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キンパツは企画を考え、どんなことをしてきたのか

この記事は技術書典4で頒布した"こうして僕らは、書籍を売るアプリを作った 2.0.1"で私が書いた「第4章 キンパツは企画を考え、どんなことをしてきたのか」をnote向けに少し改定したものです。文章はほぼいじってないので、本っぽい表現が多少ありますが、まあそこは...ね!

メルカリは知ってるけど、メルカリ カウルは知らない or 使ったことないって方は、この機会にぜひ一度使ってみて、フィードバックなどいただけると嬉しいです!

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■目次

・ はじめに
・ エンジニアが企画をやり始めた動機
・ 企画の担当範囲
・ 課題発見
・ 企画
・ リリース後の分析
・ 改善・展開
・ 課題発見の重要性
・ [コラム] 企画デビューはゲームソフト対応
・ [コラム] 使ってて楽しい!をメルカリ カウルは追求する
・ おわりに

■ はじめに

こんにちは。キンパツ(https://twitter.com/operandoOS)です。

筆者は現在メルカリ カウルで企画の立案、マネジメントを行う推進役の仕事をしています。元々はAndroidエンジニアとして実装が主な業務でしたが、最近では企画の推進役です。

本章ではAndroidエンジニアだった筆者が半年間、メルカリ カウルで企画の仕事を通して、どんなことをしてきたのかを解説します。企画のすべてを解説することはできませんが、ひとつでも参考になることがあると嬉しいです。

とはいえ、企画という仕事は成功のための定石が存在しないため、本当に大変な仕事だと筆者は思います。ですので、本章は体験談の解説であり、成功体験の説明ではありません。大事なことなのでもう一度説明します。本章は体験談の解説であり、成功体験の説明ではありません

■ エンジニアが企画をやり始めた動機

エンジニアだった筆者がなぜ企画をやり始めたのか、まずは背景から説明します。

筆者がメルカリ カウルのプロダクトチームにJoinしたのは2017年3月です。Joinした一番の理由は、メルカリ カウルはエンタメジャンル専用のフリマアプリであり、本を売ることに力を入れていく点です。筆者は年間100冊くらい本を読む本好きです。とにかく本が好きでいつか何かしらの形で本に関われる仕事がしてみたい!と思っていたこともあり、メルカリ カウルのAndroidエンジニアとしてJoinしました。

参画した当時はメルカリ カウルのアプリはまだ世にリリースされておらず、リリースに向けて絶賛開発中でした。リリースに向けてめっちゃ実装を頑張り、2017年7月にAndroidアプリをリリースできました。

無事アプリがリリースできたので、「これからはアプリにこんな機能があればいいなーってことを一から企画してみたい!」という気持ちが高まりました。誰かに言われたものを作るのではなく、「自身が考えたものを形にしてリリースし、お客さまに使ってもらい喜んでもらえることって最高じゃん!」みたいなことを常日頃から思っていました。エンジニアという肩書きにとらわれず、自然と「よし!企画考えるぞ!実装もするぞ!」という考えになったのです。

■ 企画の担当範囲

メルカリ カウルのプロダクトチームでの企画は、やることを考え、計画を立てて終わりではありません。

本章で言う企画の担当範囲は図1のようになります※1。

図1 企画の担当範囲

「なにこれ!?全部じゃん!」と言いたくなりますが、これ以外にも担当する企画の日々のマネジメントもあります※2。メルカリ カウルのプロダクトチームは全ての職種あわせて10人程度でアプリを開発しています。一人が担当する範囲は必然的に広くなります。自身で企画を考えて実装してリリースし、お客さまに喜んで使っていただけるとそれがやりがいにつながり、もっといいもの作ろう!という原動力になります。

次項以降では、筆者が実際に企画してリリースした"本日発売した商品をみられるようにする"(以降 本日発売した商品一覧機能)という機能を題材に、企画の担当範囲の以下の工程でどんなことをしてきたかを解説します。

・ 課題発見
・ 企画
・ リリース後の分析
・ 改善・展開

解説しない各工程においても工夫すべきことはいくつもありますが、今回は筆者が半年間企画の仕事をとおして、特に得たものが多かった工程をメインに解説します。

ちなみに、本日発売した商品一覧機能は、今日発売した本・漫画・CD・DVD・ゲームがリストで見れます。翌日になれば、その日に発売した商品でリストが更新されます(図2)。

