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東京オリンピック ボランティアドライバー体験記42

レスリング男子決勝で、日本選手が無事金メダルを獲得したことを控室のテレビで確認すると、私は早めに車に戻ることにした。予告されていた時刻まではあと1時間近くあるが、これまで予告より早くステークホルダーが戻ってきたことが何度もあったからだ。ましてや今回は、相方は8時過ぎに待ち合わせなのだ。早めに戻っておくに越したことはない。

そしたらちょうどステークホルダーが車に戻ってきたところで、今電話しようと思っていたところだったんだ、と言われる。私は得意げな顔をして車を開ける。女性のほうのステークホルダーが、化粧室を使いたいと言って、もう一度ホテルに戻っている間、私は男性と2人で車内で待っていた。すると他の車両のボランティアドライバーが、雪だるまのキーホルダーを持って近づいてくる。グアム人へのプレゼントだと言うのだ。グアム人はそれを受け取って、代わりに自分の持っていたピンバッジをプレゼントしていた。選手同士など、オリンピックではピンバッジの交換をするという記事を読んだことがあったが、本当なのだな、と私は思った。グアム人は私にも、ピンバッジをプレゼントしてくれた。オリンピックも明日で終わるという段になってようやくピンバッジだ。そうと知っていたら、これまでのステークホルダーにもピンバッジをくれないか、と聞いてみればよかったかもしれない、と私は思った。どういうわけだか、ボランティアに来ているとやたらピンバッジが配られるなあと思っていたのだが、こういう事情もあったのだ。ボランティアに3回来たところで銅色の、5回で銀色のピンバッチをもらった。7回目でフィールドキャストピンバッジを、そして今日は、バッハIOC会長からの感謝の気持ちだというピンバッジをもらった。これらを私がステークホルダーに贈呈し、代わりに彼らのピンバッジをもらえばよかったのかもしれない。

女性ステークホルダーが車に戻った時点で、私は選手村に向けて出発した。帰りは高速を使うルートをナビが案内し、なんだ、高速を使うルートもあるんじゃないか、と私は思った。私は夜間の運転に夢中で見ている余裕はなかったが、私も先ほど見た、五輪色にライトアップされていた東京タワーが、ステークホルダーに見えたらしく、2人が興奮してスマホで撮影していた。それを見た私はなんだか嬉しくなった。また今日は、ナビが案内したのが京橋で降りる方のルートだったので、道中ファミリーマートがあった。男性が女性に、僕の好きなファミリーマート、と呟いていた。それは食料品店か何かなの? と尋ねた女性に対して、コンビニエンスストアだよ、何でもあって便利だよ、とくにスナックが僕のお気に入りなんだ、と答えていた。ネットで、今回のオリンピックで大会関連施設以外に外出できない選手やメディア関係者に、コンビニが大好評だという記事を何度か読んだが、それは本当なのだな、と私は思った。

選手村に到着すると、ステークホルダーと別れる前に、私は折り紙細工を取り出して、彼らにプレゼントした。いかんせん待機時間が長い選手村では、ボランティアたちがせっせと折り鶴やら手裏剣やらをこしらえて、小さなビニール袋にいくつかまとめて外国人用の土産を手作りしていたのだった。前回バルバドス人を乗せた時にそれを持って出たのに、渡すのを忘れてしまったのだ。今日はピンバッジももらったことだし、忘れずに渡したら、喜ばれた。

こうして長い1日が終わった。明日は閉会式だが私は非番だ。テレビで最後の観戦でもして過ごそう。そんなことを考えながら、私は夜の選手村をあとにした。

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