こぶたのグミ

中学1年生の春、「リーダー研修会」なるものに参加した。
その夜のできごとが、四半世紀経つ今でも忘れられない。

「少年自然の家」的な宿泊施設に1泊するプログラムで、中1と中2の各クラスの中から、委員長や班長を務める生徒5~6名ずつが参加対象だった。
わたしはそのとき委員長でも班長でもなかったけれど、担任の男性教師に「柴田は、参加して」となんとなく推薦されてなんとなく参加した。

どんなイベントをこなしたのか、はっきり言ってほとんど覚えていない。けれど、その初日の夜のことだけが鮮明に胸に焼きついている。

1年生と2年生が混合となるよう部屋割りされていて、1部屋に2段ベッドが4つほどあったので、8人部屋だったのだと思う。
日中の研修内容が終わり入浴も済み、就寝時間となった頃、2年生の先輩が
「はーいっ、じゃあみんなにお菓子を配りまーす」
と言いだした。
みんなきゃあきゃあはしゃいで円座になり、手を差しだした。わたしの手にも、先輩は3つ、カラフルなこぶたの形のグミを乗せてくれた。

突然、部屋の扉がバンと開いて、見回りの教師が立っていた。
みんな、凍りついた。
小柄だけれど気の強い、怒ると恐いことで有名な女性体育教師だった。
彼女は一瞬で状況を把握して、
「何やってるの!来なさい!」
と怒鳴り、お菓子を配っていた先輩を半ば引きずり出すようにして連れて行ってしまった。

30分にも3時間にも思える長い時間のあと、先輩は泣きながら部屋に戻ってきた。
戻ってきて、ベッドに潜りこんでもずっと泣いていた。
誰も何も言わなかった。
消灯した部屋の中、先輩の泣き声だけがいつまでも響いていた。

暗闇の中で、わたしはそっと手のひらを開いた。
赤や黄色の、こぶたのグミ。ずっと握りしめたままだったのだ。
布団に潜ってそっと口に入れる。
人工的な甘酸っぱさは、13歳の小さな胸をさらに締めつけた。

どうして、学校行事にお菓子を持ってきてはいけないのだろう。
遠足ではないから?「リーダー研修会」の名にふさわしくないから?
今でもわからないのだ。
高学年から低学年へお菓子を配ることは、コミュニケーションをはかる意味でも有意義な行為ではないのだろうか。
また、食べ盛りの成長期である中学生に間食を禁じることに、何の意味があるのだろうか。
年頃の女子生徒たちの部屋のドアをノックもせずに開け、悪意のない生徒を引きずり出すことよりも、就寝時間にみんなでお菓子を食べることは悪いことなのだろうか。

大人になってもわからない。
ただ、あのとき先輩の涙を止める術を持たなかった自分の無力さが、ことあるごとに苦々しく胸に蘇る。

手の中でグミは溶けてく先輩の泣き声響く宿舎の夜に/柴田瞳

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柴田 瞳

rain drops

柴田瞳の短歌つきエッセイ・コラムです。
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