図2 本日発売した商品一覧機能

※1 点線で囲っているものは、状況に応じて企画を考えた本人が担当することもあります。

※2 企画の担当範囲はPM(プロダクトマネージャー)の役割に近いですが、筆者は役割や肩書きに囚われたくない性格なので、呼び方も違いだけかもしれませんが本章ではあえてPMと呼びません。

■ 課題発見

課題は始めからわかっていることもあれば、そうでないこともあります。この工程では、お客さまの課題を見つけ、その課題の重さと大きさを調べ企画に反映します。この課題発見が企画の良し悪しに大きく影響します。

■ 気づいたこと・思いついたことを書き残す

作っているアプリを自分でも日々使いながら、気づいたこと・思いついたことは書き残すようにします。基本中の基本ですが、めっちゃこれ大事です!

書き残すメリットは次のとおりです。

・ 気づいたこと・思いついたことを社内Wikiに書くことで、筆者が考えていることを誰でも見れるようにする
誰でも見られるところの書き残すことで、書いたことに対して意見をもらえる
企画・仕様を考える工程で、課題のコンセプトを振り返れる

本日発売した商品一覧機能の初期コンセプトを振り返ると「発売前の新刊情報見たい!」だったことがわかります(図3)。

図3 本日発売した商品一覧機能の初期コンセプト

また、仕事外の活動ですが、noteで立ち寄った本屋で気づいたこと・感じたこと・気になった本など書き残す本屋日記というマガジンを書いています。これもいつか仕事に役立てられればいいなーと思い書き残してます。

■ Twitterのキーワード検索を使う

Twitterのキーワード検索を使い、何か困ってること、不便に感じてることをつぶやいてる人達がいるか調べてみます。

例えば「本屋 めんどう」でキーワード検索すると、「本屋行きたいけど面倒!」とか「電車のらないと本屋行けない!」などのつぶやきが見つかります。見つかったつぶやきは、課題の重さと大きさを調べるための参考にします。

常日頃から検索したいキーワードは「検索メモに保存」をして管理しています(図4)。

図4 検索メモに保存と保存したキーワード

■ "お客さまだけでは実現できないこと" + "お客さまの手間を減らす"で考える

お客さまの課題を見つける上で、"お客さまだけでは実現できないこと"と"お客さまの手間を減らす"、筆者はこの2つが実現できる企画を重視して考えています。

本日発売した商品一覧機能の企画がリリースされるまで、メルカリ カウルではどんな商品が今日発売したのかがわかりませんでした。このようにお客さまだけではわからないことを、アプリ内で手間なく実現できたら良さそう!と考えました。

しかし、これは他のサービスを使えばお客さまでも実現できることだったり、"どんな商品が本日発売したのか"という情報自体にそこまでニーズがなかったかもしれないという考慮を忘れていて、後々反省することになります...。

■ 企画

■ 大きすぎる企画は分解する

企画で実現したいことを詳細につめていくと、ときおり企画自体のサイズ感が大きくなってしまいます。そうなってしまった場合、チームメンバーに企画の内容を話し、詳細に、より客観的に考えていることの良し悪しについて検討していきます。

実際に本日発売した商品一覧機能の企画を考える上で、筆者が広げすぎてしまった内容をデザイナーさんと一緒に整理※3しました(図5)。

図5 企画内容を整理した時書いたもの

実現したいことが大きくなりすぎた内容を会話しながら整理していき、本日発売した商品一覧機能の企画を、次のように整理しました。

・ まずは"本日発売した商品がまとめて見られる"ものを優先的に作る
・ 発売日前の商品情報が検索で引っかかるようにするのは別の企画として進める
・ 明日、明後日など、将来発売する予定の商品を確認できる機能は、本日発売した商品一覧機能の反響を見て作るかどうかを検討する

このようにして大きすぎる企画は小さくなるように、別の企画に分解しつつ、やることとやらないことも一緒に整理していきます。

※3 "本日発売した商品をみられるようにする"という企画は、元々は本日発売した商品、さらに明日、明後日、それ以降に発売する商品をまとめて、簡単に見られるようにしたい!という内容でした。

