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スカンジナヴィア・デザインを追う(5) ミュールマキ教会、テンペリアウキオ教会、ヌークシオ (Stockholm, 2016.9)

Day1(Thu.) Tokyo(NRT)→Helsinki Airport→Stockholm
Day2(Fri.) Stockholm
Day3(Sat.) Stockholm
Day4(Sun.) Stockholm→Helsinki
■Day5(Mon.) Helsinki(本記事)
Day6(Tue.) Helsinki
Day7(Wed.) Helsinki→
Day8(Thu.) Tokyo
この旅の動画はこちらからご覧ください。

ヌークシオ国立公園

薄曇りの朝。フィンランドの大自然 - 森と湖 - を味わくべく、ヌークシオ国立公園に向かう。なぜこの国立公園にしたのかというと、「かもめ食堂」に登場していたからだ。(もたいまさこ最高である)

ヌークシオ国立公園へのルートについては色んな人がブログに書いてくれているので省略するが、我々はホテルから電車でOopperaという駅までいき、そこから2 本のバスを乗り継いでHaukkalammentie(ハウカラメンティー)停留所で下車した。バスの乗継はGlomsというEspoo(エスポー)近郊だったのだが、あまりにも何もない場所で停留所もどこかわからず、非常に不安になった。きちんと見つかって、そしてバスが来てよかった。ちなみにEspooという文字をみたときは、ここが!!GPSフィンランド杯の開催地か!!と一人で興奮した。
1時間30分ほどかけて到着した停留所から徒歩20分ほどで公園入り口に到着した。

バス停を降りたところ。乗客は我々だけだった。寂しい。

曇り空なのが残念だが、空気が澄んでいる。水面に映る影のほうが実像よりも鮮明である。

フィンランドには「自然享受権(Everyman’s Right)」という考え方があり、自然環境に危害を与えないという前提で、誰でも自由に森の中でベリーやキノコや花を採っていいし、キャンプもしていいという「権利」が認められている。
もしきのこやベリーがあれば・・と思っていたのだが、ベリーはすっかり刈り取られていたし(どうやら8月下旬〜9月頭がピークらしい)、キノコも発見できなかった。

公園を出てバスに乗り込む。時間が惜しいので、電車に乗り換えるEsbo Centrum駅(エスポー駅)内のコンビニのようなところで購入したパンをランチがわりにする。

ミュールマキ教会

Louhela駅で下車すると、目の前に教会が見える。

ミュールマキ教会は、フィンランドの旅で最も行ってみたかった場所だ。

この教会は、著名な建築家であり音楽家でもあるユハ・レイヴィスカ(現在御年84歳)氏の設計により1984年にオープンしたものだ。

彼はアルヴァ・アアルトの後継者とも言われており、現代フィンランドを代表する建築家の1人。「光と音楽の建築家」とも言われているそうだ。

ユハがこの教会の設計案を書いた時につけたタイトルは「陽光」。日照時間が短いフィンランドにおいて、太陽の光はとても貴重なもの。その光を最大限に慈しみ、味わうための設計がされていることを肌で感じることができる場所だった。

天窓と壁のスリットからは、自然光が差し込む。

我々が訪れたのは昼頃だったが、他に見学者はいなかった。見学していることに気づいた教会の方が出てきて、その場で照明をつけてくださった。その瞬間の息を呑むような美しさ・・。神秘的な時間だった。今でもありありと思い出すことができる。

個人的に、この教会で最も美しいと感じたのは天井から吊り下げられたペンダントライトの配置だ。

このペンダントライトそのものもユハがデザインしたものだという。何層にもかさなったシェードから漏れる光。そして、その無数の光が完璧な配置で吊り下げられている。まるで空間全体を心地よい音楽で満たすような印象だ。

下調べが十分ではなく、訪問当時はユハが音楽家であることを知らなかったのだが、後日そうだと知って納得した。この教会を設計したとき、ユハの頭の中には陽光と陰、そして照明の光とが奏でる美しい“音楽”が鳴り響いていたのだろう。

