【今月のトークテーマ】この手の定番、本当に怖いのは人という話

2カ月続けての駆け込み投稿! 締め切りを守れないゲームライターです。

さて、今月のトークテーマは「好きなホラーゲーム」なのですが、自分はホラーゲームをそれと意図してプレイしたことはほとんどありません。一応プレイ経験はありますが、それは仕事に紐づいたものばかりなんです。

例えば発売よりもだいぶ前に『バイオハザード7』をプレイしましたが、このときの目的は“らしい”スクリーンショットを用意すること。冒頭のホルモンだらけの食事シーンを見て「ここ、いい感じに不快なスクショが撮れそう」とか「不快過ぎてチェックで跳ねられないかな?」とか、恐怖とはおよそかけ離れたことを考えていました。そして同じく冒頭のイーサンが屋敷から脱出を図ろうとするシーンでは、ベイカー邸のなかをどう探索するかよりもスクショを取る際にHDRを適用するかどうかに悩む始末。

……改めて思い起こすと、ひどいなこれ。ともあれ、大体のホラーゲームの思い出は「暗くてスクショが取りにくかった」だったり「急に出てこられてもシャッターチャンスが短すぎて困った」といったものになります。

■『FFXI』はとんでもないホラーゲームだった

そんな自分が一番のホラーな体験をしたゲームと言ったら『FINAL FANTASY XI』になるでしょう。そう、あの『FFXI』です。多くの人には今更の説明になりますが、『FFXI』は現在PCでサービス中のMMORPG。2016年まではPS2でもサービスが行われていたこともあり、それこそゲーマーの必修科目のようにみんな『FFXI』をプレイしていました。

自分も2003年から2008年にかけての約5年、リアルに支障をきたすレベルでヴァナディールに入り浸っていましたよ。MMORPGはおろか、他人とオンライン上で協力するという体験を初めて『FFXI』でした自分にとっては、オンラインゲームでのマナーを語る際によく言われる“画面の向こうには人がいる”という言葉を実感したタイトルでもありますね。

さて、この『FFXI』にはプレイヤー同士のコミュニケーションを補助する“リンクシェル”というものがあります。リンクシェルはいわゆるギルドやクランとほぼ同じもの。同じリンクシェルを装備している人でチャットができる専用のチャンネルが設けられます。もちろん、チャットができるという機能的な面に加えてリンクシェルのメンバーは偶然レベリングの際に同行するプレイヤーとは少し格上の“仲間”になっていくというのもギルドなどと同等です。ちなみに『FFXI』上でリンクシェルという言葉は“同じチャットチャンネルを共有する仲間”という意味と“同じチャットチャンネルを共有する際に装備しておく必要があるアイテム”の2つの意味がありますのでなんとなく文脈で察してください(笑)。

個人的な考えですが、当時の『FFXI』におけるリンクシェルは今のMMORPGのギルド的なものよりも重要性が高かったように思います。というのも今のMMORPGなどの協力プレイを楽しむタイトルには、自動でマッチングする機能が用意されていることが多いんですよ。『FFXIV』なら行きたいコンテンツを登録しておけば、ほかのことをしていても自動でマッチングしますし、『モンスターハンター:ワールド』には以前のシリーズとは異なり、クエスト中の途中参加機能が用意されました。また、今の『FFXI』も1人でも遊びやすいようにNPCを呼ぶシステムが充実しています。

ただ、以前の『FFXI』はそういった自動マッチングなどはほぼなし。多人数向けのコンテンツにはジュノやアルザビといった拠点になる街で参加メンバーを全員集めてから目的地へ向かうのが当たり前でした。そして『FFXI』には多人数であるメリットやそもそも多人数でなければクリアできないコンテンツが盛りだくさん。レベリングひとつとっても1人での狩りと6人パーティでの狩りは経験値効率が段違いでしたね。ストーリーを進めるのも、レベルの上限を解放するのも、レアだったり高額で売れたりする装備が手に入る“BC”というコンテンツも多人数推奨。こういったコンテンツ、なかでもレベルの上限を解放するような手伝う側にメリットの少ないものはリンクシェルに手伝いを頼むのが定番。リンクシェルに所属していないと、いつ集まるかもわからない、しかも集まるかもわからないメンバーを求めて延々と募集を続けるということもありました。

ここからが思い出話。自分はそういったリンクシェルの重要性を友人から聞いていたこともあり偶然出会ったリンクシェルのリーダーからの誘いに乗って、あるリンクシェルに加入しました。

初めてのリンクシェルを身に着けるとリーダーが「新人さんを捕まえました」と報告、続けて自分が「初めまして」と挨拶をする。そこにメンバーのうち何人かが「また、タルタル(『FFXI』の種族の1つ)を捕まえてきて。好きですねw」「リーダー、これでメンバー何人目でしたっけ?」みたいに反応する。まあよくある光景ですよね。