KPIを決める

企画を考える段階で企画のKPI(Key Performance Indicator)も決めます。KPIはリリース後に企画の結果の良し悪しを判断する上で非常に重要です。事前に決めることで、企画をリリースした後に想定していた結果が出せているのかが判断できます。

具体的に何をKPIとして、どのくらいの数値を目標とするのかは、現状のプロダクトが持つ数字を分析した上で決めていきます。また、どのような数字を調べたのかを書き残しておくと、KPIの振り返りの際にどうしてこの目標値だったのかがはっきりします。

本日発売した商品一覧機能の企画で決めた具体的なKPIを書くことはできませんが、"本日発売した商品の一覧から商品詳細を開いたPV数"を重要な指標にしました。

リリース後の分析

企画をリリースしたら、基本的に企画を考えた人が適切なタイミングでリリース後の分析を行います。

メルカリ カウルのアプリではFirebase Analyticsを使用し、お客さまのアプリの使用状況をトラッキングし、それらのデータをBigQueryを使って集計します。BigQueryを使って集計する必要があるため、メルカリ カウルのチームメンバーのほとんどがSQLを書けます。

さらに集計した結果をChartioというサービスを使ってダッシュボードを作り、集計した結果をグラフにして、いつでも誰でも見れるようにします(図6※4)。

図6 本日発売した商品一覧機能のKPIグラフの一部

これらをリリース前またはリリース後すぐに作成することで、いつでも誰でも企画の初速の数字が見れるようになります。

また、企画の数字が気になった人が一々誰かに数字を聞いたり、自分で数字を見るための集計をしたりする手間がなくなります。

企画の数字がいつでも見れる状態が整ったら、企画の分析を行います。分析するタイミングは企画により異なり、リリースされてからどれくらいで作ったものが認知されはじめるかも考慮しつつ、どのタイミングで分析するかを決めます。本日発売した商品一覧機能の企画は、リリースしてから1週間程度経ってから分析を行いました。

分析といっても複雑な集計をする必要はなく、まずは企画を考える際に決めた企画のKPIをどれくらい達成しているかを調べます。その結果を見てさらに気になることがあれば、より詳しく、掘り下げた分析を行っていくことになります。

ちなみに、本日発売した商品一覧機能のKPIの結果は目標とした数字を達成できていませんでした。

そこで、次の一手を考える必要があります。

※4 あくまでグラフのイメージであり、数字は適当な値になってます

■ 改善・展開

企画の結果が良かったとしても、必ず次にすることを考えます。どんなものでも完璧なものはなく、いくらでも改善する余地があることがものづくりの楽しいところですよね!やっていきましょう!

展開はiOSまたはAndroidどちらか一方のアプリに先行して実装した機能を、もう一方のプラットフォームでも実装するかどうかの判断になります。企画の結果が悪い場合には、もう一方のプラットフォームのアプリに展開しない場合もあります。展開するとしても、他にも実装すべき機能はいくつもあるので、どれくらいの優先度で実装すべきなのかも検討します。

本日発売した商品一覧機能の企画はメルカリ カウルのAndroidアプリにだけ先行で実装しリリースした機能になります。

なぜ2つあるプラットフォームのうち、Androidにだけ機能を実装したのかの理由は、次のとおりです※5。

・ 弊プロダクトでは、Androidエンジニアは数が多く、iOSに比べ開発リソースが潤沢である
・ 開発リソースが多いプラットフォームで機能を実装して試し、結果を見てもう一方のプラットフォームにも実装すべきかを検討する ※6

こうして、色んな企画を効率的に行い、ブラッシュアップした上で両プラットフォームのアプリを少ない労力で改善していくことができます。

※5 すべてに企画が常に一方のプラットフォームのアプリにだけ実装されるわけではありません。iOSとAndroidで両方で実装されていないとお客さまが困る機能はもちろん同じタイミングでリリースします。

※6 プラットフォームが違うので同じ機能でもそれぞれで違う結果が出る場合があることも考慮する。

■ 課題発見の重要性

各工程について解説してきたので、題材とした本日発売した商品一覧機能の企画はどんな結果だったのかを振り返ります。

KPIに決めた"本日発売した商品の一覧から商品詳細を開いたPV数"は達成できませんでした。つまり、本日発売した商品一覧機能はお客さまに与えるインパクトは小さかった、ということです。

