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KO-GUの感想1

第一印象としては、瓶が気になった。素人がやってる怪しい香水量り売りサービスみたいにあっさりした見た目で、これ箱捨てたら病院の目薬と間違えるやつじゃんと思った。ところが、実際に店頭で香りを嗅いでみると「いや瓶はこれでいいな」と感じた。簡素なビジュアル面と裏腹に、めちゃくちゃ香りがしっかりしている。このギャップが、無骨な原石を所有しているようでなんかワクワク感がある。

香りがしっかりというのは、例えばハニーやジャスミンなんかは、店頭でトップノートだけ見たら普通に臭い判定されかねないレベル。ゲランやニコライみたいにトップが激重クラシカルなやつに慣れていると「こういう出だしのやつは大体いい」と謎の期待を抱いてしまうが、ナチュラルオーガニックな見た目に惹かれて買う香水ビギナー層はこれで大丈夫なんだろうか……と余計な心配をしてしまう。が、そういう人たちは多分トップノートからめちゃくちゃ綺麗なサクラやオスマンサスから行くだろうから問題ない(何目線?)

しかし香水ガチャでジャスミンを引いた人は、吹きかけた瞬間「何だこれくせえ……」と困惑する人も多そう。30分くらいすると、次第に柔らかく生き生きとした花の香りになってくるので、この展開に抵抗ない人が増えたら、日本の香水界も洗いたてシーツ系とか清楚フローラル以外のものが流行るようになるだろう。社長さんがインタビューで「日本人の嗅覚の理解力の向上を実現したい」と言っていたけれど、取っつきやすいガチャを導入することによって、試したことないタイプの香りも使ってもらうというのはすごいやり方だなと思った。

というのも、香水ガチャ(4ml)の値段が1回1000円なんですよね。買いたい香りを普通に選んで買うと1760円。更に、今はキャンペーン中とのことで2000円で3回ガチャが回せる。このガチャのボランティア的金額設定に、とにかく「自分では絶対選ばないような香りを使ってみなさいよ」というメッセージを感じる。自分では選ばない香りをつけると、苦手でもどうやって使おうか一生懸命考えたりする。使っているうちに展開の面白さに気づいたりする。そうやって、楽しめる香水の幅が広がっていく。これはもう店っていうか教育機関では……?

以下ハニー、カカオ、ジャスミンはガチャで出たもの、サクラ、ラベンダー、マンダリン、モスは単品購入。

ハニー

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小学生の頃、カーチャンがよくこの飴を買ってきた。見た目的に純露みたいな味がするのかな? と期待して頬張ったところ、めちゃくちゃくっせえ~! なんか飼育小屋みたいな匂いがする……「これはもう買ってこないで」とチベスナ顔で頼んだ思い出が蘇った。KO-GUハニーは、このキャンディの香りがする(20年くらい前の話なので、今はもう変わっているかも)。とにかくアニマリックで、ミツバチがさまざまな木々の間を忙しなく飛び回る、雄大な田舎の景色と畑の土を思わせる。

アニマリックなのは最初の20分くらいがピークで、あとは濁りとコクのある落ち着いた甘さが続く。これは単体でも展開が楽しく、馴染んでくるとホッとする香り。

カカオ

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トップは一瞬「お、パンか!?」という謎の発酵臭がある。しかもかなり酸味強めで、さながら非常用のパン缶詰だ。カカオというとトンカビーンみたいな深煎り感のある苦い香りがするのかと思っていたが、そうではないらしい。1プッシュするだけで、部屋全体がパン屋になるくらいしっかり香る。

ところがつけて30分後、パンのホッコリ感はあっさり消え失せ、急に透明感と香ばしさを両立した深い甘みが立ち上ってくる。ほのかに残る酸味が、革装の古書のような気品を添えている。これがカカオの香りなのか……!? グルマンっぽいがチョコレートではなく、深いのに透き通っていて、色あせた19世紀の写真からパイプをくゆらす英国紳士が飛び出してきたかのよう。今回の7本の中で一番いい。ゲランのラールエラに入っていても全然違和感ないと思う(鼻が馬鹿なので適当なこと言ってるなと思って流してください)。モスと合わせると知的な読書家っぽくてオススメ。

