note第11回

ヒット作りのために必要な串焼き屋のマスター的なセンスとは

連日猛暑が続いています。お盆休みも近く、仕事終わりに仲間と串焼き&ビールを楽しみにしている人も多いのではないでしょうか。

私も懇意にしている串焼き屋があって、その店のカウンターに座っていた時、あることを感じた瞬間がありました。

それは「音楽プロデューサーの仕事は、串焼き屋のマスターの仕事に似ているのではないか」ということです。

そこで今回は “ 串焼き屋のマスター的発想 “と “ ヒット曲作り “の例え話です。

串焼きにはたくさん種類があります。定番のねぎまにはじまり、もも、ぼんじり、なんこつ、砂肝、手羽先、鶏皮、つくね、それにタレか塩か……

オーダーを受けたマスターは、仕込みを終えた串を取り出し、火であぶりながら焼き加減を見てひっくり返したり、うちわで扇いだり、一本の串焼きが最高な状態でお客さんの手元に運ばれるまで、責任を持って最初から最後まで細やかに気を遣います。

カウンター越しに口は動いても、串から目を離すことはありません。まさにこれがデモ音源から楽曲を仕上げる感覚と似ているなあ、と感じたのです。

例えばオリジナル・アルバムやベスト・アルバム、コンピレーションなどの曲順を決める際も、コンセプトという “串“ に、楽曲という “具を順番に刺していくようなものです。途中で飽きさせないように流れを変えたり、一気に畳み掛けたり、様々な演出力が要求されます。

そして何より焼き過ぎず、生っぽ過ぎず、コゲは論外。程よい歯ごたえや味覚を微調整する流れが、音楽制作とよく似ているのです。

“ ねぎま “ の謎

話は逸れますが “ねぎま“ はどうして鶏肉だけでなく、途中で “ねぎ“ を挟んでいるのでしょうか。

調べたら元々 “ねぎま“ とは、江戸時代には “ねぎ“ と “マグロ“ の鍋料理のことを指したそうです。

そんな料理があったのか!と驚いたのですが、 “ねぎま“ の「ま」は、ねぎが鶏肉の「間」に刺さっているからだと思っていたのですが、実際にはマグロの「ま」だったのです!

のちにシンプルになり、ねぎとマグロをただ串に刺して焼く料理に変わっていったのですが、年々マグロの値段が上がっていったため、代案として安い鶏肉を使うようになり、現在の “ねぎま“ の形になったそうです。

残念ながら昔ながらの呼び名だけが残り、主役であるにも関わらず、具材の名前が入ることはありませんでした。

気を取り直して話を戻します。

最近の串焼きの具材には、シシトウ、しいたけ、タマネギ、にんにくの芽、エリンギ、アスパラ、ベーコンなどがあり、意外なところではプチトマトなんかも入っている串焼きもあります。

串焼きに限らず、日本発の “明太子パスタ“、“納豆パスタ“ なんかもそうですが、それぞれ一つ一つの素材自体は、なんてことのないありふれたものであっても、その順列・組み合わせによって、意外な味が生まれ、人気メニューになっていくということがあります。

音楽でもそうです。もともとは別曲だったのを、「組み合わせて一曲にした方が良いのではないか」という一瞬の閃きで、Aメロとサビをそれぞれ別の曲から持ってきて、合体させた曲がヒットした例も多数あります。

その結果ヒットした時は、まさに “串焼き屋マスター“ としての面目躍如です。

これは曲を作っている本人には難しい発想です。曲を分解して切り貼りすることなんて、全く考えていないわけですから、理解してもらうにはかなりのエネルギーを要します。

しかし、曲作りや曲構成も一本の串焼きと同じです。

最後までリスナーを飽きさせないよう、“不自由さの中で、いかに自由に演出できるか“ を考えるべきで、時にはその柔軟性も大事なのではないかと思います。


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