ザワX感想

とりあえず2回観てからの感想です。最高すぎて毎日観たい。瀬ノ門多めですが、全体的に過去作の話も入れつつ。
※2022.09.03に書いたものを公開


●ハイロー歴のようなもの

2015年年末にシーズン1の一挙放送を偶然見てハイローと出会う。(部屋の掃除しながら見ていた記憶)その時は台詞回しや世界観が独特だなと思ったのでネタとして楽しんで特に友達にすすめるとかもなく、「なんかEXILEの変なドラマやってるなぁ」的な感じで見ていました。LDHアーティスト自体に本格的にハマったのが2018年頃なので、LDHの人は知らないけど若手俳優は分かる(特撮ものを見てたので山田裕貴とか永瀬匡とかが出てる!となってた)という状態だった。シーズン2も稲葉友が出てるからという理由で見てた。
それからしばらく離れていて、ザムは3を友達にすすめられて映画館で一緒に観た。これも年末だった。不思議とアツい気持ちになったので、以降過去作見直したりしてました。
LDHちゃんとハマってからまた見直して、推し(GENEの佐野玲於さん)が出てるのにめちゃくちゃスルーしたまま観てたことに気がついて衝撃を受けた……。というかザム3でわりとメインのシーンもあるのに?という。私の目は節穴。
ザワは試写会も行ったしほぼ週1ペースで映画館に通って観ていました。(特典で鳳仙の冊子が家に大量にある。)
鳳仙キャスト、志尊淳もそうですがD2追ってた時から荒井敦史さんが超好きなので本当に嬉しかった。一時期荒井さんが出てるヤンキーものの作品観まくってた。さらに幕張BOTで中務先生と小森さんがハイロー出演決定という情報が出た時にギャー!!!ってなったのも良い思い出。ザワはザワ0、6も観ています。

●公開日までのテンションの遷移とかプレミアムライブレポ

まず鳳仙がまた出てくるというのが嬉しかったし、ザワ のラストで示されていたように鈴蘭も出てくるということにワクワクしていました。初めは敵対するにしても共闘するにしても「鬼邪高、鳳仙、鈴蘭の物語」と思っていたのですが、さらに情報解禁が進んでいくと瀬ノ門、鎌坂、バラ商と学校がめっちゃ増えていったので驚きが大きかった。学校めちゃくちゃあるっぽいけどあの地区だけで刑務所2つもあるしまぁ……などと考えていた。(各校の位置関係はよく分かっていない)
芸能情報に疎いので、「新キャストの方々は俳優じゃなくて、アイドル……?グループ名は聞いたことがあるような……」みたいな感じでした。ただ当然twitterのトレンドになったりとすごい盛り上がりだったので、すごい人たちが出演するんだということはすぐに理解できましたね。
陣ちゃん、いっちゃん、まこっちゃんの出演はROLの千葉公演の時に知りました。また幕張で情報解禁に沸いているオタク。ここでザワXを一刻も早く見なければという気持ちになったので、当然試写会イベントに行くことに。仕事もあるので初日の夜の部のみ参戦しました。8月はこれのために頑張っていたと言っても過言ではない。
ランペの新キャストもそうですが、7月にたまアリでやったBOTで八木ちゃんとなっちゃん、ケイちゃんの出演も発表されたのでそのあたりがどんな役なのか、アクションはどんな感じだろう?みたいなことをメインの楽しみポイントと思って観に行ったのですが何が起こったかというと……