祭壇を囲うようにして吊り下げられた印象的な布(タペストリー?)は、テキスタイルデザイナーのクリスティーナ・ニュルヒネンという人の作品だそうだ。淡いグレイッシュなカラー4色が用いられており、柄はボーダーのみとシンプル。真っ白で清廉な雰囲気の空間を静かに彩っている。このタペストリーが、ミュールマキ教会をよりモダンに、現代的に見せているように思えた。

素晴らしい体験だった。我々2人だけで貸切状態で、1時間近く滞在してしまった。

ヘルシンキ中央駅

ミュールマキ教会からヘルシンキ中央駅へ戻ってきた。

この駅はフィンランド産の花崗岩で造られているそうだ。1860年から存在する歴史のある駅だが、現在の駅舎は1919年に完成したらしい。

駅舎内は天井も高く、広々としている。このロビーには柔らかな光が差し込み、光と影のコントラストが大変美しい。

フィンランディアホール

続いて、中央駅からほど近いフィンランディアホールへ。この旅初めてのアアルト建築!高まる胸を押さえようとするものの、気づけば早歩きになっている。

フィンランディアホールは、フィンランドを代表する建築家であり建築界の巨匠でもあるアルヴァ・アアルトの代表作の一つだ。アアルトの死の4年前である1972年に完成し、こけら落しではシベリウスの"フィンランディア"が演奏されたという。

コンサートホール兼会議場として設計されたもので、外壁はイタリア産の大理石、内部の壁タイルの一部はアラビア社製。

照明や椅子をはじめとして、アアルトらしさ全開の空間である。

アアルトの壮年期と晩年のポートレートが飾られていた。

ホールを出て、岩の教会をめざす。

クリスマスシーズンでもないのにこんな品物が売られている。大変可愛い。

紅葉が見事だ。

テンペリアウキオ教会(岩の教会)

フィンランディアホールから徒歩10分強、教会の入り口が近づいてきた。

入り口に迷い、人の流れを観察しながらしばらくうろうろした後にようやく発見する。

中に入ると岩盤に反響した教会音楽が鳴り響いている。パイプオルガンの生演奏ではなく、録音されたものを流しているようだ。

1969年に完成したこの教会は、大きな岩をくりぬいた中に造られている。上部側面からはガラス越しに自然光が差し込んでいた。

見学客はひっきりなしに訪れる。しかし、その岩をくりぬいたかのような独特の造形と、天然の優れた音響設定のおかげか、静けさと荘厳さは保たれている。

椅子に使われている紫色のファブリックが印象的だ。

カンピ礼拝堂

岩の教会を出て徒歩10分程度。ヘルシンキ中央駅からほど近い場所にある、木造のまあるいモニュメントのようなもの。それがカンピ礼拝堂だ。

2012年、ヘルシンキがワールド・デザイン・キャピタルに選ばれたことを記念して建てられたこの礼拝堂は、「静寂の教会」とも呼ばれている。都会の喧騒の中で誰もが静寂を享受できるように、というコンセプトで作られたそう。

外部の壁は、もみの木を何層にも重ね、曲げて作られている。高さは11.5メートル。

中にはいると木の香りが充満している。差し込む自然光はあたかも森に射し込む木漏れ日のようで、優しい空間だ。外観の第一印象は「巨大なお弁当箱(曲げわっぱ)」というロマンのかけらもないものだったが、中に入った後は、これはどちらかというともみの木で作られた繭なのではないか・・という印象に変わった。

石を模したようなクッションがあった。低反発で「人をダメにする」タイプのやつだ。おそらく、自然に存在する形状を追求した結果、こうしたデザインのクッションを作って置くことになったのだろう。

実は、本来静寂であるはずのこの場所だが、カンピ礼拝堂が建つナリンッカ広場でアフリカ系の男性2人が一心不乱に太鼓を叩いて音楽を奏でていたため、礼拝堂内においてもかすかに陽気なアフリカの民族音楽が聞こえてきていたのだった・・。

中心街を散策し、郵便局でムーミングッズを購入する。