ヒットのバーを跳び超えるために必要な発想とは
いつも読んでいただいてありがとうございます。
Music Peelerとしての投稿は今回で10回目になります。たかが10回ですが、様々な世代やジャンルの人たちに伝えたいこともあり、もう少しこういった形での発信を続けたいと思っています。
さて、今回はTOKYO 2020まであと一年ということもあり、“走り高跳び “ 目線と “棒高跳び“ 目線の 例え話です。
アルバム完成直前まできて、最後の最後で行き詰まることがたまにあります。曲も出尽くした感もあり、なかなかキラー・チューンになるような作品ができない。
それまでずっと集中して臨んできたため、本人もスタッフも、もがき苦しみます。
「ここまで来たら勢いだ。あと1曲だから気楽に行こう」と楽観的に励ましても、納得しないものは出してきません。ただ時間だけが経過していきます。このままではリリース日に間に合わないと全員がヤキモキしていきます。
「ちょっとさ、これまでに作ったもの聴かせてもらっていい?」
張り詰めた空気を抜くために、そう提案してみます。
「ボツにしたものでよければあります。発表はできないですけど」
本人は頑なです。渋々デモ音源を引っ張り出し、心ここにあらずの状態でプレイバックします。
「いいじゃない、これ」
「えっ、本当ですか?」 予想外の反応に目を丸くします。
「この曲にしよう!」 心底そう感じたので、そう伝えます。
「えっ、こんなの “で” いいの?」 不安げな表情で訊いてきます。
「そう、こんなの “が” いいの!」 自信に満ちた表情で言い返します。
この会話で最後の収録曲が決定したのです。
両者の違いは “で” と “が” の助詞の差です。これで会話が成立したのです。話だけ聞いていると稀なケースだと思うでしょうが、似たようなケースを含め、こういったことがよくあるのです。
理由はシンプルです。アルバムの制作作業は「もっともっと良い曲を!」と掛け値をどんどん上げながら進行していきます。
例えるなら、はじめは “走り高跳び “ のバーの高さだったのが、気づいたら “棒高跳び“ のバーの高さに目標設定が変わっているようなものです。
誰も競技ルールを変えていないのですが、それに気づかないくらい集中しているわけです。曲作りも自然体ではなく、力が入ってきます。
この時のマインドは、最後の力を振り絞って、自分の脚で “棒高跳び“ のバーを越えようとするようなものです。
もちろん、モチベーションとしてはとても大事なことです。もし跳べたら人類史上初の記録になりますし、跳んだ瞬間、奇跡的に神風が吹くかもしれないと、ほのかな期待を寄せるわけです。
実はこの時点で本人がNGにしたものの中には、シンプルで、肩の力が抜けていて、ヒット・ポテンシャルのある曲が眠っていたりします。
つまり“走り高跳び “ なら、楽々バーを超えている曲が、隠れて眠っているケースがあるのです。
そこで発見された曲に、少し手直しを加えた結果、大ヒットシングルになったり、ファンの間で人気曲になったりして、幸ある未来を引き寄せたということが何度もありました。
そして最終的には “棒高跳び“ のポールの “しなり“ の勢いが加わって、バーをラクラク超えていく作品になっていったのです。
音楽コーチは時にはこういった発想も必要です。
“棒高跳び“のポールは、曲を聴いてくれたリスナーやファンが後から差し出してくれるものです。我々はあくまでも “走り高跳び “ の目線で臨むことが大事なのではないでしょうか。
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