その日は確か、サポートジョブを取得するのになにが足りないとか、ジュノにはまだ行ったことがないとか、自分がどれくらいゲームを進めているかをリーダーに聞かれるまま話したような気がします。ある程度の人数のコミュニティに入っても初日は誘ってきた相手としか話せないというのもMMORPGあるあるです。

このリーダー、面倒見はいいのですが正直今考えると痛かったですね。ほかのメンバーをちゃん付けで呼び、語尾は「〇〇なの」とか「〇〇です~」とか可愛らしさをアピールするものばかり。その可愛さ(?)にメンバーはデレデレというありさまでした。

そんな初めてのリンクシェルに違和感を覚えたのは、加入した翌日。自分が『FFXI』にログインすると、リンクシェルのメンバーはいるもののリーダーは不在。そして前日は盛んだったチャットもお通夜のようで、誰も一言もしゃべらないんです。まあね、全員レベリングの最中だったとかチャットの余裕がないことはあると思うんですよ。ですが、そこにリーダーがログインしたとたん急にリンクシェルの会話は盛んに。メンバー全員丁度手が空いたのかというと、そうではありません。よくよくチャットログを眺めていると、どのやりとりもメンバーがリーダーに向けて話すか、その逆だけ。メンバー同士の会話はいっさいないんです。それから何日かチャットを観察していましたが、やはりメンバー同士のやりとりはなし。このころには漠然とした気持ち悪さから、自分がチャットで発言することはなくなっていました。

そして、決定的な出来事が起きたのはあるBCに関するやりとり。メンバーAが「白魔導士が必要だけど、誰にします?」とリーダーに聞けば「じゃあ、Bちゃんよろしくです~」とリーダーが返す。メンバーCが「開幕の流れは?」と聞けばリーダーが手順を答える。そんななか、最後にリーダーがこう告げたんです。「で、Cちゃんの回のアイテムは私の総取りなの」。少し補足をしておくと、このとき遊ぶ予定だったBCは参加メンバーそれぞれが集めたアイテムを1回ずつ消費する6連戦。『FFXI』を知っている人には印章BCと言えばわかるでしょう。リーダーを含めたほかのメンバーは自分がアイテムを消費した回の報酬を総取りするという形でした。はっきり言えばこのCの扱いは、手伝い以下。ほかのメンバー5人分の戦闘を手伝ったうえに自分もため込んだアイテムを消費して、報酬をリーダーにすべて渡すということになります。Cの返事はなかったのですが、メンバー全員そのルールで納得しているようでした。

ところがBCが無事終わったあと、Cが言ったんです「さすがに行きたいBCが食い違った罰で報酬をすべてリーダーに持っていかれるのはひどすぎる」って。罰。どうやらこのリンクシェルには罰があるようです。そこから少しもめたのですが「あとは直接Tell(ほかのプレイヤーには聞かれない個人間のチャット)で話すから」とリーダーが告げて、その場は一端お開きに。そこから1時間ほどたったでしょうか。リーダーがリンクシェルメンバーに向けて告げました。

「Cちゃん『FFXI』やめることになったから」

リンクシェルを脱退するのではなく、『FFXI』をやめる。Tellでどんな会話がされたのか想像さえできません。それでもメンバーは「リーダーと意見が割れちゃったからしょうがないよね」と当たり前のものとして受け入れる。なにもかもがリーダーの思いのままでなければ許されず、メンバー同士の会話はご法度。自分が初めて参加したリンクシェルはそんなディストピアでした。

自分にとって幸運だったのは違和感を覚えてから発言しなくなった結果、とりあえずいてもいなくても変わらない空気になれていたこと。Cが『FFXI』をやめた翌日、自分は無言でこのリンクシェルを脱退しました。それからしばらくしてまっとうなリンクシェルに加入したり、廃人向けリンクシェルでエンドコンテンツを楽しんだりするのですが、それはまた別のお話。

ただ、当時を振り返ると思うんですよ。ここまで書いてきたとおり自分がこのリンクシェルに参加したときは既にメンバー間の会話がないのが当たり前で、リーダー・・・もういいや、姫ですね。ぶっちゃけ姫です。姫と従者のやりとりだけという異常なコミュニティを形成していました。だからこそ、ためらいもなくリンクシェルを脱退することができたんです。

ですが、この関係が築かれる前にはなんらかの形で姫が下地を作っていたはず。そんな時代にこのリンクシェルに誘われていたら、ネトゲ1年生の自分は異質さに気づけたのでしょうか? 少しずつ異様になっていくなか「昨日とだいたい同じ」「昨日とだいたい同じ」と変化に気づかず、いつしか奴隷兼苗床になっていたのかもしれません。MMORPGはある意味で本当に怖いゲームです。“画面の向こうには人がいる”のですから。

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