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ラボラトリオ・オルファティーボ トラベルセット バイ ジャン・クロード・エレナの感想

クリスマスの表参道。ネットニュースでは「今年はクリスマス盛り上がんねえな~」みたいな記事が出ていたが、街は普通にカップルで溢れていた。最近の若い子はきれいな格好しとるなあ……しかし全身ハイブラで固めていても、副都心線に乗っている時点で埼玉の奥地から出張してきていることがバレバレなのだ。すれ違いざまに誰かのプレゼントのショッパーがガサガサ脇をかすめていく。ガソリンスタンドの洗車機に飛び込んだらきっとこんな感じ。恋愛と贅沢と資本主義を肌で感じながら、表参道ヒルズ目指して一直線に歩いていく。

何故こんな場違いなところに一人で乗り込んできたのかというと、大好きなジョーマローンのイベントがあったからである。イベント情報を見る限り、職人がカリグラフィーで美しくラッピングしてくれる以外は大したイベント要素もない(失礼)のだが、web限定のアーカイブコレクションが試香できるらしいので、またホワイトジャスミンに会いに来た。

スタッフはイベント限定の間に合わせらしく「僕は普段香水つけないので分かんないんですよね…」とか言い出す体たらくだったが、まあ仕方ない。お目当てのホワイトジャスミンは、気温のせいなのか、それとも何ヶ月も店頭の照明にさらされていたボトルを持ってきたのか、セロテープの苦味がかなりはっきり出てきていた。そんな……あの伊勢丹で見た輝くホワイトジャスミンはどこに?? アーカイブコレクションの中では、ブルーアガバ&カカオ、バニラ&アニスがとてもよかった。ブルーアガバはシトラスっぽい爽やかなトップ、つけて10秒くらいで甘くないカカオが香って、洋酒のような深みが現れてくる。早くもバレンタイン気分である。バニラ&アニスは、バニラなのにスッキリしているという新体験。スッキリスパイシーでモノトーンな冬の装いによく合う感じ。

それにしても、このイベントは

●VR体験のカウンターに行くと、QRを読み込ませたあと特にVRの見方の説明もなく、特典サンプルだけ渡される。隣の部屋にゴーグルがあるのかな? と思ったらバックヤードに侵入してしまった。結局VRとは何だったのか…(並んでるので引き返して説明を乞うこともできない)

●イベ限定の購入特典が「会場で13000円以上お買い上げ」「WEBショップで11000円以上お買い上げ」「WEBショップで19800円以上お買い上げ」の3種類(店員さんの手元の資料では10種くらい)あって分かりづらい。っていうか何でイベント会場に来たのにWEBで買い物させるねん。何か買う気で来たけど、店舗においてある商品と同じだから欲しい物がない。

●配信では出口の抽選ハズレ無しって言ってたけど、普通にハズレで何も貰えんかった……最終日で商品が足りなくなってしまったのかな?

せっかく良い会場でイベントやってるのに、なんか勿体ないなと思わせる感じ。現場が悪いというよりは企画自体が急ごしらえな印象。現金使えないっていうから入口で引き返して電子マネー3万チャージして戻ってきたのに、何も買いたいものがないなんて……まあnot for meでしたということで。

無題3

このやり場のない香水欲を一体どこにぶつければいいのか……するとヒルズの向かいに、ラグジュアリーの最高峰であるところのエルメスが鎮座ましましているのが見えた。今日こそノマド4本セットを手に入れるべきなのか!? 雪を積もらせたおちゃめな外装と裏腹に、雪だるまに扮したガードマンが非ラグジュアリーな者を排するべく風神雷神的に門番していて、おいそれと近づける雰囲気ではない。傍らの立て看板に「ご予約のお客様優先です」的な文字が見え、そうか、普通は予約をして来店するということなのか……とハイブランドの作法を知った。着古したコートの袖にある毛玉が「大将! こんな装備じゃガードマン戦で敗北決定や」「フレグランスコーナーまで生きて進みたいんだったら、一張羅でキメてから出直してくるんだな!」と口々に叫んでいる。いや、これが家で一番ましなコートなんだけど……

足早にエルメスを通り過ぎ、気づけば副都心線に乗り込んで、すごすごと横浜へ帰っていくのであった。ホームタウンに着いてもフレグランスな気持ちを抑えきれず、ぼんやり歩いているうちに「これ似合いそう♡」「高級ホテルの香りだね」等睦言を交わすカップルで混雑するノーズショップへうっかり吸い込まれてしまった。

