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俺は変われるのか【舌癌編】⑨

術後、経過はほぼ順調であった。

心配していた、頸部郭清の影響で腕が上がらなくなる等の後遺症はなかったが、耳から唇にかけて、顔面の麻痺は残った。

発音テストも行われた。
「か」行や「ら」行が言いづらかったが、スコアとしては上々。

舌癌と食道癌はワンセットのようで、胃カメラも飲んだ。
胃は、以前ピロリ菌に侵されていた経緯があって、そのピロリ菌由来の胃炎跡があった以外は何の心配もないようだ。
因みに、ピロリ菌は除菌済。

食道もキレイなようで、何の心配もいらないようだ。 

そうこうしているうちに退院の日を迎えた。

結局、僅かな転移でも、転移は転移。
主治医からはステージ4と告げられ、退院の日にブービートラップを仕掛けられた気分になった。

…時は少し流れ、退院のしてから3ヶ月後、患側の中咽頭部に、外見は扁桃周囲膿瘍のような腫れが発生していた。

そして、1ヶ月ごとの検査の3回目を迎えた。

主治医はその腫れを一瞥し顔色が変わった。
そして主治医は、主治医グループの若手医師を呼び集めた。

【主治医】「組織を取らせて下さいね。」

麻酔の注射針が口の奥に刺さる。

程なくして感覚が無くなる。
 
今度はメスが口の奥に突入。口蓋垂辺りをガリガリしている。痛みは無い。

「ガリガリ」が終わったと思ったら、今度は止血の為に?バイポーラが口に入る。
口の奥から「ジュ」といった音が聞こえて来ると同時に、焼き鳥のカワがこんがり焼けた様な臭いが漂った。

一通り処置が終わり、改めて主治医の診察へ。

【主治医】「喉の腫れですが、病理の結果で確定しますが、診たところ、炎症の可能性が1割、悪いもの(ガン)の可能性が9割です。ですが舌癌の再発とみていいと思います。とてもショックです。腫瘍の様子から手術はできません。陽子線での治療をお勧めします。これから陽子線治療の担当医師に連絡を取り、診察の予約を致します。紹介状や画像データなど、これから急いで作成しますので午後に取りに来て下さい。」

またまたショックドクトリン状態で、「再発早いなぁ…」と「確か陽子線治療って治療費高いヤツやん…」位しか考えていなかった。

診察室を出ると、午前の診察が終わっていたせいで、廊下には妻だけしか居なかった。
待っていた妻の顔は、緊張していてこわばっている。
その妻に対し、開口一番またまた戯けてこう言った…

「再発再発〜」

妻は泣き崩れてしまった。

戯けた事を後悔した。

死ぬかもしれないつらさより、妻をこうして不幸にしてしまう事の方が何倍もつらかった。

午後、主治医から紹介状と、画像データやカルテの入ったDVDを受け取る。

【主治医】「紹介する病院は東北にあります。もし治療をするとなると、数ヶ月は入院になると思います。入院中は放射線治療と化学療法が行われるかと思いますが、それらの副作用は結構つらいものです。もしつらくなったらいつでも電話下さいね。
紹介先の先生は女性でとても優しいですよ。その先生の治療を受けて殆どの人が元気になって帰って来ています。なので頑張って来て下さい」

この診察から一週間後、私は紹介先の東北の病院へ妻と向かったのだった。

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