瀬ノ門主従に狂ってしまいました。

あれに狂わないのは無理だと思います。今回そこまでがっつり前情報入れずに観に行ったので予想外すぎて車に轢かれたみたいになってますね。そんなわけで「9月9日までザワX観られないのは拷問ではないか」と思いながら暮らすこととなりました。劇中歌もめちゃくちゃ良いもの尽くしなのですが、ほとんどがフル音源解禁前なので、youtubeで予告と解禁されている楽曲の動画を無限に繰り返しています。
プレミアムライブ、全てが最高すぎた。映画観た後だったので、がっつり悪役ポジションの天下井を演じている三山凌輝くんがランペに混じってニコニコ歌ってるのを見て混乱しました。めちゃくちゃ可愛いですね。懐っこいワンちゃんみたい。中本悠太さんはVTR出演でしたが喋り方がとても優しくてここでも可愛い……となった。イベント終わって帰りながら話してた感想が8割くらい「◯◯のとこ、めっちゃ可愛かった」みたいな内容でしたね。あ、本編でもラオウは可愛いのですが、演じている三上ヘンリー大智さんもすごい可愛かったです。本業が格闘家の方なので、「ふだんこういう会場に来る時は殴るとか殴られるとかのことを考えているので、今日はそういうのがなくて楽しかったですー」みたいな強いコメントをされていました。那須川天心くんがBOTの最終日にゲスト出演して、「まぁここにいる全員倒せるから良いんですけど」みたいな話をしていたのを思い出した。
プレミアムライブ、ちゃんとキャラになりきってくれているパートがあるので陣ちゃんが輩歩きを徹底していて良かった。普段の中務先生の歩き方、こんな感じなんだよな……と思いました。(参考:大阪さんぽの回など)BOTのハイローパートでもやってくれていましたね。ファンサの代わりに、柵にガンっ!と足をかけて睨みつけたりしていて痺れました。
サバカンがいろんなところで盛り上げてくれていたんですが、バリちゃんたちのとこに行った時にリッキーがすぐにノリに順応していて笑いました。流石。あとは鳳仙繋がりでサバカンとなっちゃんが並んではしゃいでいて良かったです。ところでなっちゃんは背がでかいので鳳仙の制服が超似合う。
サバカン、『Top Down』のバリちゃんカバーの時に「踊れ〜!!!」って言ってマジで終始踊ってたところが最高に面白かったです。
キャストコメントの時間、鈴蘭の三上ヘンリー大智さん、ケイちゃん、瑞生ちゃんが並んでるのでそこがゆるふわ空間になっていて大変和みました。ケイちゃんけっこう背が高いはずなのですが、ハイローキャストに高身長の人が多いので相対的に小さく見える不思議。
あまりにも映画が面白かったのと、瀬ノ門のことばかり考えているので、最近は感謝の気持ちを持ってBE:FIRSTとNCT127の楽曲を聴いています。また新しいジャンルを知ることができました。

●真面目な感想

・前作との比較

ザワの軸は楓士雄の成長物語、村山さんの卒業の物語、アラタの問題を解決しようとする団地の仲間の物語の3つが作品の軸になっていたと思います。
楓士雄は一言で言えば「未熟な主人公」なのかなと思います。ケンカが強くても楓士雄より強い人間はたくさんいるし、「テッペンを獲ることは鬼邪高のリーダーになることだ」という意識を強く持っているようでもありません。そのため、確かに強くて魅力的ではあるけれどまだまだ大きな成長の可能性があるキャラクターです。鳳仙を束ねる佐智雄が楓士雄にとってリーダーのお手本のような存在となり、ケンカの強さの面では轟くんが身近にいます。楓士雄がそういった自分よりもすごい人間との関わりの中で成長していき、周囲もまた楓士雄から影響を受けて変化していくという構図がザワの魅力だなと思います。
ザワ0で「井の中の蛙大海を知らず されど空の青さを知る」という言葉が出てきますが、ザワにおける楓士雄の成長はまさにこの言葉のようなものなのかもしれません。「青」というのも、鬼邪高カラーで良い。
村山さんは、周りの人間がこの人を応援したい、ついて行きたいと思う、そんなリーダーでした。佐智雄のようにリーダーとしての責任について日々思い悩む人ではありませんが、楓士雄にとって目標となりうる存在です。村山さんは圧倒的に強いので、たいていのことは一人でなんとかできるのだと思いますが「みんなでテッペンの景色を見たい」と考えるようになったことで生き方が変わった人なので、自分を慕ってくれる鬼邪高の仲間たちを受け入れて一緒にケンカをしています。飄々として掴みどころがないようでいて、絆を大切にしているところが村山さんの魅力だなと感じます。そして「みんなでテッペンの景色を見る」ということは、鬼邪高の在り方として楓士雄たちに引き継がれているのがエモいですね。そして村山さんがいなくなったとたん他校がわっと攻めてきているので、村山さんはやはりすごかったんだなということを改めて感じました。
ザワでの村山さんの物語は、村山さんが仕事を通して鬼邪高やケンカの外側の世界に関わることによって進行していきます。また団地のみんなの物語では、拳で解決しようのないお金の問題がアラタを苦しめています。これもまた、ケンカの外側の世界の話です。一人で問題を抱え込んでいたアラタを救ったのは、楓士雄の正論や拳ではなく、アラタの頼る先になったオロチ兄弟でした。またみんながそれぞれのやり方で懸命に戦って生きているということを語ったのは、ケンカではなく果てしなく競争社会を生きていくであろうセイジです。このようにザワではケンカの外側の世界というものが物語において重要な要素であり、大人についても九龍の人間のような弱者を踏み躙る力を持った者だけでなく、子どもを助けたり導いたりする者もいるのだということが語られていたことが印象的だったなと思います。
これに対してザワXは、徹底的にケンカの世界、内側にフォーカスした物語のように感じられました。ケンカとは何か。なんのために戦うのか。そういったことを描いた物語です。そこには大人の介入というものはありませんし、全てが戦いを通して進行していきます。とにかく大勢が派手に戦うお祭り的な作品としての素晴らしさもありますが、今回もやはり物語がとても魅力的でした。さらにアクションシーン、台詞回しなどもザワ以前のハイローシリーズを思い出させる要素がいくつもあり、そういった意味で原点回帰的な意識もあるのかなと思います。シリーズを通して描いたさてきたことを、ザワXではどう語っているのか考える面白さがあります。

