アクロバティックパイ

 私は運転が苦手だ。免許をとったのはもう10年以上前だが、ずっとペーパーだった。会社員時代は往復一時間かけて毎日徒歩で通勤してた。誰かと一緒の時は乗せてもらえばいいし、一人でもバスや電車と徒歩で行けないところなんてほとんどない。車を持たなくても運転しなくてもどうにかなると思っていた。

 娘が産まれてからもしばらくは運転しなかった。抱っこ紐で抱っこしてオムツなどの沢山の荷物を抱え、娘の様子を気にしながら歩くのは一人で歩くの何倍も大変だった。夏は親子で汗びっしょり。冬は暖かいけれど、暖房がんがんの部屋に入った時、服を簡単には脱げない。人に乗せてもらうのも娘と一緒だと気が引ける。6才以下の子どもはチャイルドシートの使用が義務づけられているので、違反で捕まったら申し訳ない。車に乗せてくれるという有難い誘いはほとんど断っていた。

 私が運転できないこともあり、遠くに行くときはいつも旦那と一緒だった。娘が泣くと車をコンビニに停めて授乳。高速などなかなか止まることのできない場所で泣き始めるともうどうしようもない。チャイルドシートを外すのは危険だけれど、このまま泣き続けたら壊れてしまうんじゃないか。おっぱいをくわえさえできればすぐに寝るはずなのに。おっぱい取り外しできたらいいのに。困った私はある技を覚えた。「アクロバティックパイ」と旦那はそう呼んだ。チャイルドシートに座っている娘に私が覆いかぶさるように移動することによっておっぱいを飲ませる。もちろん危ないので真似はしないでほしい。

 長女の体重が重たくなり、保育園の送り迎えが始まり、長女が一歳を過ぎるころ、私が運転せざるを得なくなった。次女が産まれ車を軽自動車から大きい車に買い替え、さらに私が運転する機会は増えた。もう苦手なんて言ってられない。2人連れて荷物抱えて歩くなんて無理。今の私にとって車は本当に有難い移動手段だ。さらに、車があればどこでもおむつ替えと授乳ができる。子育てに優しい街を謳っている場所でもなかなかその二つの場所を見つけるのは難しい。荷物を気にすることなく買い物もできるし、ベビーカーを積んでおくこともできる。本当に車は便利な空間だ。駐車は未だに下手すぎるが、それでも以前に比べるとだいぶ運転は上手くなった。

 そこそこ運転できるようになった今でも時々徒歩を選ぶ時がある。次女は車が大嫌い。座るとすぐに眠ってしまっていた長女とは違い、機嫌が悪いとかなり泣く。特に眠たいときは一時間近く泣き続けることもある。私が運転しているのでもうアクロバティックパイもできない。だからおっぱい飲ませてそのまま眠ったときは車に乗らずに抱っこしたまま歩く。便利だし体力的には楽な車だけれど、泣いているわが子を放置したまま二人の命を乗せての運転は本当に精神的につらい。やっぱり私は運転が苦手だ。

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