何気なく手にとった漏斗の香りで衝撃を受けた。「すげえ! 何だこれ!」柑橘だけど、今まで嗅いだどんなシトラス香水よりも濃く、オレンジ?の重たいフルーティーさや苦味を心地よく誇張している感じ……香水の名前を見ると「MANDARINO|マンダリーノ」。自分が知ってるマンダリンと違う! その隣にある漏斗はレモン、その隣はベルガモット。どれもフルーツをそのまま模写しているのではなく、それぞれが持つ魅力を最大限クローズアップして見せている。オタクが妄想に任せて描いた、ロリ巨乳の萌え絵みたいな感じ。3つの柑橘の隣に、ディスカバリーセットの札があった。「トラベルセット バイ ジャン・クロード・エレナ」エレナッ……! 俺のエルメスはここにあったんだ。箱もなんかオレンジでそれっぽいし。こうして、私は小さな箱を宝物のように抱えて帰宅した。

MANDARINO|マンダリーノ

プッシュした瞬間、「すげえ!」「何だこれ!」を交互に100回くらい言う羽目になる。それくらい新体験だった。本物のマンダリンの果汁を絞ってもおそらくこれほどフルーティーにはならない。午後の紅茶レモンティーを一晩煮詰めてカラメルにしたような、渋み・苦味の中に生まれる濃ゆい芳醇さ……そこが最大限誇張されている。繰り返して言うが、これは本当に萌え絵の世界。実物はこうではないけれど、マンダリンのこういう部分が好きなんだ!!! というどストレートな熱意が伝わってくる。そういえばエレナがビガラードコンサントレか何かの説明で「ホンマに柑橘が好きやねん~♡」みたいなことを言ってた気がするけど、出典が見つからなかった。次の「ベルガモット」の説明にも「正直言って、ベルガモットが好きです」みたいな事が書いてあるし、色んな所で柑橘愛を語っているんだな。

BERGAMOTTO|ベルガモット

何の香りが好きか?と尋ねられる度に、私は好きな香りはないと答えてきた。調香師には神秘性が必要だからだ。本当はどんな人間にも香りの好みは存在する。いま初めて打ち明けよう。私はベルガモットを愛している。

ベルガモット ― 公式通販 NOSE SHOP

愛! 今この手首の上にあるのは紛れもない愛。最初の数秒で酸味はフワーッと解散してしまい、長く残るのは紅茶の缶を吸い込んだときのいきいきとした茶葉の香り。皮の表面ににじむようなオイルの苦味もほのかにある。3mlボトルなのに驚くほどスプレーの霧が細かくて、薄いヴェールでサラッと撫でたかのような量しか乗らない。手首だと香りがあまり届いてこないが、お腹にシュッするとふとした時にふわっと紅茶の香りがして癒やされる。

同じエレナ作のザ・ディファレントカンパニーのベルガモットは、トワレなのに割とはっきり香って、酸味を新築のヒノキのようなさわやかグリーンで長持ちさせているグリーンアロマティック。同名の別キャラ。よく見たらラボラトリオの方はイタリア語でBERGAMOTTO、ディファレントカンパニーはフランス語でBergamoteなんだね。まだ英語のBergamotが残ってるし続編があるかもしれないな。

LIMONE|リモーヌ

吹きたてはレモンピールの砂糖漬けのようでいい感じ。旨味を凝縮させたドライな果肉の気配もある。ただ、油をさしたばかりの金属のような、鈍い苦味?が頭痛を引き起こして辛い部分がある。これはフエギアのほとんどの香りやルラボのANOTHER13に分かりやすく出ているやつで、共通点を探すとどうやらアニマルムスクらしい。リモーぬにもホワイトムスクが入っていて、レモンの影に隠れた獣が鋭い爪を研ぎ澄ましてこちらを窺っているようである。本当にムスクなのかな?(鼻に自信がない)どう考えてもビル外の非常階段の匂いなんだけど……

というわけで、冬の暖かい陽だまりのような柑橘につつまれて、年の瀬を過ごしている。一年を締めくくる香水として思いがけず素敵な出会いがあってよかった(値段的にもおすすめ)。今年は生き急ぎすぎて、あまりにもハイピッチで香りを集めてしまい、香水にハマりはじめた9月からの4ヶ月で150種(ディスカバリーは香りの数ごとに集計)もお迎えしてしまった。いや、セット系は売ってるときに買わないと一生買えないと思って……ディスカバリーしようとしてかえって森に迷い込んどるがな。1日1種でも全然追いつかないし、当然まだ試せていないものもたくさんある。来年は一つ一つを深堀りして、季節ごとの違いも感じられたらいいなと思う。

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