・楓士雄の葛藤と成長

ザワXでは、楓士雄のお手本となる人間として新たに鈴蘭のラオウが登場します。ラオウは鳳仙の佐智雄から見ても「喧嘩の強さでも、人間としても敵わない存在」でした。ラオウの強さに興味を持った楓士雄は一人で鈴蘭に赴き、ラオウとケンカをしてみたいと申し出ます。初めのうちは強いやつとケンカしたい気持ちで行動しているわけですが、ラオウが守るべきもののために戦い、常に強くあろうとしていることを知り、楓士雄はラオウと友達になることにしました。このとんでもないけれど楓士雄らしい行動は物語が展開することでさらに意味のあるものになっています。
楓士雄の周りにはたくさんの仲間がいますが、楓士雄を信じ、支えるだけでなく時には厳しい意見をぶつけることもあります。今作で司は楓士雄しだいで自分達が負けるということをきちんと考えるべきだと楓士雄に告げます。轟くんも楓士雄に「ちゃんと考えろ」と言っています。ケンカを楽しみ、あまり深刻に考える様子のない楓士雄は「俺なら勝てるから大丈夫大丈夫」という調子のため、司や轟くんは「鬼邪高のリーダーとして相応しい行動をしろ」ということを真剣に伝えます。楓士雄のため、自分達みんなのためを思うからこそ、そこには怒りがありました。
鬼邪高が圧倒的に不利な状況の中で楓士雄は自分にリーダーが務まるのかということを考え始めます。もしもみんなを導くリーダーが自分じゃなかったら。佐智雄がリーダーなら、司がリーダーなら、こんなことにはならなかったんじゃないか。そういう、前作以上の無力感であったり、挫折を感じる楓士雄が描かれています。司や轟くんのように状況を分析して慎重に行動することや、優先順位の低いものを切り捨てるということはやろうと思っても楓士雄にはできません。そのため、楓士雄は2人の言うように真剣に考え、「強いやつを倒してテッペンを目指す」やり方を貫きつつ、仲間に力を貸してもらうことを選択します。そして楓士雄の頼みに応じて鳳仙、鈴蘭の面々が加勢してくれます。リーダーとしてはやはりまだまだなのですが、してもらったことに対してお礼を言ったり、他人の優れたところを認めることのできる素直さが楓士雄の良いところなのだなと改めて思いました。完璧ではないけれど愛される主人公です。

