Carpet』もまた、丁寧におもてなしをされているようなスペシャル感を味わえる楽曲です。こちらの楽曲には少しジャズ的な雰囲気もあり、お洒落で贅沢な眩さがあります。『Make Me Better』ではラストにカメラで写真を撮る場面がありますが、『Red Carpet』にも、まさにセレブリティに向けられるようなシャッター音が…。昨年のLIVE ONLINEでは、過去ライブの演出の再現や、禁酒法時代のスピークイージー(本棚の奥などの部屋に設けた潜り酒場)らしきセットでの大人な演出が魅力的だったので、ライブでのパフォーマンスにも期待が高まります。
『ヒラヒラ』は歌詞に花びらが出てきますが、楽曲のメッセージは春という節目の季節における不安ではなく、「今ひらひらと舞った 花びらのように散りたくない」というパワフルでエネルギッシュなものとなっています。ひたすらに前進する、未来を見つめ、掴み取ることへのポジティブさ、貪欲さが、ロック調のサウンド(どこか80年代っぽさもあるように思いました)と、「ai」を使った韻の軽快さで表現されています。
 『HELLO! HALO!』は『ヒラヒラ』の疾走感とは違った形で、ポジティブさを届けてくれる楽曲です。笑顔や、のどかでゆったりとした平和な時間が想起されます。Eテレで放送中の『Eダンスアカデミー』のテーマソングでもあるので、「ぼく」や「きみ」の関係性も手を繋ぎ合う友達、仲間のようです。毎週番組を観ているので自然と口ずさんでいる一曲です。
 『雨のち晴れ』の歌詞は1番、2番ともに歌い出しの歌詞「完璧なものなど この世界にはもうないけど」、「感性なんてものほど あやふやなものはないけど」、そしてCメロの「君の手の中ずっと 握りしめたままの夢 勇気出して今 Set it free 誰のものでもないその想い in your dream」が特に好きです。GENERATIONSの楽曲では時折、こうした人の気持ちや、何かに向かって頑張っていった先にあるものといった形容し難いものや、進んでいく時間、変化、矛盾などの動かしようのないもの、心の中にあるけれど言い出せない言葉や踏み出せない一歩といったものを見つめ、それらをあるがままに表現していることが多いように感じます。ただ世の中には良いことがたくさんあるということを歌うだけでなく、こうした少し切ない事実に目を向けたうえで進むという姿に救われます。
『Prologue』〜『HELLO! HALO!』まででイメージされるのは晴れた青空です。少し伸びをして、良い天気だなと空を見上げる。それから自然とスキップしたり、踊り出したくなるような明るい楽曲に彩られているように感じました。
「空を見上げる」ことについては、アルバムの後半パートでは意味合いの異なるものとして、描き出されていると考えます。