インパクトが小さかった一番の理由は、課題発見において課題の重さと大きさを意識できていなかったことです。"本日発売した商品の一覧を見たいお客さまはいるけど、多くのお客さまが見たいわけではない"ということです。

そもそも本に関しては、地域によって書店の店頭に本が並ぶ日が異なることがあります※7。東京で暮らしてる筆者とそれ以外の地域に暮らしているお客さまでは、そもそも発売日に対する意識の違いがあると思います。そういった意識の違いも含めて、お客さまの課題の重さと大きさを見極めないといけないわけです。

また、リリース前に気づくべきだったことがありました。それは、日によって発売する商品の数が変動することです。

平日に発売される商品数は多いのですが、土曜日や日曜日に発売される商品数は平日に比べると少ないです。コンシューマゲームソフトが土曜日や日曜日に発売されることはほとんどありません※8。

そうなると、本日発売した商品一覧機能は毎日安定して色んなジャンルの商品を見せることはできません。ですので、毎日見るコンテンツではなくなり、そのうち自然と見なくなることが想定されます。

これらの対策として、前後数日間や明日または来週発売する商品も見れるようにしておくべきだったかもしれません。

他にも客観的な目線で施策の振り返りをしました(図7)。

図7 本日発売した商品一覧機能の振り返り

このようにして、筆者は企画の原点である課題発見の重要性を痛感しました。

※7 この話を説明し始めると、長くなってしまうため割愛しますが興味のある方は調べてみると面白いと思います
※8 コンシューマゲームソフトは木曜日に発売されることが多いです

[コラム] 企画デビューはゲームソフト対応

メルカリ カウルがリリースした当初はエンタメジャンル専用のフリマアプリなのにゲームソフトを扱っていませんでした。

そんなこんなで「キンパツさん、ゲーム好きならばゲームソフト扱えるようにしてYo!」みたいなことをプロダクトオーナーに言われました。「なんだなんだwいきなりだな、マジでwでもゲーム好きだしやるか!」と食いつき、ゲームソフトプロジェクトの推進役となり、企画から実装までなんでもやるぞ!で突き進み、ゲームソフトのバーコードの読み取りで簡単に出品・購入ができるようになりました

ゲームソフトを扱えるようになり、メルカリ カウルを使っている社内の人から「ゲームソフトの対応ありがとう!売るのすごく楽になったよ!」と感謝されて「うむ、企画楽しい!」と味をしめたのです。

ちなみに、キンパツはリリース記念にFINAL FANTASY XVを買いました(`・ω・´) 買って半年くらい経ちますが、まだ1時間くらいしかプレイしてないのはここだけの秘密です...。

[コラム] 使ってて楽しい!をメルカリ カウルは追求する

筆者の主観ではメルカリ カウルのプロダクトチームは、一人一人がすごく面白い個性を持っていて、遊び心があるメンバーばかりです。

そのチームで、アプリを使うお客さまにものを売ったり買ったりする楽しい体験をしてもらうためにどんな企画を考えるかは、いい意味で日々プレッシャーを感じてます。

思い返すと「それじゃ楽しくないよね」、「え?それ何が楽しいの?」、「"わくわく"しないよね」みたいなダメ出しをよくされている気がします...。

"わくわく"という単語が出てくると、「"わくわく"とかちょっと表現が曖昧すぎじゃね?具体的な言葉にしよう!」というやりとりがワンセットですw

■ おわりに

はじめに、で述べたとおり、"企画という仕事は成功のための定石が存在しない"仕事です。多くのお客さまに喜ばれるものを作ったとしても、それは成功と表現するものではありません。でも、定石がない中でも自分なりに工夫し模索することで、永遠と喜ばれるものを作り続けられる楽しさを体感できる仕事であると感じます。

本章で解説した内容は、企画を考え、ものを作り、世に出してさらに改善してく工程のほんの一部です。もし本章を読んで少しでも企画に興味を持った方は、近くにいる企画を考えている人やプロダクトマネージャーがいれば、普段どんなことを考えながらものづくりをしているのか聞いてみてください。

また、筆者のように企画やPMという肩書きや役職がついてない人からも、「私達のプロダクトチームはこうやってお客さまの課題を見つけ、こうやって企画して、リリースして改善してるぜ!」という話が共有できることを期待してます。

サポートしてもらうことで、キンパツは大好物のミスドが食べられます!よろしくお願いします!