・ケンカとは。テッペンとは。

鬼邪高は楓士雄を中心に団結しており、みんなでテッペンの景色を見ることを考えてケンカをしています。たとえケンカで負けても「今は相手の方が強い。けれど次は自分が勝つ!」と言う気持ちで何度でも拳でケンカを挑んでいきます。これは鳳仙や鈴蘭にも共通する考え方です。
対して天下井は自分1人の目的のために鬼邪高を潰そうとしていますし、鎌坂の氷室たちにとってケンカは拳と拳のぶつかり合いではなく「勝てるならどんな手を使ってもいい」というものです。例外的に鮫岡と風神、雷神のいるバラ商は轟くんと戦って勝ちたい風神と雷神に鮫岡が付き合っているような形なので途中で連合から抜けてしまいます。氷室とガンジーも気が合っている(こう表現するにはあまりにも嫌な共通点ですが)のか仲が良さそうですが、バラ商の3人は中学からの友達のような雰囲気があってなんだか可愛いです。鮫岡のこと「サメ」って呼んでるし……。鮫岡は轟くんとの勝負の結果次第で連合を抜けることなど、どうせ付き合って参加しただけだから大したことではないといった風ですが、風神と雷神の方は少し気にしているというのが鮫岡に付き合ってもらったのにと考えているようで良いです。鮫岡は天下井に従っている須嵜に声をかけたり、轟くんに前とは変わったと言ったりしているので、なんだかんだ周りをよく見ている優しいやつなのではないかと思います。この辺りスピンオフがあれば掘り下げが欲しい。
今作でもテッペンやそこから見る景色がキーワードとなっていますが、天下井にとって上か下かの問題はそのまま勝者となるか敗者となるかという話に直結しています。彼は天下井グループの御曹司であり、他人からその肩書きによって評価される経験をしてきた人間だと思われるのでケンカに関する考えが楓士雄たちとは全然違う。楓士雄たちの場合、強さというものをケンカによって知り、お互いに認め合ったりということをしていて、ケンカをする=敵対や支配とはならない。天下井の場合はそもそもケンカの場にお金やら自分の社会的な立場やらを持ち込んでいたり、勝った者が絶対で、敗者には服従しかないというようなやり方をしています。先述したようにこの考え方は天下井の置かれていた状況から生じたもので、常に他人を支配できる位置にいることで他人に傷つけられることを避けるものであったり、他人への怒りや失望のあらわれのようでもあるような気がします。ただ、ケンカのシンプルな構造にそういう外の世界のことをあれこれ重ね合わせてしまうことでかえって不自由で、辛い状況になっているのが切ない……。他人への不信を曲げないことで、実際には存在している様々な可能性を自ら潰しているような感じです。天下井役の三山凌輝さんが今作において鬼邪高に対抗するという意味で天下井は悪役だけれど、それぞれに考えや正義があるのだから、天下井が完全な悪ではないということを語っており本当にその通りだなと思いました。鬼邪高のみんなとはまた違う環境で過ごしてきたことで、異なる考えを持つに至ったという過程がきちんと描かれているので、ザワ Xは鬼邪高の物語でありながら同時に天下井や須嵜の物語でもあるのだと思います。