ジャスミン

くさいよ~~(歓喜)ジャスミンが好きでもともと単体で買おうと決めていたので、ガチャで出て嬉しい。しかしこんなに臭いとは思わなかった。ニコライのオダリスク(ボディノート:スズラン、ジャスミン、アイリス)が好きで30mlボトルを持っており、これが気温と体調によってはめちゃくちゃおしっこの匂いがするのだが、KO-GUジャスミンがこれの親戚であることはまず間違いない。前置きでも言ったとおり、だんだん洋梨っぽいふくよかな香りになってくるので安心してほしい。甘くないジャスミンというだけでも嬉しいのに、クラシカルでゴージャスで……本当に1760円で大丈夫か? 意外と持続が短い(4時間位?)ので、重ね付け遊びがしやすいと思う。

サクラ

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こちらもカカオ同様、パンっぽいほっこりした発酵臭がある。だが次の瞬間、桃を限りなく薄めて生花の苦味を一滴加えたような、桜独特の繊細な香りがパアッと広がる。うお~~~桜の香りの香水って本当に作れるんだ! 今まで桜香水といえば、石鹸ぽかったり(JMのサクラブロッサム)、アルコールがキンキンして優しくなかったり(ゲランのフローラチェリージア)、そもそも全然違う花の匂い(Diorのサクラ)だったり……(個人の感想です)。もちろん香水である以上、これは一つの世界のイメージであって、桜というモチーフそのものの香りを忠実に再現しているわけではないと分かってはいる。でも桜の香りを嗅ぎたいというこの気持はどうしてくれるん? 本当は技術的に表現できないだけなんじゃないですかあ~??(いや多分ガスクロとか使えば簡単にできるんだと思うけど)そんなアホみたいな疑問に答えてくれるのがKO-GUサクラだ。

桜の花を拾って、濃いピンクのがくをつまんで香りを吸い込むと、桃の産毛を思わせる軽やかな甘さ、川べりの風のような水っぽさ、ジャスミンティーに似た柔らかい苦味がある。少ない語彙で無理やり近似のものに置き換えても、やはり桜の匂いは桜の匂いとしか言いようがない。その香りが間違いなく、この素っ気ない瓶の中にはある。

ラベンダー

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うおっレモン! トップの数秒は、目の前が真っ黄色になるくらいフレッシュな柑橘と、つけたところがスッとするようなミントの存在を少し感じる。やがてレモン色のスモークが晴れ、ステージの奥から颯爽とモデル歩きで現れるのがお待ちかねのラベンダーだ。しかし、おばあちゃんのポプリ袋のような重い渋みは全く無く、クリーム色の薄いベールが掛かった、柔らかいシフォン素材のラベンダーという印象。ラベンダー:レモン:その他のハーブが手を取り合って、1:1:1くらいで優しく香る。

個人的にはもっとラベンダーが強いほうが嬉しいけど、そういう役割のやつは他でもあるし……(香水じゃないけど、ディプティックのハンドソープがキリッとしたラベンダーで好き)

マンダリン

こっくりとした深みのあるマンダリン。ラボラトリオオルファティーボのマンダリーノ(2022年3月現在売り切れ)に似た印象で、甘くてジューシーないいところをギュッと濃縮して誇張した感じ。ジェネリックジャン・クロードエレナ。この香りが1760円で手に入るのはかなりお得。だが、あまり周囲に拡散する感じはなく、つけて1時間もすると肌から10センチくらいのところで大人しくなってしまう。他のベース系の素材と重ねて延命方法を探りたいと思います。

モス

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うおおおお!!!! めちゃくちゃいい香り。急に頭にBAUMの店頭の様子が思い浮かんだ。グリーン系なんだけど、コンクリートの近代建築の中で飼いならされた人工的テラリウムの香り。モスとは書いてあるものの、苔の苦味よりもラベンダーやオークっぽい明るいアロマを感じる。なんかのベース用として買ったけど、これは単品でもつけやすい。

モスがこんな感じなら、次はパチュリとかベチバーとか、今まで苦手だと思ってた草にも挑戦したくなってきた……

感想を書くために同時に4種類とかつけてしまったが、全然うるさくならないのが本当にすごい。メゾン系ファッション系フレグランスは2つつけるだけでも即女子更衣室になってしまうのに……そういった香水によくある、拡散しやすい石鹸っぽい香りが入ってないので、つけた人に寄り添って真面目な香り方をしてくれる印象。全体的に少しハーバルな軽さがあるので、そういう共通した要素が複数の香りをきれいにまとめる役割を果たしているのかもしれない。

普段は1週間位かけて感想を考えるけど、今日はあまりにも感動したので買った当日に急ぎ足で書いてしまいました。次は友達と行って色々話しながら選びたいと思います。

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