2.『Beautiful Sunset』〜『Epilogue』

『Beautiful Sunset』、待望の数原さん作詞の楽曲です。ここで時間経過として、Sunset(日没)が描かれています。気持ちの良い柔らかな風に吹かれながら、2人でこの時間を過ごせたら。「飾らないで 気負わないで
ありのままでいいんじゃない? 身を任して 波に乗ってくあの感覚みたいに ほらね?って笑い合って いつものようにキスしちゃって 君が思うよりも楽だろう」、「No waveだって構わないんだ 君が笑顔になれるなら 永遠に…」など好きな歌詞がたくさんあり、いっそ全編引用したいほどです。素朴な日常に満ち足りた気持ちを感じる、優しい楽曲です。空は晴れた青空から赤い夕焼けへと変わり、そこに「海」というモチーフが加えられます。海を見ているとつい物思いにふけったり、感傷的になる時もあれば、悩みが波間に溶けていくような心地がする時もある。そんな両義性にも詩的な側面を感じます。辛い時には特にネガティブな面ばかりにフォーカスしてしまうけれど、身の回りからポジティブなものが消えてしまうわけではない。ただそれに気づけたら空も海もこんなに美しい。Up&Downを繰り返す当たり前の日常と、そこにある幸せ、永遠であってほしいような景色が目に浮かぶ一曲です。
 続く『Monologue』では波の音がノイズの中でかき消されていき、さらなる時間の経過やある種の歪みのようなものがイメージされながら、『Lonely』へと続きます。思い出の中に留まり、進まなければ(I have to move on)と思いながらも、一人きりで後悔し、叶わない願いを抱えたまま横たわっているような楽曲です。変わらず新しい日がやってくる。日が昇って、沈んでいくのにただ面影を求めて日々が流れていくのを見送るような悲しさがあります。「It's raining in my heart (心に雨が降っている)」、長く続く雨の中にある曲です。そんな中で、「首飾りのような海 Do you remember? 戻りたいな…」という歌詞があり、『Beautiful Sunset』で描かれた時間との関連が想起されます。「首飾りのような海」という表現自体がとても詩的で美しいのですが、アルバムの中でこの二つの楽曲が『Monologue』を挟んで続いていることにより、楽曲を単体で聴いた場合とは異なる物語性が生まれているように思います。さらに、ラップパートでは「星」というモチーフが追加され、これは『Star Traveling』以下の楽曲において重要な存在として表れているのではないかと感じました。
『Lonely』における「ただ浮いてるだけの輝けない Star』は心のありようであったり、あるいは自分自身を喩えたものとも受け取れます。このようにただ漠然と存在する星が歌われた後、『Star Traveling』は「なんという星空! なんという瞬間! まばたきすることすらできない」という詞で始まります。『Lonely』では昼も夜もなく経過していた時間が、ここで夜に定まります。この歌を解釈するのは非常に難しい(主に視点の面で難解です)のですが、公式に説明されているように、この楽曲は死を一つのテーマとしたものとなっています。MVにおいては、ゆらめく影や、女性に触れることができずに静止したままのカット、ルームミラーの横に下げられたロザリオなど、死を思わせる要素が印象的でした。『Star Traveling』というタイトルからはなんとなく『銀河鉄道の夜』のような雰囲気も感じさせます。星空をめぐる列車と死の物語です。しかしながら、死を描くこの曲の中で星空は眩しく、美しく、満天の輝きをもつものとして表現されています。「あの星が君だと 僕は知ってるから」、大切な人と自分を分かつ途方もない距離を知りながら、君を愛するがゆえに空を見上げる歌です。死という否定しようのない悲しい状況、Downと受け取れる日を、これからも君を想うことで共に生き、進んでいくものとして歌っているのだなと思いました。『Lonely』における幸せだったはずなのに今は自分を苦しめ縛り付ける思い出とは全く異なる形で、触れ合うことのできない「君」は明確に存在し続け「僕」を支えるものとして位置づけられている気がします。
『Feel Alright』も好きな楽曲の一つです。アルバムを聞く人の毎日に寄り添い、愛や幸せを届けるというメッセージは『Make Me Better』でかなり直接的に示されていますが、『Feel Alright』はある意味で大人っぽく、切なさがあり、一方で可愛らしさもある、多面的な魅力を持った一曲だと感じました。「冷え切ったシーツの上」、「包まったシーツの中」、「ベッドを照らす Moon light」などの情景を描写した歌詞にこの曲における二人の関係性が見て取れますが、こうしたリアルさに加えて「欠けた月の下で」、「満ちた月の下で」と対照的な月の姿に心情をうつす詩的な面も素敵です。また、この曲では「I feel you 空見上げて」という歌詞があり、ここでも空を見上げることは誰かを愛しく想う気持ちを表しているように感じました。一人少し切ない気持ちで静かに踊るようなメロディーと歌声から、リズムが軽快に展開し「君と2人の秘密 Rendezvous ベッドを照らすMoon light 2人の秘密 Rendezvous 永遠に続いたら」と続くところが特にお気に入りです。まるで世界に2人きり、というような、どこか夢心地で、可愛らしく、ロマンチックな響きがあります。
『A wish for you -君を願う夜-』ではこの夢のような雰囲気がさらに高まり、キラキラとしたサウンドの中で「キミ」と「ボク」が出会い直す物語が展開されます。「宇宙の片隅で今夜 はじまる Story」。全てを乗り越えて「ボク」は「キミ」の手を取り、空を超えていく旅。この曲は『雨のち晴れ』のカップリング曲として収録されていましたが、このアルバムを通して聴いていくと、『Star Traveling』との関連を強く感じます。美しい星空を見上げて「君」を想った死にまつわる時間は、やがては星空にのぼり、宇宙を手を取り合って駆けていくような幸せな物語へと至るのではないかという気がします。
『You & I』もまた、壮大さを持った愛の歌なのですが、2番からの歌詞が特に好きです。「乾ききった砂漠を 走り抜けて 絶え間なく波打つ 海を渡って 君に出会えた Through the pain I just can't explain 見つけた You're my everything 例えば明日地球が終わって すべて消えて失くなっても Hold you in my arms, you'll be in my heart 君がいるならそれでいい 僕の胸で Come feel the fire Let me take you higher」、楽曲はその歌詞全てで一つの作品ですから、音楽番組等ではこの部分がカットされてしまうのが非常に勿体ないと思います。2人でずっと一緒にいようという気持ちだけでなく、君がいるなら何度でも始められるというような希望を歌っているところが素晴らしいと思います。地球が終わって全て消えて失くなる。もしそうなったらそれはどうしようもないし、別にそれでも良い。君と共に居るということで、ある意味で全てが満ち足りているというような大きな愛情が歌われているのだと思います。ここで君を守ることなどは語られず、ただ2人寄り添っていることの幸せがあることが美しいなと感じました。『Epilogue』は『You & I』で描かれる物語のスケールを引き継ぐサウンドとなっており、ここで様々な愛についての物語が一度閉じます。