・仲間に向き合うということ

アクションと同じくハイローシリーズで素晴らしいのは、登場人物たちの熱い気持ちのぶつかりあい、絆の物語という要素だと思います。
楓士雄と天下井の周囲の人間に対する考え方が違うことは明らかで、仲間(天下井にとっては「駒」)との関わり方も全く違う形で描かれているのが興味深いです。
今作では「ここにいるだけが仲間じゃねぇだろ」という言葉が出てきます。こうして楓士雄たちは鳳仙や鈴蘭の助けを受けて瀬ノ門に乗り込んで行くわけです。「一緒にいるだけが仲間じゃない」は過去にザムで登場した台詞でとても印象的です。これの示すものは、離れていても仲間のことを想うことはできるということだったり、ただつるんでいるだけじゃなく仲間のために何かをすることが大切といったことだと思います。事実、鬼邪高のみんなと司は離れていてもお互いに考えをよく理解しあっています。リーダーとして未熟な楓士雄に対し、みんなが時に厳しい言葉を告げる場面では、相手を思うからこそぶつかり合うことになるかもしれないとしてもきちんと向き合わないといけないという考えが見て取れました。
一方で、三校連合はいわゆる寄せ集めであり、須嵜は天下井を大切に思っていますが「一緒にいるだけの仲間」という在り方を続けているようです。須嵜は再会した天下井が昔とは変わってしまったことに戸惑い、友達として接したいと思いながらも天下井を咎めることを一切しません。どれほど屈辱的な扱いを受けてもただ傍についていきます。これを続けていても天下井が自然と元のように戻っていくことはないので結果としては良くない接し方になるのかもしれませんが、これもまた仲間への優しさなのではないかと思いました。そもそも須嵜は天下井よりも明らかに強いので一発ビンタをくれるくらいは簡単にできるはずですが、とにかく絶対に天下井のことを否定しない。須嵜は天下井に対して自分も駒なのかと問いかける場面で、天下井に対して怒っていたのではなく、冗談でも本気でも駒として語られたことを悲しんでいるようでした。昔は友達だったのにどうして、だとか、自分は大切に思っているのになぜ信じてくれないのかと問い詰めたりせずに「仲間でも良いのかなと思って」と、自分は昔と変わらず天下井のことを友達だと思っていることを伝えています。須嵜、ずっと健気。天下井はというと損得関係なしの人間関係を完全に否定し、信用すれば裏切られるということを苛立ちながら須嵜に話します。自分の周りの人間は金目当てで集まってきているだけでお前もどうせ同じだ、と。この場面で天下井は自分の心を守るために、他人に期待しないようになり、傷つかないために周りを見下したり、お金で支配する形で割り切るようにしたのだなということが見えてきます。
ケンカ的な意味でさほど強くないというのもそうですが、天下井というのは人間的な弱さをかなりはっきり見せていてそこが魅力的な登場人物です。他人に対して怒りを向け、信用しないと言い切りますが、ものすごく他人の目を気にしている。自分一人で全部なんとかするだとか、他人なんて役に立ちさえすればそれでいいと本気で思うことができない人間です。だからこそ、司から「あんたを攫っても誰も助けに来ないだろうなと思って」と言われた時に、あれだけ激しく怒ったのではないかと思います。誰からも愛されないということを天下井は恐れている。他人がただの駒でどうでも良いのだとしたら、自分が攫われるという前提を否定するだとか、そもそも司の挑発を無視することだってできそうなので。
他人なんてそんなもの、と言い切ることによって天下井は須嵜の気持ちまで否定しているのが残酷です。須嵜はこれを一瞬否定しようとしますが、最終的には口を閉ざします。他人を信じられない天下井の怒りや辛さを理解し、ただ受け入れている。ただ、天下井が「お前もどうせ同じ」というようなことを言うところ、須嵜の目を見て言っていないんですよね。どこか遠くを見ながら、自分の正しさを自分に言い聞かせるように語っている。それがある種の救いなのかなと思います。
鬼邪高の面々と違い、終盤になるまで天下井と須嵜は会話らしい会話をしません。天下井が何か命令し、須嵜がそれに黙って従うという感じです。瀬ノ門に来る前の須嵜を知る鮫岡はこれに違和感を感じ、なにか事情があるのではと考えますが須嵜はこれを「詮索するな」と拒絶します。司もはじめのうち、なぜ須嵜が天下井について行くのか理解できないようでした。本編で須嵜の父親の件で金銭的な借りがあるという状況が示されるので、「天下井が須嵜の弱みを握っていて、須嵜は逆らえない」という可能性が見えてきますが、「須嵜は昔交わした約束を信じて天下井について行っている」というのが2人の歪な関係の真実でした。子どもの頃、天下井は須嵜をいじめた相手を倒したことがありました。友達だからそうしたのだと答える天下井に対し、須嵜は「強くなって公ちゃんを守る」と言います。そして2人はいつか一緒にテッペンからの景色を見ることを約束したのでした。この約束のために須嵜は天下井にとって邪魔になるものを倒し続けます。2人がもはや友達呼べる関係でなくなってしまっていても、天下井から駒と呼ばれようとも、圧倒的に不利な状況に立たされようとも須嵜は天下井を守ろうとしました。三校連合が崩壊し、天下井自身が諦めてしまったというのに須嵜は天下井のために楓士雄を倒そうとします。この場面で意地になって勝ちを掴もうとする須嵜を見る天下井の心に変化が生じますが、長い時間をかけて大きく捻れてしまった心がすっと元通りになることはありませんでした。天下井は負けを拒むあまり、楓士雄をナイフで刺すという暴挙にでます。これを自分を犠牲にして食い止める須嵜。楓士雄に負けたことを認めながらも、ここで初めて天下井に向けて自分の気持ちをしっかりと伝えます。須嵜は2人で一番上からの景色を見るという約束を信じて自分は天下井について来たと言いますが、その約束について「どうせ、覚えてないですよね」と続けます。自然と涙が出てしまう場面。須嵜にとってこの約束はとても大切なものでした。このために彼はいろいろな理不尽に耐えてきた。そこには、天下井もこのことを覚えていてくれているかもしれないという期待があったのではないかと思います。それを、あの約束は天下井にとってはどうでもいいことだったんだと認めるようなことを言う。そして、倒れてしまう前に天下井の前で跪き「すみません、お役に立てずに」と告げている。友達ではなく、天下井に使われ「しっかり働く」ことを求められていた須嵜亮として話しているように思えました。天下井や須嵜にとって、ケンカで負けた相手は自由を失い駒になるしかない存在です。そこにやり直しはきかない。2人でテッペンからの景色を見るという夢を捨てなくてはならないから、そんな風に天下井に謝ったのではないかと感じました。静かに全てを諦めている。それにしても、須嵜の愛が大きすぎる。これほど何も報われなくともひたすらに約束と天下井自身のことを信じる。そして、天下井を責めるどころか自分が負けてしまったことで夢が潰えたことを謝る。繰り返し、天下井の気持ちを受け入れて赦す。もうアガペーかと。これがGUNSLINGER GIRLとかだったら、約束を覚えてない時点で心中とかになってしまうでしょ(?)返せないレベルの莫大な感情すぎて、胸が痛いです。
瀬ノ門の2人にとってケンカが今後の運命を絶対的に固定してしまうものだとしても、楓士雄にとってケンカはそんなものではありません。楓士雄がそれを教えてくれたから、須嵜は天下井ともう一度やり直すという希望を見出すことができました。ここで「友達になってくれねぇかな」という台詞があり、これに対する天下井の「くだらねぇよ」という返しは一瞬拒絶のようにとらえられます。しかしながらその後に「俺と亮」で鬼邪高を倒すという宣言が続くことでそれが打ち消されるという。天下井は捻くれてしまっているのでやはり楓士雄の言葉一つでこれからみんなを信用するようになるというわけではないと思います。それでも須嵜が自分のことを大切に思ってくれていることを不器用ながら受け入れた。「くだらない」という言葉には、こんな目に遭ってもなお自分を信じてくれる須嵜に対する戸惑いを感じたとか、それほど友達として信頼してくれているのに須嵜が「友達になって」と頼むことに対して今更だと思ったとか、単に素直になれない部分だとか、いろいろなものが集約されているようでした。涙する須嵜の顎を捕まえて、ばつが悪そうに「泣くんじゃねぇよ」とか言ってるところも素直じゃない感じが出ていて良かったです。これからもツンデレしてそうな天下井公平。
みんなが揃って「須嵜はなんであんなやつのために」という見方なのに対し、楓士雄の親友である司は、須嵜にとっての天下井は最低なだけの存在ではないということをよく理解しているのもエモいです。司も楓士雄がいなかったザワ 0の時に抜け殻のようになっていたので、親友を想う気持ちの強さに共感できるのかもしれない。司が天下井を倒そうとした理由には、天下井が須嵜に対してああいう態度だからというのもあったのではと思います。須嵜は天下井があのように考える理由を分かっているから何も言えずにいたわけですが、そこで楓士雄や司が代わりに怒ったり、天下井のやり方を否定し、それによって須嵜から本当の気持ちが引き出されたためそれが天下井を変えることになったというのが素晴らしかったです。瀬ノ門のシーン、主に切なさでずっと泣きながら観てた……。