3.『Love is ?』

アルバムの楽曲の中ではさまざまな関係、状況の中で多様な愛が示されていました。一度『Epilogue』によって物語が終わった後、問いかけられるものは、『Love is ?』。愛とは?という決まった形のないものに対する疑問です。Up & Downや雨、晴れといったアルバム中の重要なメッセージが歌詞に織り交ぜられている点も魅力的ですが、愛とは何かを考えるこの曲において愛の一つの形として「寄り添うこと」が示され、「愛を歌うから! 愛を踊るから!」という一つの約束がなされています。このアルバムを聴く私たちにはこうした愛が贈られているということです。「愛に形は無いと わかって生きているんだ」、愛はいろいろな姿をしていると知っているけれど、それでも愛が自分にも理解できる何かであってほしいと思う時があります。他人から向けられる気持ちがなんなのか、それを正しく捉えることもまた難しいことだと思います。思うような愛を得られないこともあるかもしれません。
 「時として 歩み止めてしまうほどの悔しさが強くあれ!と叫ぶんだ」や、「Up & Downした わがまま過ぎた自分を責めるなら 誰よりも君を理解しよう」、「挑戦も嫌われることも怖いよ どうして?」といった歌詞が胸に突き刺さるようでした。大人になってみると、失敗できないことが増え、責任も増え、そこから逃げたくなることが多くなるような気がします。仕方なかった、所詮自分の実力では到底無理なんだから、と言い聞かせながらやろうと思っていたことから遠ざかり、内心では諦めようとしている現状にものすごく悔しさを感じる時もあります。(これは単に自分が負けず嫌いだからかもしれませんが…)何かに失敗した時、みんなを失望させたと感じて、誰かのせいにもしたくないと思った時に、どんどん自分を嫌いになっていくこともあります。まず、そんな気持ちにこの楽曲が寄り添ってくれたことがなによりも嬉しかったです。自分のままで、自分のペースで進めば良いという言葉を受けて、心が軽くなるのを感じました。
GENERATIONSの皆さんの作品やメッセージ、パフォーマンスには「大変な1日だったけど、良いこともあった。明日も頑張ろう」と思わせてくれる力があります。それ自体が、私が気づくことのできた愛の一つであると思います。『Love is ?』を含め、アルバムの全てから素敵なものをたくさん受け取ることができました。

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