・瀬ノ門を細かく見ていく

試写会で瀬ノ門のことで頭がいっぱいになってしまったので、2回目はさらに注意して見てみました。
須嵜は寡黙な男なので、表情の描写が多いのですがその全部が最高。冒頭の空を見上げる場面、最初は上に天下井がいるので瀬ノ門の主従の関係を示しているようにも見えるのですが、最後まで見ると空を見上げることが、子どもの頃の約束の反復だと分かってくる。ここの場面の終わり、須嵜は天下井のすぐ後ろをついて行かない。ただ一人取り残されて空を見上げる。この時点で2人の夢が歪んでいってることがなんとなく伝わります。それから、三校連合で集まってる時に天下井が黙って俺についてこれば最高の景色を見せてやるから、というようなことを何気なく言っている場面で苦しそうな表情をする須嵜。2人で見るはずの景色。そこに簡単に他人の介入を許してしまう天下井。シダケンに協力を拒まれた場面の後では鮫岡が須嵜を気にかけているけれど、ここも須嵜が助けを求められずに平気なふりをしていると思わせてからの天下井との関係に口出しされるのを拒むという場面だったことが後から分かってくるのでなかなか厄介。このあたりで須嵜もまた、他人に心を許すのが苦手な人間なのかなという感じがしてきますね。そもそも小さな頃はいじめられてしまうような子だったし、ナミ高でも一匹狼を通していた。敬語で話しかけていない時の口調も穏やかなので、「公ちゃんを守る」という約束がなかったらケンカもしないのかもしれない。ただ、楓士雄より格上と思われる轟くんと小田島2人相手にしてわたりあえるくらい強いっていう……。楓士雄はけっこうトリッキーな戦い方をするし、かわして回り込んだりとかも上手いのにそれをさせないような戦い方ができるし。
天下井が司を鉄パイプで殴っている時に、本気でショックを受けているような顔をしているのがすごく良いです。それまでは天下井の言うことに違和感を感じて戸惑っているという感じだけれど、ここでは恐れのようなものも見えたり。
須嵜は本心から天下井のことを信じて、友達でいようとしているけれど父親の件というもう一つの事実がそこに重なることで状況がややこしくなっているイメージ。確かに金銭面で助けられているところもあり、父親から天下井に尽くすように言われてああいう態度で接しているところもあると思うので。そうなってくるとやっぱりお金のことがあるから成り立っている関係なのではないかという疑念はどうしても出てきてしまう。
三山凌輝くんがいくつかのインタビューで天下井は須嵜には他の人に対するのとは違う態度で接しているところがあると語っていたので、そのあたりも意識して見てみました。
まずはほとんどいつも須嵜を傍に置いているところ。サボテンには三校連合のあれこれを押し付けているけれど、須嵜とは一緒に行動している。癇癪を起こしやすいわりに、イライラする場面があるとはいえ須嵜に掴みかかったりはしないし、自分のためにしっかり働けよと声をかけたりしている。それらの行動を見ていると無意識に須嵜は絶対に自分に従うと信じている部分があったり、そういう態度を取っても理解してくれるだろうみたいな甘えがあるのかなというようなことが感じられます。それから瀬ノ門に初めてやってきた場面で天下井に会った須嵜は嬉しそうな様子で少しだけ微笑むのだけど、天下井も車の中の会話シーンで須嵜が瀬ノ門に入ったことをきいた時に顔を須嵜の父親の方に向けて関心を示しているので、やはり他の人とは異なる存在として見ているのだろうなという感じがしました。この直前の場面では「馬鹿にしてんのか」などと怒っていたのに、機嫌が直っている。また瀬ノ門で再会して須嵜は天下井の変化を知るので、須嵜とずっと一緒だったら何か違っていたんだろうかと考えさせられる場面でもありました。
須嵜は子どもの頃に天下井が渡してくれた缶ジュースを瀬ノ門でも飲んでいて、天下井にも同じものを買って渡している様子なのが切ない。須嵜はこれによって昔の大切な記憶を繰り返すのだろうけれど、特に気にする様子のない天下井が何を考えているのかはわからないという。前作の学ランとか、お守りもそうだけれどハイローはこういうアイテムの使い方が上手すぎる。
車で帰っていく場面の反復描写も巧みで、これによって会話をしない天下井と須嵜の関係とその間にある隔たりが見えます。それがラストで変化する。天下井が須嵜を手招きして隣に座らせています。2回目に観た時に、試写会で観た時の記憶の50億倍くらい2人が笑顔だったのでわりと本気で衝撃を受けた。須嵜のおっさん、急に坊ちゃんと倅がめちゃくちゃ仲良くなっててびっくりしてないかな。
話し方だけでなく、名前の呼び方が「天下井さん」から「公ちゃん」、「須嵜」から「亮」に変化するところ、ベタですが私はこういうのに弱い。天下井が須嵜のことを亮って呼ぶのはまぁ分かるのですが、あの素直じゃなくてプライドの高い感じが続いてるとするとあの後他の人がいる前でも公ちゃん呼びしていいことになってるのかな、などと余計なことを考えたりしました。とにかく2人がまた友達に戻れて良かったです。陸さんのソロ曲かかるタイマンのところで、歌詞が瀬ノ門すぎてしんどくなる。

●メモ

・個人的に好きなシーン

アクションシーンはあげたらキリがないのでそれ以外で。
釣り友になった小田島と轟くん。そもそも頭を使うタイプの2人の気が合うのは納得がいくし、ただ並んで釣りして特に喋るわけでもないのが気楽で良いという理由で友達をしているのも好きです。轟くんはそもそも人とつるまず、強さでねじ伏せるタイプの人間でしたが楓士雄との出会いをきっかけにザワになってからはいろいろと変化する部分の多かったキャラクターです。この変化については賛否両論あると思いますが、轟くんらしさを残しながらその変化が丁寧に描かれているので私は良いなと思いました。鬼邪高で大切なのは強さだけではないということをザワで村山さんが伝えてくれており、そこには轟くんに対する心配のようなものも見て取れました。楓士雄と関わることで、仲間を持つことの意味や仲間がいることで感じられることを知る轟くん。やはり似たタイプの司と親しくしていたり、その接し方が楓士雄たちのようでなくあっさりしているところは彼らしいですし、辻と芝マンの言う通りいつも一緒にいるわけではなく、一人で過ごす時間も多そうなのがこれまでの轟くんという感じで自然に受け入れられました。
ヤスキヨの場面は壱馬くんのお気に入りでした。ここだけゾンビ映画並みの壮大さ。その後病院から連絡を受けたヤスシ、電話の相手がキヨシだと分かったとたんものすごく嬉しそうにしていて可愛いです。本当に仲良し。キヨシに大声でツッコミ入れつつも2人は常に一緒に行動しているようなイメージです。
シダケンの出番、今回は少なめでしたがラオウに会いに行った楓士雄の話をきいて楽しそうにしたり、サボテンたちに絡まれても予想がついていたというようにヘラヘラしたりしていたのでやはりこの人はケンカが好きなんだというのが伝わってきて良かった。あとはお母さんとの電話でたじたじになりながら帰る約束していて和みました。小田島はシダケンと幼馴染なので、ふだん2人はそこまでくっついているわけではないけれどきっちり敵討ちしているところもアツい。
ビンゾーが明るくて楽しい感じのケンカ好きで可愛い。楓士雄にくすぐられて普通に笑っているところや、ラオウ、楓士雄、佐智雄のグータッチに勝手に参加してニコニコしながら帰っていく場面が面白かったです。板垣瑞生ちゃんの愛嬌◎。
瀬ノ門のシーンは基本しんみり観ているのですが、三校連合の集まりで騒がしくなったところを須嵜が「おい!」とデカい声で一喝して黙らせるところとはなんだか笑ってしまう。天下井が合図してるのは分かってたけどそうやって黙らせるんだっていう。
前作で脚立とか何かを盾にする場面がすごい好きだったので今回もこの2つが出てきてくれてテンションがあがりました。それにしても学校とは思えない外観で冷静に考えると面白い。
ラストでなんやかんやみんな楽しく過ごしている様子が描かれるのはハイローの良いところだなと思います。瀬ノ門も鎌坂もバラ商もスピンオフドラマなりまた映画なりでもっと掘り下げてもらえたら嬉しいです。


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